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終戦記念日に寄せて 「潮騒の思い出」

繰り返す潮騒、水色の絵の具を溶かしたような穏やかな青い海、青い空に、ぽっかりとかぶ白い雲。 

また、今年も、この海に来てしまいました。

あれは、昭和19年、 今日の様に暑い夏の日でした。

私は、17歳。幼馴染の守さんと結婚したばかりでした。

私は、このふ頭に立って、沖合に浮かぶ一隻の軍艦を見つめていました。


「あのー この船 出して頂けませんか?」

私は、思いっ切りって、傍で網を手入れしていた漁師のおじいちゃんに声をかけました。

「えっ? どうしたんかね?」

私は、その軍艦を指差して

「あの軍艦に夫が乗ってるんです!」

「旦那さんがかね?」

「はい! 昨日 この港に上陸するはずだったんですが 突然 上陸許可が 

 取り消されたようなんです・・・」

「そうかね」

おじいちゃんはそう言って、また、網の手入れを始めました。

「私! 3日かけて やっと ここに来たんです!」

「それは可哀そうに・・・」

「一目でいいから 夫の姿を見たいんです!」

そう言うと、やっと、おじいちゃんは、こっちを向いてくれました。

「で この船であの軍艦に? そりゃ むちゃだよ!」

「ダメですか? 何時 出航するか分からないんです!お願いします! お金なら・・・」

と、カバンから財布を出そうとした私に、おじいちゃんが、

「金なんか ええ! でも 会えるかどうか・・・」

「いいんです 例え会えなくっても あの人の傍に近づけるだけでいいんです!」

おじいちゃんは、無言で、止めてあった小さな漁船に乗って、「もう直ぐ 雨雲が近づいてくる!」

と後ろを振り返ると、山の上に黒い雲が湧き出していました。

「早く乗って!」

「あっ はい! ありがとうございます!」


小さな船は、白波を掻き分けて、強い潮風を受けて大きな軍艦へと向かいました。

「あんた 歳は幾つ?」

「17です! あの人 式を挙げた次の日に出征したんです・・・」

「危ないから しっかりつかまって!」

 船は、だんだんと灰色をした軍艦に近づいて行きました。

と、軍艦の上に、お一人の軍人さんが目に入りました。

私は、なりふり構わず、こう叫びました。

「あのー! 私! 一等水兵の山下守の妻です!」

「あんたら何を考えてるんだ! 危ないから離れなさい!」

「私! この軍艦に乗ってる一等水兵の山下守の妻です!」

「それで!?」

「一目でいいので 夫に会えませんか!」

「そりゃ 無理だ! 早く離れなさい!」

「一目でいいんです!」

「だから それは出来ない! 早く離れなさい!」

この押し問答にたまりかねた、おじいちゃんが、

「この娘さん 三日間かけて、ここに来たんじゃ! 一目でいいから、会わして

 やれえもんじゃろうか!」

と、この軍人さんより偉そうな軍人さんが出て来ました。

おじいちゃんが「艦長さんじゃ」と呟きました。

と、その艦長さんが、私に向かって

「あんた! 見上げた度胸だ!」と。

そして、となりにいた軍人さんに、何やら言うと、

「ちょっと、待ってなさい!」と。

それから、どのぐらい経ったでしょうか、純白のセーラー服を着た守さんが現れました。

一年ぶりに見た守さんの姿は、日に焼けて逞しく見えました。

でも、私は、驚いて声が出なくなり、思いっ切り手を振るばかりでした。

と、おじいちゃんが守さんに、こう叫びました。

「あんた! ええ嫁もろうて幸せじゃのー!」


「出航用意!」

艦長のこの一言で守さんは消えて行きました。

私が守さんの姿を見たのはそれが最後となりました。

守さん? 私は、幸せに暮らしていますよ。

今、この国が平和なのも、あの時代残された私達の為に

命を捧げて下さった皆さんのおかげです。守さん・・・ ありがう!



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