【2-8.デュール氏の復職】
さて、解呪に成功したので、ポルスキーさんとクロウリーさんは約束通りデュール氏を魔法協会まで送り届けた。
デュール氏が魔法協会に戻るというので、クロウリーさんの上司をはじめ協会のお偉いさんたちは大喜びした。
「助かりますよ! これで魔法協会の副会長たちの一派がねえ、大人しくなってくれればいいのだけど」
「そんな簡単にはいかないでしょう。実際副会長派の思想に賛成の者もたくさんいるんだ」
「でもデュール氏の人気も強いですからね。戻ってきたとなっては副会長派に靡いていた者も戻ってくるかもしれない」
デュール氏は肯いた。
「思想はね、いろんな考え方の人がいるでしょう、それはまあいいです。でも僕は自分の要求のために強引な手法を取るのは好きじゃないので、そういった意味では僕を失脚させた副会長派の手口は気に入らない。戦わせてもらう」
そしてデュール氏はさらに続けた。
「厚かましいかと思いますが、前の職務にも就かせてもらえますか。結界の管理などの」
「もちろんですよ、デュール様」
協会のお偉いさんたちも頷いた。
「それからもう一つ。僕のアシスタントにこちらの女性を迎えたいのだけど」
そう言ってデュール氏がポルスキーさんの肩を抱いた。
クロウリーさんが目を剥き、デュール氏を睨むと、
「お断りします!」
と冷たく言った。
デュール氏が迷惑そうな目をした。
「あのさ、君は何? ずっとイブリンの傍にいるけど」
「気安くイブリンと呼ばないでください。イブリンは私の恋人です」
「えっ! そうだったのか!?」
デュール氏は愕然とした顔をした。
ポルスキーさんはぎょっとした。
「ち・が・い・ま・す! もうきっぱり別れてます!」
「別れて……? 付き合っていたのは本当なのかい?」
「はい、でも、クロウリーさんは仕事人間なんで別れました! 私はもっと一途に愛してくれる人がいいんです」
クロウリーさんは憤然として言った。
「一途に愛している」
「嘘つけ!」
「イブリンだって水晶玉の件では私の同僚にヤキモチをやいていたろう」
「あ、あんなのヤキモチじゃないし。ってゆか、余計なことは言わなくていいのよ!」
ポルスキーさんは赤面して口ごもった。
そのやりとりを聞いていたデュール氏は冷静を装いながらポルスキーさんに尋ねる。
「えっと、聞いていいかな。どれくらい付き合っていたの?」
「めっちゃ具体的に聞きますね。1年ほどでしょうか」
そうポルスキーさんが答えると、クロウリーさんがすかさず横から訂正した。
「別れていないので4年ほどです」
「3年前にきっちり別れています!」
ポルスキーさんが訂正しなおす。
デュール氏はうーんと唸った。
「3年ずっとこんな感じでやりあってるの? それはなかなか手強いなあ」
「手強い?」
「あ、いや。こっちの話。まあでも、今付き合ってないなら、いや別に付き合ってたとしても、僕のアシスタントとして働いてもいいんじゃないか? イブリンはすごいよ。あのアイテム数。無敵じゃないか! 僕とイブリンが組めばたぶんこんな問題はすぐ解決するさ。仕事、仕事のパートナーだよ。理解してくれる? クロウリーさん」
デュール氏はもっともらしい口調で言った。
しかしクロウリーさんは頑なだ。
「ご理解いたしかねます。イブリンは魔法協会の職員ではないので。というか、イブリンは完全な社会不適合者なので、組織などで働くのは無理です」
「社会不適合者って、そんなひどい言い方……! 君ら付き合ってたんだよね?」
デュール氏は呆れて確認しなおす。
しかし、デュール氏に批判的な言い方をされても、クロウリーさんは態度を変えなかった。
「ええ。だから私がよく分かっています。イブリンを扱うのは相当厳しいです。あなたに協力が必要なら私がご協力します。イブリンへのお手伝いの要請は私経由でやってください」
「いちいち君を挟むのが嫌だからイブリンをアシスタントにって言ってるんだよ」
「下心はないと誓えるんですか」
「それは誓えない」
「だったら絶対に許可しません」
「だから! 君はイブリンの何なんだ!」
デュール氏が天を仰ぎながら叫んだ。
「二人とも、さっきから気安くイブリンって呼ばないで!」
ポルスキーさんはきっぱりと言った。
「デュールさんも勝手に仕事のパートナーとかアシスタントとか言ってますけど、私は魔法協会で働く気はないんで!」
クロウリーさんが心なしかほっとしたような顔をする。
しかしそのクロウリーさんの方に、ポルスキーさんは険しい目を向けた。
「それにね、クロウリーさん。水晶玉のアレもさ、同僚で何か試したのか知らないけど、私の目の前で嘘でも別の女性とデートの約束をしちゃうのは嫌。付き合ってるときから、どこか仕事には変な割り切り方を見せるんだもの。そんなの気持ちが持たないわ」
デュール氏が心なしかほっとしたような顔をする。
ポルスキーさんはそうやってはっきり宣言して腕を組んだ。
「そもそも私はね、魔法協会には魔法薬草の輸入の件で来ただけなのよ。とんだ邪魔が入ったけど、まずはそれを片づけてくるわ。じゃあね」
ポルスキーさんはふんと鼻を鳴らしてそっぽを向くと、階段を降りようとした。
「イブリン、輸出入管理課は上の階だ」
クロウリーさんが呼び止める。
ポルスキーさんは間違いに恥ずかしくなってちょっと顔を赤らめたが、何も言わず、取り澄ました顔をして、今度は階段を昇ろうとした。
が、そんなポルスキーさんにデュール氏が追い打ちをかける。
「あ、たぶん、輸出入管理課の受付時間はもうとっくに過ぎているよ」
ポルスキーさんは無言でだんだんっと足を踏み鳴らした。恥ずかしかったからだろうか、思い通りにいかなくて苛々したからだろうか。
そしてポルスキーさんは大きく深呼吸すると、振り向きもせず、そのまま魔法協会から出て家に帰ろうと階段を降りていったのだった。
クロウリーさんとデュール氏は思わず顔を見合わせたが、互いの顔を見た瞬間ハッとして、すぐに背を向けた。
クロウリーさんの上司をはじめ協会のお偉いさんたちは、いったい何を見せられているのかといった気分だったが、気を取り直して、
「それではデュール様、手続きの方を。あとは、理事への復職の手順についてこれから話し合いましょう」
と提案したのだった。
デュール氏は頷いた。
「そうですね、副会長派は反対するでしょうし」
「ええ。もうあなたが魔法協会を訪れたのはしっかり噂になっていますから、副会長派に手を打たれる前に、こちらもささっと動かなければなりません」
「分かりました」
「まあ、しばらくはこちらのヒューイッド・クロウリーを使ってください」
「は?」
クロウリーさんが嘘だろといった顔で上司を見た。
クロウリーさんがあんまり嫌そうな顔をしていたのだろう、普段はとても偉そうな上司がびくっとする。
「あ、いや……。でもさっき、自分で……『私がご協力します』って言ってたじゃないか」
クロウリーさんが「あ」と思う。
デュール氏も苦笑した。
「まあよろしく頼むよ、クロウリーさん。あ、いや、これからはヒューイッドと呼ぶから」
「はあ」
クロウリーさんは自分の蒔いた種とはいえ変な顔をした。
ここまでお読みくださってどうもありがとうございます!
とってもとっても嬉しいです!!!
第二章終了です!
次話から第三章はじまります!
ポルスキーさんも魔法協会の陰謀にどんどん巻き込まれていきます~!
デュール氏がレギュラー化するので、クロウリーさんも心労が増えて大変そうです笑
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