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別れと、契約

その日は突然やって来た。空を暗闇が覆うと同時に突如大きな穴が現れた。そして、()()はやって来た。


人間以上の力を持ち、魔法と呼ばれる術を使う人ならざる者たち、僕たちはソレを()()と読んだ。


奴らは魔物という下僕を従え次々に村々を焼き払った。僕たちは人間はなすすべもなく奴らに従うしかなかった。


しかし、人々は諦めなかった。力あるものが手を取り合い魔族に抗うため立ち上がったのだ。その中のリーダー、サリークは魔族に支配されていた村々を次々に開放すると、魔族を北へと追いやることに成功した。そして、世界はつかの間の平和が訪れる…はずだった。


そう、魔王が出現するまでは…。


…何もない、砂埃が舞う荒野を僕は一人歩いていた。ゆく宛もなく、ただ旅を続けている。砂埃で視界が悪い中、薄っすらと何かの物陰が見えた。


「町だ」


いや、正しくは町だったか。俺は廃墟へと足を踏み入れた。もう何年も人は住んでいないのだろう、建物は腐り落ち、人の気配はまるでない。今にも崩れ落ちそうな建物の中へ入っていった。


ドアに手を欠けるとギギギっと室内に軋む音が響き渡った。


外は風が強く、ひゆーっと風が通り抜けるたびに建物がギシギシと軋んでいる。ふと、床になにか落ちている気が付きそれを拾い上げた。


積もった埃を払う、どうやら写真のようだ。そこにはにこやかな顔をした家族らしき写真が飾られていた。俺はそれを机の上に置くと、つきあたりにあったドアを開けた。


そこにはベットがぽつんと一つ置かれていた。気がつけばもう辺りも暗くなり、月明かりが差し込んでいる。


夜は魔物が徘徊しだす時間帯だ。これ以上外を動き回るのは危険だろう。荷物を下ろすとベットに体を預けた。


目を瞑ると、辺りはしんっと静まり返る。先程まで吹いていた風も止んで、俺の呼吸音だけが部屋の中に響いていた。


もう、旅に出てから2年はたつだろうか。宛もなくただ、旅をしている。何で俺は旅をしてるんだっけ…あぁそう、確か。


「ねぇ、ミツキは将来何になりたいの?」


「僕?僕はね、将来父さんみたいな立派な騎士になって魔族を倒すんだ!」


「くすっ、あはははは」


「何で笑うんだよぉ」


「だって、だって、ミツキったら剣の扱い方いつまで経っても下手なんだもの」


「うっ、見てろよ僕だって父さんの子だ!いつかトーラにも勝つからな!トーラは女の子だろ、村の女子供を守るのは僕の仕事さ」


「ふふっ、期待しないでおくわ」


僕が14のとき、幼馴染のトーラは才能があったのだろう、村一番の槍の使い手と言われるようになった。それとは逆に僕には全く武術に対する才能が無かったらしい、トーラにはおろか、年下にも負ける始末。決して努力を怠った訳では無い、毎日トーラにも負けないくらい剣を、はたまた槍や弓を鍛錬したが、それが実ることはなかった。


「凄いなぁトーラのお嬢ちゃん、まだ14歳だってのにもう大人にも引けを取らないどころか、圧倒しているよ。将来は王国の騎士団に入れるかもな」


村の中では常にトーラの話題で持ちきりだった。


「ねぇ、ミツキ今日は剣の練習しないの?」


「もういいんだ、僕には才能がないから。もう、分かったんだ。いくらやっても無駄なんだって」


「諦めるんだ、ミツキらしくない。私を守ってくれるんじゃなかったの?」


「っ!いいよな才能がある人間は、僕だって頑張ったさ、毎日血の滲むような努力もした。でもわかったんだよ、世の中努力だけじゃどうしようもないこともあるんだって」


「ミツキにはミツキのやれることがあるはずよ」


「トールはこれからどうするのさ」


「私は…騎士団に入ってこの力で、いっぱいの人を幸せにしたい。多くの命を救いたい」


僕も昔は夢見ていた。強くなって、魔族からみんなを救って英雄になれたらどんなに素敵なことか、でも僕にはその才能はないらしい、そう悟ったとき僕の存在意義は急激に失われていくような感じがしていた。


「はいこれ、あげる」


トーラは首に掛かっていたペンダントを取ると、僕の首に掛けた。


「これって、トーラの大事な物だろ?」


「うん、だからさ無くさないようにミツキが持っててよ。私、直ぐに物を無くしちゃうじゃない?ほら、ミツキはものを見つけるのとか得意だし」


「でも僕は弱いから直ぐに取られちゃうよ…」


「だったら私がミツキを守る、ミツキは私のペンダントをなくさないように持っておく、ね?」


「わかったよ」


そうして僕達の何気ない日々は過ぎていった。そんなある日、奴らはやってきた。まず僕たちの前に現れたのは一人の魔族だった。そいつはこう言い放った。


「私は魔界第6階位、ザルーグである。人間よ、今から貴様たちを皆殺しにする。精々いい声で鳴いてくれ」


っと。


その時はまだ希望はあった、いくら魔族でも一人なら何とかなるのではないか、こっちにはトーラもいる。しかし、次の瞬間その想いは打ち砕かれる。


ザルーグと名乗る魔族が手をかざしたかと思うと魔物が10、20、30とあっという間にその数は50近くまで増えていった。


「やれ」


その掛け声とともに魔物は村人を喰らい始めた。大混乱の中、トーラは僕にこういった。


「私が時間を稼ぐ、だから町に行って応援を呼んできて!」


「駄目だ、こんなの勝てるはずない!一緒に逃げようよ!」


「私、この村が、この村の人が大好きなの。だから見捨てることは出来ないよ」


そう言うとトーラは魔物の群れに飛び込んでいった。僕は走った。どうか間に合ってくれ、そう思いながらひたすらに走った。だけど、僕が憲兵隊を連れて戻った頃にはもう既に何もかも終わったあとだった。


村の中央辺りにトーラは倒れていた。その周りに数多くの魔物とすぐ横にはトーラの槍が刺さった魔族が一人倒れていた。


「トーラ!」


僕はすぐに彼女に近寄り、体を起こす。手に生暖かい感触、僕の手はトーラの血で真っ赤に染まった。


「トーラ!トーラ!」


「ミツ…キ、良かった。貴方だけでも助かっ…て」


「トーラ!もう喋らないで、今治療を」


「ミツキ…、ミツ……」


それを最後に彼女は二度と目を覚ますことはなかった。


「いやだ…なんだよこれ、こんなことってないよ」


僕が死ぬべきだった。彼女はもっと多くの命を救える戦士だったのに、こんな無能な僕が生き残ってしまった。


「うわぁーーーーーーーーーーーーーーーー!」






「っは!」


どうやら夢を見ていたらしい、嫌な夢だ。俺は鞄の中から指輪を取り出した。嘘かホントかは知らないが死者と対話できると言われるアーティファクト、旅先のとある遺跡で手に入れたものだ。この指輪で彼女ともう一度と話したい、そう考えていたが、今更どの面を下げて彼女と何を話せばいいんだ。あれからもう5年は経つというのに、あの時から俺は何も変わっていない、強くなったわけでも何かを成し遂げたわけでもない。


「ミツキにはミツキのやれることがあるはずよ」


彼女の言葉が頭をよぎる。俺のできることなんて他人ができて当たり前の事ばかりだ、俺にはなんの価値もない。


「クソっ!」


指輪を窓の外へ投げ捨てようとしたときだった。


ゴルルルル


獣が腹をすかせて唸るような声、間違いない魔物だ。俺は咄嗟にベットから起き上がると部屋の隅で息を止めた。自分をあれだけ無意味だと言っておきながら、まだ死にたくはないらしい。


ドクンドクン


心臓の音がやけに大きく聞こえる。魔物は俺がいる部屋の前に差し掛かったとき足を止めたのがわかった。


スンッスンッ


何かを嗅ぎ回るような仕草をみせた次の瞬間。


グルァアア!


おぞましい雄叫びと共に窓をぶち破り入ってきた。


カシャアァン


「ひ、ひぃ!」


魔物は俺に噛み付こうと飛び掛かってくるが、間一髪それを避けると四つん這いになりながらも部屋を出た。


逃げないと!何処か隠れられるような場所は!


そう考える日まもなく、魔物が部屋から飛び出してくる。


アォーン


突如魔物が鳴き始める。


まずい、仲間を呼ばれた。もう数秒もしないうちにここに集まってくるだろう。外に逃げる選択肢は無くなった。かと言って家の中にいても集まった魔物に囲まれて終わりだろう。今まで生き延びてきた俺の悪運もここまでか、そう思ったときだった。


ポウッ


指輪から白い光が放たれたかと思うと、それはまるで誘うかのように下へと続く階段の方へとゆらゆらと飛んでいった。俺は気がつくとその光を無我夢中で追いかけていた。


階段を降りると大きな扉があった。直ぐに手を掛けたが錆びついているのか、なかなか開かない。死にものぐるいで何度か体当たりするとバキッと鍵が折れるような音がして開いた。


直ぐに扉を閉めるとそのあたりにあったもので扉を塞ぐ。それと同時に先程の魔物が扉へと突進してきた。


ドガァッ


物凄い衝撃音が聞こえる。


グルルル


扉の向こう側では一匹や二匹程度ではない、複数の獣の唸り声が聞こえてくる。


ドガァッドガァッ


扉は大きく頑丈そうだが古く、奴らがいつ入ってくるかもわからない。


「頼む、諦めて何処かへ行ってくれ!」


ドガァッ


バキッ


亀裂が入る。もう終わりだ、ここは地下で窓も見当たらない、逃げ道はない。そう思ったとき、ふと自分のすぐ横に人の気配があることに気がついた。


「うわっ!」


思わず声をあげてしまう、すぐ横に立派な鎧をまとった男が立っていたのだ。


なんで今までで気が付かなかったんだ?いや、さっきまでは絶対いなかった。突然そこに現れたのだ。


「あの…」


「すみません」


そう話しかけても男はぼーっと下を見つめているだけでこちらに気づく気配がない。俺は彼に触れようと手を延ばしたところで気がついた。


「もしかして、この指輪…」


死者と対話できる指輪、いるはずのない人。その男のすぐ横に目をやったときそれを確信した。そこにはもう何年も経って白骨化した遺体があったからだ。


間違いない、この人だ。今目の前にいる男は明らかに人だけど、鎧の特徴などがこの遺体と一致している。俺は男に恐る恐る手を伸ばすとその手は触れることなく空を切った。


実態がない、まさか本当に幽霊!?だが今、いつ魔物が入ってきて殺されるかもわからないこの状況、幽霊を目の前にしても俺は不思議と冷静なままだった。しかし、何故だろう対話できる指輪らしいのだが、先程からいくら話しかけても反応がない、遺体の方へと目をやると手元に何やら日記のようなものがあるのに気がつき、手を伸ばした。所々かすれてて読めなかったがこの男が書いたもので間違いないだろう。


4月☓日


私が間違っ  た、もっと  守りを固めるべきだった。魔物の、群れが  に押し寄せてきた。10や20じゃない、目で見ただけ も、100は   う。それでも  やるしかない、   達と剣を取り、抗ったが無駄だった。    もしないうち 、私達は全滅した。仲間たちが食われていくのをただ見ているしか    。


☓月28日


  残ってしまった。何とかこの地下に逃げ込んだが、もう動ける力もない、  外では魔物が唸り声を上げて扉を叩きつける音が聞こえ 。この日記を読んだものへ、もう私はこの世にはいないだろう。出来ることなら  達の仇を取りたかった。非常に  で仕方がない、この日記を読んでくれたものがどうかこの悲願を果たしてくれる事を切に願う。


サリド・レントラー


どうやら、この町の人も魔物に襲われたらしい。


「ごめんなさい、サリドさん。あなたの願いは叶えられそうにありません、俺も貴方と同じようにここで食われるか野垂れ死ぬみたいです」


そう呟いたときだった、今までで全く反応しなかった幽体がこちらに顔を向けのだ。そしてあまつさえも語りかけてきた。


「私を呼ぶのは君か?私の名はサリド・レントラー、この町の騎士団長だ。いや、だったというべきか」


そう言うとサリドは自分の遺体を見つめる。


「そうか、私は死んだのだな」


「すみません…」


「どうして君が謝る?」


「だって、せっかく貴方に気づいてあげたのに。俺、何も出来なくて、貴方と同じようにここで死ぬんだって…うぅ」


「君は死ぬ必要はない」


「え?」


「その指輪、感じる。私と契約してくれ、そうすれば君の力になろう」


「契約?」


「あぁ、その指輪は死者と契約し、従わせる力を持つようだ」


「この指輪にそんな力が、しかし貴方は良いのですか?俺なんかに従って」


「構わない、それで仲間達の仇をとれるなら、頼む私にもう一度チャンスを与えてくれ」


彼の揺るぎない覚悟を見た俺は決心した。


「分かりました、契約します」


俺は指輪をはめた手を前にかざすと、指輪が光り始めた。


「ありがとう、これでまた戦える」


俺は目を疑った、今までで薄く消えそうな影のようなサリドの体が明らかに実態がある生身へと変わったからだ。その時だった。


バキッバキッ


扉が壊れる音が聞こえ、一匹の魔物が中へと入ってきた。


グルルル


「ひっ」


次の瞬間、魔物が飛びかかる寸前にサリドは一歩踏み込むと、持っていた剣で魔物の体を真っ二つに両断した。しかし、壊れた隙間から二匹、三匹と再び魔物が姿を表す。


しかし、サリドは怯むどころかその魔物に接近すると再び剣を振るい、あっという間に片付けてしまった。そして、こちらに振り向くとこういった。


「ありがとう契約者(マスター)、私はこれでまた戦える」

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