エピソード3 A182
私はA182。私は物語と大きく関わらない。だからあえて、私はA182と呼称する。
今、私は身動きが取れない。
今、私は暗闇の中にいる。
しかし、私に息苦しさはない。
しかし、私に恐怖はない。
私は、暗闇をまさぐる。
私の体長は5フィート1インチ。
私はいる。それをすっぽりと覆う楕円形の中に。
改めて捉え直す。
私は女。十八歳。未婚(同義的なパートナーもなし)。高校三年生。
今は夏。7月10日月曜日。21:14。
今日の最高気温は38.7度。
訂正、これは日本全体でのこと。
(通常は市町村レベルでの最高値を言う)
私は、帰宅の最中だった。
私は、いつもの帰り道、あのトンネルを通った。
では、ここはトンネル?
違う。
私の家?
違う。
私の学校?
違う。
私の友人の家?
違う。
ここは、地球上のどこか。私の知らない場所。
ではなぜ、私はここにいる?
私が自分で移動してきたから?
違う。
私が誰かに移動させられてきたから?
そう。
車に揺られる振動を覚えている。
私は今どのような状態?
意識は、はっきりしている。
他には?
喉の渇きが激しい。空腹でもある。
他には?
心臓の音が、いつもよりもはっきりと感じられる。
他には?
足裏に無数の管がびっしりと刺さっている。
他には?
脇に無数の管がびっしりと刺さっている。
痛みは?
ない。
ブラックミックスジュース……。
???
いいえ、何でもない。
ブラックミックスジュースみたい?
ええ、そう。
私は、これから何をする?
私には分からない。
私は、これから何をする?
私には分からないし、どうしようもない。
逃げて。
逃げられない。
ここから逃げて。
ここから逃げられない。
私はA182。どうやら私の番が来たようだ。
「行こう」
誰かが誘う。
「行こう」
聞き覚えのある声。
「行こう」
いやに近い。
「行こう」
私の喉奥から聞こえる。
「行こう」
でも、私は話していない。
では、あなたは誰?
「私はA182」
そう、私はA182。
「ハーモナイズが完了し次第、合流する」