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08  名前がないわ!!


レベッカは15歳。

そして、マーレリアム魔法学校に入学する年なのだ。


既にルーカスは2年前に入学している。

その当時にレベッカがいかに大騒ぎをしていたか、レベッカの部屋を見れば一目瞭然である。


なんとルーカスの制服姿の絵が5枚も飾られているのだ。

しかも一枚は壁一面だ。

本当は10人の絵師を雇っていたが、両親によって早々にキャンセルされていた。


それでも、レベッカが泣いて縋るので、とうとうイーサンが5人までと了承したという経緯がある。


ルーカスは相変わらずの妹に、5人でも反対した。

しかし、レベッカが「絵を見て我慢するから、絶対に学校に突撃しない」という条件で最終的に許したのだった。


確かに学校にレベッカは突撃はしていない。密かに侵入しているだけだ。

ただ、これもルーカスには早々にバレてしまったのだが・・・。



そして、待ちに待ったレベッカ念願の入学である。

入学二か月前に、念には念をと思ったレベッカが、ヒロインと自分が同じクラスになれるように、改竄(かいざん)しようと学校に侵入した。


入学前ではあるが、毎日通っている学園だ。迷うこと無く大事な書類がある部屋に難なく辿り着いた。


「えへへ、私は1年1組だ。あ、同じクラスにテオファーヌがいる? なんで年下なのに同じクラスなの?」

テオファーヌは生まれ月が遅いので、学年は一緒だと気がつかない。


「もう、せっかくテオファーヌが入学してきたら先輩面をしようと思っていたのにな・・・残念」


ペラペラと名簿を見ていく。

「????・・・??」


「あれ? ない?」

入学するはずのヒロインのエミリエンヌの名前がどこにもない。


もう一度確かめるがない。


「この時期なら、ヒロインちゃんは光の魔力が覚醒しているはずなのに、どうしてかしら?」


一先ずここから退散して、明日エミリエンヌの屋敷に行って確かめなければ、と名簿を片付けて学校を出た。


朝、学校に行くルーカスに『行ってらっしゃい』としっかりご挨拶を済ませてから、エミリエンヌの屋敷に、お伺いの伝令を走らせて、午後に会う約束を取り付けた。


久しぶりに会うエミリエンヌに緊張する。

馬車に乗ってからも、『この服装で良かったかしら?』とか『手土産はもっと沢山あった方が良いのでは?』と侍女に何度も尋ねる。


その度に侍女に、『大丈夫ですよ』と何度も言われた。


ラート男爵の屋敷は、想像以上に年期が入ったというか・・・崩れていた。


門はあるが、門番はいない。

屋敷に入りドアをノックするが、誰も出てこない。


侍女がもう一度ドンドンと大きく叩く。


ドアが開くと、そこにはお腹がテプテプした男性が汗をふきふき、頭をさげた。


「お待たせして申し訳ございません。公爵家のご令嬢をお待たせしてしまい本当にすみません。ああ、しまったご挨拶が先でしたよね。あの、私エミリエンヌの父、アドン・ラートと申します。どうぞ、どうぞ娘を・・ふつつかな娘ですがどうぞよろしくお願い致します」


公爵令嬢が来たというので、アドン・ラート男爵はかなりテンパっている。


だが、なぜかここでレベッカもテンパった。


「こ・・こ・こちらこそどうぞよろしくお願い致します。これはつまらないものですが・・・」

とうっかり昔の日本風の言葉を添えてしまう。

しまったと思ったが遅かった。


「こここれは『サドール』のバターサンドではないですか!!つまらないなんて・・こちらの方がきちんとしたおもてなしが出きるかどうか・・・」

ラート男爵が何度も頭を下げる。


二人のやり取りを聞いていた、エミリエンヌが恥ずかしげに父の袖を引いた。

「お父様、いつまでもレベッカ様を玄関に立たせては申し訳ないです。早く応接間にご案内して下さい」


娘に言われたアドンは、「そうだった」と漸く我に返ってレベッカを部屋に通した。


この時気がついたが、この屋敷には侍女がいない。

だから、父がお客様を部屋に案内しているときに、エミリエンヌがお茶の用意をしていたのである。


見事な連携プレイ。


玄関前のゴタゴタから、漸くソファーに座ることができた。


「所で、今回はどういったご用件なのでしょうか?」

アドンは、娘が心配なのだろう。不安げにレベッカの返事を待っている。


「突然なのですが、エミリエンヌ様は魔力をお持ちだと思うのですが、まだマーレリアム魔法学校から入学に関する手続きの書類などは、届いていないのでしょうか?」


アダンとエミリエンヌがお互いに顔を見合わせる?

そして、同時に首を傾げた。


「・・・えーと、他の方とお間違えではないですか? 我が娘は貴族なれど、下級貴族でして・・魔力など持ってもいませんし、発動したこともないです」


『なあ』とアダンが確かめるようにエミリエンヌを見ると、コクンと首を縦に頷く。


「え?そんなわけは・・・」

レベッカはストーリーを思い返した。


確か、エミリエンヌが魔力を覚醒した切っ掛けは・・・。

テオファーヌが闇ギルドに売られてすぐに、訓練の途中に大ケガを負って倒れているところを、助けたい一心で、治癒魔法を使えるようになったんだった・・・・。


あれ?

そもそも、テオファーヌは闇ギルドに行ってないわ。

そしたら、本当にエミリエンヌはまだ魔法が使えないのね!!


「あああ・・っ!! やってしまったわ!! なんで今まで気が付かなかったのかしら・・・」

一人頭を抱えるレベッカ。


「レベッカ様・・あの・・どうされたのですか? もしお悩み事があるのなら、何でも(▪▪▪)仰って下さい。私でよければお手伝い致します」

エミリエンヌは優しい。その一言で悪魔が解禁されたのだ。


「ふふふ、今、何でもって仰いましたわよね?」

レベッカが地の底から湧き出るような声で笑いを漏らす。


流石にエミリエンヌも嫌な予感がして、背中に冷や汗が流れた。


「あああ、私にできることなら・・ですが・・・」

レベッカはその返事に大満足だ。

「そうなの!! 貴女にしかできないの。明日から私と一緒に魔法が使えるように練習をしましょう!!」


「「ええええ???」」


後ろにいた侍女が、鳩が豆鉄砲を食らった顔とはこう言う顔か、とアダンとエミリエンヌの顔を見て思う。


「あの、私は全く魔力がないのですが・・。これまでだって一度でも何かを動かしたり、火をつけたりしたこともないです」

焦るエミリエンヌに、レベッカは自信満々に「貴女には、人を癒せる貴重な魔法である光魔法が使えるようになるの」と畳み掛ける。


「そして、多くの人の傷を癒し、尊敬を集めるのよ!!だから、私の訓練を受けて頂戴!!」


うふふ、その後はルーカスと学校生活を謳歌しながら、イベントを生で見せて貰うわね。


レベッカの欲望を知らない親子が立ち上がり、レベッカの手を握りしめた。


「私のために・・・。私、頑張ります」

「私の娘のためにそこまで仰ってくださるなんて・・・本当に感謝します。どうぞ、娘をよろしくお願いします」


素直な親子は、レベッカに最大限の感謝の意を表した。


うんうん。上手く行ったわと笑うレベッカ。

「では、明日からお迎えの馬車を寄越すから、私の屋敷で練習をしましょう。では、また明日ね」





レベッカの帰ったラート男爵家では、二人がしみじみとレベッカの話をしている。

「いやー・・公爵家のお嬢様だというのに、とても付き合いやすい方で良かったな。高位の方々はもっとつんけんしてて、付き合いづらいのだと思っていたよ」


「お父様、大体の高位の貴族の方は、そんな感じよ。レベッカ様が特別なの」


「それに、お前をあの有名なマーレリアム魔法学校に入れようと、あそこまで言ってくださる方は他にはいないだろう。本当に良いお友達を持ったな」


「はい、お父様。私、レベッカ様のご期待に添えるように頑張りますね」



二人がレベッカに感謝をしている頃、当のレベッカは生イベントを見られる喜びに、早くも悦に浸っていたのだった。


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