【3-7.ポルスキーさんの叔父】
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さて、ポルスキーさんは、昔の記憶を手繰り寄せ、クロウリーさんを連れてなんとか叔父の家までテレポートした。
「あ、意外。成功した」
ポルスキーさんは思わず弾んだ声をあげた。
この声を聞いて、クロウリーさんは「まさか辿り着くと思っていなかったのか?」と心の中でぎょっとする。
ポルスキーさんの叔父、ザッカリー・エンデブロック氏の邸は、奥深い森の巨木の下にあった。樹齢数百年くらいのごつごつした樹。周辺は薄暗い。そこに、重厚な造りの平屋の邸が立っていった。
ポルスキーさんとクロウリーさんが、邸に向かって歩いて行くと、急に門がぱっと開いたので二人は驚いて足を止めた。
目の前にポルスキーさんの叔父、エンデブロック氏が立っていた。
茶髪にふわふわパーマをあてて、ピアスをしている。女顔だが、体つきは締まっていて威圧感を放っていた。ゆったりしたラフな格好に、たっぷり生地のローブを軽く肩に引っかけている。
口元は笑みを湛えていたが、目は笑っていない。素早くクロウリーさんにちらりと冷たい視線を投げかけてから、ポルスキーさんの方を見た。
ポルスキーさんの背に緊張が走った。
「お、叔父さん、私が来ること分かったの?」
クロウリーさんもだいぶ戸惑った顔をしていた。
エンデブロック氏はゆっくりと笑った。
「まあね」
「いやでも、急に門が開くんだもの、驚いたわ……」
「ははは、そんなことより男を同伴してるなんて、ミリー(※ポルスキーさんの母)に報告しねえとな」
エンデブロック氏は悪戯っぽく言う。
ポルスキーさんはぎょっとした。
「あ、ちょっと、それはやめてっ! すぐに飛んできて、結婚の外堀を埋められてしまうっ! あ、クロウリーさんも『いいこと聞いた』って顔しないでよ!」
そして、すぐさま不自然な早口で、
「あ、あれよ、魔法協会で奇妙な呪い事件があって、シルヴィアって人のかけられた呪いなんだけどさ、その件で来たの。い、いろいろ参考に、話聞かせてもらいたくて!」
とまくし立てた。
するとエンデブロック氏は、さっきまで楽しそうに笑っていたのに急に面倒くさそうな顔になった。追い出したそうな仕草を見せたが、ポルスキーさんが少し思い詰めたような目をしていたので仕方なく二人を家の中にあげ、応接室のゆったりとした長椅子に座らせた。
ポルスキーさんは居心地悪そうに長椅子に浅く腰掛けながら、
「魔法協会の、シルヴィアって人の呪いの件、聞いた?」
と叔父に尋ねた。
エンデブロック氏は「あー」と首だけで肯いた。
その仕草があまりに中途半端なので、ポルスキーさんは「叔父さん何か知ってるな」と思った。何も知らなかったらもう少し詳細を知りたがると思ったからだ。
「もしかして、叔父さんが作った?」
ポルスキーさんは単刀直入に聞いた。
横でクロウリーさんが息を呑んだのが分かった。
しかし、エンデブロック氏はバカにしたような目になり、
「いや。あんな雑な呪い、俺が作るわけねえだろ」
とあっさり否定した。
「あ、ああ、そう……?」
先日はさんざんクロウリーさんやデュール氏の前で「見たことない呪いだ」と騒いでいたのに、叔父には軽く「雑な呪い」と断じられてしまって、ポルスキーさんはなんとなくきまりが悪くなった。
「へ、へえ、じゃあ誰が作ったの」
「知らねえよ。いちいち男の名前覚えてられるか」
とエンデブロック氏はどうでもよさそうに答えた。
「じゃあ、作った人物に会ったことはあるってこと?」
ポルスキーさんがシルヴィアの件への叔父の関与を確かめるため質問を重ねようとすると、エンデブロック氏は不審そうな目をした。
「なんでそんなことを聞く?」
「あ、そ、そりゃ、私にとっては複雑で厄介な呪いだったのだもの、作った人が気になるわ」
とポルスキーさんはちょっとドキッとしたが、なんとかもっともらしい言い訳を述べた。
「ふん」
エンデブロック氏はポルスキーさんの言葉に興味なさそうに、
「ヒントをくれと言ってきた奴はいたような。だけど何を言ったかまでは覚えてねえ」
と大あくびをした。
しかしポルスキーさんにはそれで十分だった。やはりシルヴィアの件に叔父が何かしら関わっていたことが分かったから。
ポルスキーさんは陰鬱な気持ちになった。それから、
「叔父さん、あの呪いをかけるためにシルヴィアって人が殺されてるのよ」
と叔父の態度を窘めた。
すると叔父はようやく話に乗ってきた。
「殺されてる? んなわけあるか。魔法協会の結界が邪魔で人を殺すわけにはいかないさ。それは俺でもな」
「でも実際――」
「自殺だろ。自殺に追い込む方は制限も何もないからな。恋する女とかだったんだろ? うまく誘導すりゃ自殺くらいするだろ」
「叔父さん!!!」
「俺はやってねえよ」
「でも、そんな言い方!」
ポルスキーさんは少し怒気を含んだ声で叫んだ。
エンデブロック氏は意外そうな目でポルスキーさんを見てから、少しトーンを落とした。
「同情してるのか、その女に。そういや、おまえがその呪いを解いたんだっけ。――にしても、魔法協会の結界係(※デュール氏のこと)と通じてるって、おまえの人脈どうなってんの? マクマヌスの要請も断ったんだって?」
ポルスキーさんの隣でクロウリーさんがハッとした。
ポルスキーさんは「当たり前でしょ」といった顔を叔父に向けた。
「断ったわよ。そういうの興味ないし。ってゆか、なんで副会長の要請を断ったことを叔父さんが知ってるのよ!」
「そりゃーマクマヌスから文句言われたからさ。おまえの姪は何様だって。おまえの下で働くような姪じゃねえよとは答えておいたが」
エンデブロック氏がさも当然かのように答えるので、ポルスキーさんは一瞬押し黙った。
それから、ポルスキーさんは非難するような口調で言った。
「やっぱり叔父さんと副会長は通じてたのね。死の魔法ってワードが出てきたから疑ってはいたのよ。でもまさかこんなに堂々と認めるとは思わなかったけど」
エンデブロック氏は非難の空気に少し苛立ったようだった。
「あ? 別に仲良しこよしってわけじゃねえよ。ただ死の魔法の規制に関しては俺も不便極まりないから、少し協力してやることにしたんだよ」
ポルスキーさんははっきりと言った。
「私は死の魔法は規制したままでいいと思う」
「いいや。何でもかんでも死の魔法と決めつけて制限しすぎだ。やりたいことがちっともできねえ」
エンデブロック氏は吐き捨てるように言った。
ポルスキーさんは叔父を睨んだ。
「叔父さんが魔法に対して自由過ぎるのよ。いつも新しい魔法体系を作るって偉そうにして、そのためには倫理も何もないんだわ」
「倫理? それは使う奴が考えればいいことだ。俺は魔法そのものにしか向き合ってない。倫理もくそもねえよ。ただ現状、魔法協会の結界でそれっぽい魔法は無分別に無効化される。この無分別ってところが腹立たしい。もういっそ結界を破ってやろうとまで思ったが、さすがに魔法協会の結界破りは法に触れるからなあ。本当、つまらん法律を作りやがって」
エンデブロック氏は吐き捨てるように言った。
ポルスキーさんは少しほっとした。
「今のところは法を犯す気はないのね、良かったわ」
「俺を何だと思ってんだ。俺は至って真っ当にやってる」
エンデブロック氏は心外な顔をした。
しかしポルスキーさんは表情を崩さない。
「真っ当に死の魔法を研究しているの?」
「死の魔法なんか研究してねえよ。だって死なんてありふれてるだろ。人間何したって簡単に死ねるんだ。つーかむしろ俺に教えてくれよ。何が死の魔法で、何が死の魔法じゃないか。魔法で火を起こしたとして、それが大やけどにつながったら人は死ぬだろうが。くっだらねえ、何だよ、死の魔法って!」
エンデブロック氏は鋭い目でポルスキーさんを見返した。
ポルスキーさんは睨み返した。
「叔父さん。私はさっきから叔父さんが何を喋ってるか、さっっっっぱり分からないんだけど。私が一番肝心なところを聞いてないせいだと思うのよね。ねえ。そもそも叔父さんは、今、何の魔法を研究してるの? そして、それはやらなくちゃいけないものなの?」
エンデブロック氏はハッとした顔をした。
そして明らかに一瞬狼狽した。
その顔を見てポルスキーさんは驚いた。
「え?」
エンデブロック氏はふいっと顔を背けた。
「こっちにも色々事情があるんだ」
それから急に声色を変えた。
「――おまえが魔法協会の結界係と知り合いなら、おまえ経由で便宜を図ってもらってもいいんだ。俺だって、マクマヌスがどうとか派閥がどうとか、そんなものはそもそも興味ねえんだからな」
ポルスキーさんは、急に叔父が論調を変えたので戸惑った。
「え? 叔父さん、何を言って? え?」
エンデブロック氏は挑発的な目でポルスキーさんを眺めた。
「結界係、名前なんだっけ?」
「アシュトン・デュール氏のこと?」
「へえ。覚えた」
「は? 覚えたって……?」
「これで俺は駒を二つ手に入れたわけだ。マクマヌスとデュール。俺にとってはどっちに転んでもいいんだ。おまえの働きに期待しているよ、イブリン」
エンデブロック氏はにやりとした。
ポルスキーさんは混乱していた。
「え、ちょっと待って待って待って! 話が変わり過ぎてついていけてない! アシュトンに便宜を図ったらって――、それってこっちの味方になるってこと? それとも、私とアシュトンを脅してるってこと? 言うこと聞かないと私たちと敵対して副会長側につくぞ的な?」
アシュトンと聞いて、クロウリーさんがハッと顔を上げてポルスキーさんを見た。
エンデブロック氏はきょとんとした顔をした。
「いや? デュールが俺の望む通りに結界を調整してくれたら、別にマクマヌスはいらないんだが?」
「だから、そんな勝手に調整なんかできるわけな……」
「調整の法的正当性は俺からデュールにきっちり全部説明してやるさ! 問題ない」
「……」
問題ないときっぱり宣言されて、ポルスキーさんは押し黙った。
エンデブロック氏の目が少し柔らかくなった。
「イブリン。そのデュールって奴にうまく言っておいてくれ。便宜を図ってくれるならマクマヌスとは手を切る」
「叔父さん、本当に法の範囲内なのね?」
ポルスキーさんは念を押した。
エンデブロック氏は大きく頷いた。
「ああ。死の魔法って言い方的にはぎりぎりなのは認めるが、大丈夫だ。俺は人を殺したいわけじゃない」
「分かったわ……」
ポルスキーさんはふうっと大きく息を吐いた。
エンデブロック氏はニヤリとした。
「よし、それでいい。――それと、あともう一つ。さっきからそこで空気読んで沈黙守ってるおまえの彼氏、そいつの名前を教えろよ」
ポルスキーさんは飛び上がった。
「もう彼氏じゃないし!」
「へえ?」
エンデブロック氏は面白そうに口元を歪めた。
「ヒューイッド・クロウリーだ。魔法協会の魔法犯罪対策の部門にいる」
とクロウリーさんが堅い口調で自ら名乗った。
エンデブロック氏は肯いた。
「犯罪対策ね。俺のこと多少知ってそうな顔してんなと思ったらそういうことか。――それで俺の名前はブラックリストに載ってるってわけ?」
「先日のシルヴィア・ベルトーチの関わる呪い事件については名前が挙がっている。少なくとも、有識者としてあなたの意見を聞きたいと皆が思っている」
クロウリーさんが正直に言った。
「ふうん、有識者ねえ。じゃあ意見言ってやろうか、あの呪いについて」
エンデブロック氏が楽しそうに言い出したので、ポルスキーさんが負けじと声をあげた。
「あれは、『鏡の呪い』だわ! シルヴィアの死に鏡の役割をさせた」
ポルスキーさんの言葉を聞いて、エンデブロック氏は嬉しそうに「ははは」と笑った。
「鏡? あれを鏡と言うか。だがまあ、だいたいそういうことだ。さすが俺の姪だな」
『魔術師の小部屋』
ポルスキーさんの叔父、ザッカリー・エンデブロック氏
<イラスト:ウバクロネ様>
お読みくださいましてどうもありがとうございます!
え、叔父さんが犯人じゃない……?
しかもポルスキーさんの出方次第じゃ味方になってくれる?
作者もこの展開にはびっくりでした。
次回、クロウリーさんとポルスキーさんが仲たがい……。クロウリーさん、ちょっとイライラが爆発してしまったみたいです。←気持ちわかる





