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09 入学式イベントは始まらない


翌日から始まったエミリエンヌの魔法の訓練。

このために、レベッカは魔法の教師を雇った。

名目は「自分の新たな光魔法の開発の為」だったが、実際にはエミリエンヌの為の教師だ。


だが、中々エミリエンヌの光属性の魔力が上がって来ない。

魔力を計る計測器は、僅かに針が揺れるがほぼ(ゼロ)を示している。


このままでは、学校の申し込み期限が来てしまう。


「先生!! 起死回生の方向転換です。光魔法はここは後回しで、先に他の属性を試して見ましょう」


エミリエンヌは、最初に土属性を調べるために、土の固まりを作る魔法に挑戦した。


砂の一粒も動かない。


次は火属性の魔法の指先に火を灯す魔法だ。

皆が見つめる中、緊張したエミリエンヌの指先が震えただけだった。


残るは闇属性だ。

レベッカは肩を落とす。

もうダメだ。

流石にヒロインちゃんに、闇属性はないだろう。

つまりは学校に入学出来ず、イベントも見れないということなのだ。


「ダークボール」

レベッカが怖々唱えると、予想に反して、彼女の頭にゴルフボール大の黒い球体が現れた。

ええ?!

ヒロインが闇属性持ち?

少々の戸惑いはあるが、これでエミリエンヌの入学が決定したのだ!!

やったわ!! 入学イベントが見れる!! と喜んでいるのも束の間。

黒い球体はちょっとずつ、勢いを増しながら大きくなっている。

ついに、ドデカイ真っ黒なバランスボールくらいに膨張している。


さらに大きさを増す闇の球。


「これ以上は危ない、エミリエンヌ君、闇を消すイメージをしてみて!!!」

先生が叫ぶ。


「どどどうやったら、消すイメージになるか分からないんですー!!」

エミリエンヌも頭上に広がる闇に怯え、()(すべ)もない。


レベッカも蒼白だ。

膨張が止まらない闇魔法に、冷静さを失う。

このままだと、エミリエンヌが自分で作った闇に飲まれる!!


レベッカは、未だかつて使ったことのない魔法を試みた。


「光のシャワーよ、辺りを照らし闇を消して!!」

レベッカは叫び両手を天に向けて広げた。

するとどうだろう。光がスターダストのようにキラキラと降り注いで行く。

すると、光の粒が当たった闇の部分がフォン・フォンと音を立てて消えて行く。


そして、漸くダークボールが綺麗さっぱりと消えた。


先生は闇属性を計る測定器で、エミリエンヌの魔力を計った。


「素晴らしい数値だ。これなら学校に推薦できますよ」


「それに、レベッカ様も新たに光属性の覚醒、おめでとうございます」


レベッカは新たな属性など欲していなかった。しかも、望んでもいなかった光属性。

「うううー。私が光魔法を取得してどうするのよ?」

レベッカは喜ぶエミリエンヌを横目に、項垂れた。


これから起こるイベントの数々を思って泣く。

本来ならばヒロインが、怪我をした攻略対象を光属性の癒しや治癒を使って治すのだが、肝心のエミリエンヌが使えない。


レベッカは楽しみにしていた、これから起こるイベントの中止や変更があるなんて、どうしても諦め切れない。

未練がましく属性の魔力計測器が壊れていないか振ったり、叩いたりしていた。





兎に角、レベッカの計画通りエミリエンヌと一緒のクラスになった。(改竄(かいざん)したのだが・・・。)

テオファーヌも同じクラスだったが、隣のクラスに変えておいた。

ヒロインと攻略対象が、同じクラスでは親密になりすぎる、と考えたからだ。


エミリエンヌの属性は不安だが、これで入学式のイベントは、滞りなく起こるはず。


入学式のイベントは、よくあるパターンだ。

ヒロインが遅刻して学校にくる。

急いで学校に入ろうとするが、生徒会のメンバーである、ルーカスに止められてしまう。

そして、遅刻したヒロインを優しく入学式が始まっている講堂まで、道案内をするのだ。


このイベントの為に、レベッカは心を鬼にして、『エミリエンヌとは当日一緒に学校にいけない』と連絡した。


馬車の中でレベッカは、これから起こるイベントにワクワクしていた。

マーレリアム学校の始まりのイベントだ。

校舎から、海が見える素敵な学校。


この学舎で数々のドラマが今!!


だが、最初からスチル通りにはいかなかった。

何故なら、門の前にエミリエンヌが遅刻もせずに立っていて、レベッカを待っているからである。


どういうこと?

遅刻してない?

レベッカの驚きは、胸熱キュンキュンに変わった。


「おはよう~ございまぁす。レベッカさまぁ」

元気な声が、馬車の中に爽やかな風となって聞こえてくる。

しかも、嬉しそうに大きく手を振って呼んでくれるのだ。


「ぐふっっっっ!!」

レベッカはエミリエンヌのかわゆさに、20ポイントのHPを奪われた。


もうこうなっては仕方ない。

レベッカは校舎内の車寄せ迄行かず、御者に言ってすぐに馬車を停めさせる。

すると、満面のヒロインが駆け寄ってきた。


「レベッカ様、一緒に行きたくて、ここで待ってました」


「あ、ありがとぉ・・」


お友達と一緒に登校・・・。

ストーリーとは違うけれど、これも新鮮で良いわね。


レベッカがゲームを忘れて門を潜る。

すると、生徒会の役員であるルーカスとアルナウトが新入生を誘導している。


豪華キャストの顔面偏差値は高いわ・・・キラッキラしているじゃない。レベッカは彼らを照らしているライトがどこかにあるのでは? と探したほどだ。


「やあ、レベッカ。君の教室は1組だ。私が案内しよう」

アルナウト王太子自ら、案内役を勝手出てくれる。


「いえいえ、恐れ多いです。場所は大体わかりますわ」

レベッカは丁寧に断った。

そりゃそうだ。

何度侵入したかわからないくらい、夜の学校内をうろうろしているのだから。


「私も用事があるので、一緒に行こう」

ルーカスも一緒に行くと言う。


「お兄様と一緒なら、是非に!!喜んでお願いします」

コロッと態度を変えるレベッカに、アルナウトがジト目でルーカスを睨んだ。


「で殿下、これは不可抗力ですよ」

ルーカスが必死で言い繕う。


しかしすぐに機嫌を直し、レベッカと歩き出す。

ルーカスはエミリエンヌと並んでクラスに向かう。


「ルーカスとエミリエンヌが一緒に歩いているわ!! 一緒に呼吸しているのよ!!」


「当たり前だ。息を止めて歩くやつはいない」

突っ込みを入れるアルナウトを無視して、レベッカは後ろを何度も振り返りつつ歩く。


「ああ、何て良い眺めなの!!なんだか、二人がとてもいい関係に見えるわ」


「そうだね・・じゃあ俺達もどう見えるのだろうね?」

レベッカの答えを期待するアルナウトに、目を見開き驚いたように答える。


「それは、勿論お友達でしょう?」


つまらないくらい、当たり前の答えでアルナウトは萎れた。


そんな二人の会話はさておき、ルーカス達はのんびりと会話していた。

ルーカスは、エミリエンヌの大きな荷物が気になっていた、

その鞄を素早く自分が持ち、教室までついていく。


「私の重い荷物を、ルーカス様に持って頂いてすみません」


「エミリエンヌさん、一体この大きな荷物は何ですか? 今日は入学式だけで、何も必要はなかったのに?」


ルーカスが、ずっしりと重い荷物を不思議そうに見ている。


「あの、入学式の後にお弁当がいるのでは、と思って朝から皆さんの分も作って来たのです」


レベッカとルーカスとアルナウトがエミリエンヌの顔を凝視した。

入学式の後に皆で食べるお弁当?

三人が揃って首を傾けた。


「・・・今日は入学式の後、クラスに戻り明日からの説明を受けて、そこからは家族と一緒に家に帰るという流れだよ」

アルナウトが今日一日の日程を説明をした。


その直後、エミリエンヌの顔が恥ずかしさに真っ赤になる。


「知りませんでした・・。私ったらワクワクして・・・初めてのお弁当が嬉しくて・・・朝から張り切っちゃって・・バカみたいです・・」


その可愛さに胸打たれたレベッカは、膝から崩れ落ちた。


「無理よ・・・。こんなに可愛いなんて心臓が持たないわ・・」

ハーハーハーと荒い息をするレベッカに、アルナウトが心配より、怖さが先に立つ。


「大丈夫か?・・・頭?・・・」


「アルナウト殿下は平気ですの?」

唐突な質問にアルナウトは意味がわからない。


「・・何がだ?」


「ああもう!エミリエンヌのかわゆさはもう天然記念物? いえ、国宝物ですわ。それを目の当たりにして平気でいられるでしょうか?否、無理でしょ?」


レベッカは勢い余って、アルナウトに顔を近付けた。


「くっ!! それ以上は無理だ」

アルナウトは、レベッカから距離を取るために体を背けた。


レベッカはその回答を勘違いする。

「ふふふ、やはりアルナウト殿下も、エミたんの魅力に目覚めたのですね? だが、しかーし!!エミたんは私の義姉候補ですもの。お譲りしかねます」


「え? 何か勘違いしてない?」

アルナウトがレベッカを呼び止めようとするが、レベッカは既にエミリエンヌの前にいる。


そして、エミリエンヌの手を取り提案した。

「では、今日はそのお弁当を持って学校の屋上でピクニックをしましょう。エミリエンヌさん、良いですか?」


エミリエンヌの顔がパアーと明るくなる。


「嬉しいです!!是非一緒に私のお弁当を食べてください」



こうして、入学式の後、テオファーヌを含めた5人で、学校の屋上から海を眺めてお弁当を食べたのだった。




このように学校の初日、レベッカはイベントではなかったが、大いに楽しんだのだった。




しかし、本日の入学式に遅れ過ぎて、学校にも入れなかった一人の女子学生がいた。


「どーいう事よ!! なんで門が開いてないの? しかも、いるはずのルーカス様もいないじゃないの!! なんでーーー!!?」



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