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06 今まで何やってたの?(1)


レベッカ11歳 ルーカス13歳


久しぶりに街に来たレベッカは、ルーカスに似合いそうなアクセサリーや、ルーカスが好きそうな食べ物や、ルーカスが読みそうな本、ルーカスが好みそうな文具や、ルーカスのためにルーカスの喜びそうなルーカスの・・・


兎に角、ルーカスの物を買いに来ていた訳だ。


「何で!? この店にお兄様が欲しがっていたシャツがあったはずなのに! 何故ないの?」


「お嬢様・・先週そのシャツはお買い求めになられたじゃないですか」

侍女の言葉に「わかってないわね、チっチッチ」

と人差し指を立てて横に振る。


「あれだけお似合いだったのよ!洗い替えが必要でしょ! でも、ないのなら次のお店に行くわよ!」

ルーカスに似合うシャツ探しに、もう一件の店に向かう。


だがその最中、道端に倒れている男の子を見つけてしまった。


至るところに打ち身の痣がある。

これは、誰かに殴られて出来たものだ。


「お嬢様、そのような下々の者を触るとどのような病気がうつるかわかりません」

侍女は遠巻きに見ているだけで、側に近寄らない。


レベッカはこの男の子の顔をどこかで見たような気がして、記憶のタンスを片っ端から開けまくる。


「ああ。。思い出したわ」

この子は、王弟殿下の息子だ。

そうだ、イベントがあったわ。


その昔・・・、

王弟は王宮に招いた踊り子を愛してしまった。身分を忘れ愛し合う二人。

独身の王弟は何とか彼女を妻に迎えたいと奔走するが、留守中に妻の座を狙う侯爵家の娘が彼女を追い出してしまう。

そして、その後彼女は人知れず男の子を産む。

しかし、その男の子が5歳の時に彼女は宿泊していた宿で亡くなってしまった。

男の子はその宿で奴隷のように扱われて・・・今現在病気でレベッカの目の前に倒れている。


レベッカはさらにその後のシナリオを少しずつ思い出した。


えーと・・

この後、金のためなら何でもする闇ギルドに売られるのよ。

そして、青年になった彼は学園内で開かれた絵画展のギャラリーに紛れ込み王太子を暗殺しようとする。


アルナウト殿下に斬りかかるが、それをルーカスが庇い左肩を負傷する。

その後駆けつけた護衛に取り押さえられるのね。

そして、取り調べを受けて王弟の血を引く者とわかるんだ。


くううう!!

何て事?

いつか、この子がルーカスを傷つけるの?


ルーカスが左肩に傷を負うんだよね?

私がここを通らなかったら・・・。

危なかった!!


「今からこの男の子を我が屋敷に運ぶわ。それから、ついたらすぐに医者に見せたいから呼んでおいて頂戴」


レベッカが命じた時に、ならず者が宿屋から飛び出してきた。


「おい!! それはたった今俺の物になったんだ。置いていけ!!」

「は? どういう事?」


レベッカはこの後の事を考えて気が立っている。


「宿屋の女将からそいつを買ったんだよ。だから、持っていくならお金を俺に渡せ!! 出来ないならそれを置いてどっかに行けよ」


男の声を聞き付けて、女将も出てきた。

「勝手に連れていかないでおくれよ。お嬢ちゃん、この子は元々私のだよ!!」


「えーと・・誰のものでもないわ。だってこの子の母親は病気になった後、貴女に沢山の養育費を残したわよね。でも、それをこの子には使わなかったわよね?」


怯む女将に、男が再びしゃしゃり出てくる。


「お嬢ちゃんは知らないと思うけどな、この世の中はなぁ、拾ったもん勝ちなんだよ。女将はこいつを拾った。だから俺は女将から買った。簡単だろ?」


レベッカは両手をパチリと叩く。

「ああ、なるほど!! 良くわかりましたわ。じゃあ、私がこの子をここで拾います」


後ろのレベッカの侍女が、『なるほどです、お嬢様!!』と感心している。


「お前らバカなのか? お嬢ちゃんも侍女も・・・。あれ? 良く見りゃお前も綺麗な顔してるし、どこかの貴族に売ってやる・・・ぐふううゴボッ」


レベッカ、相手の話も聞かず先手必勝。

「おひぃ、卑怯だぞ!! いきなり顔を蹴りやがって!!」


男は鼻血を吹き出しながら、ふらふらとしている。


「ふんっっっ!!」

再びレベッカの会心の突きが、みぞおちに決まる。


「ぐおゅふううう」

男は息が出来ないようだ。

「ほら、今度はおばさん、あなたの番よ」


「許しておぐふうううう!!」

再び、相手の話も聞くことなく攻撃する。


「大丈夫よ、骨は折れてないよ。だって私がここで拾った商品だもの。売る前に壊すわけないじゃない」


レベッカは縄でぐるぐる巻きにして、二人を眺めている。

「「助けてください。売らないで!!」」

二人がハモってお願いするが、レベッカに許すつもりはない。


「この国は人身売買は禁止しているわ。それを破ったのだから、ちゃんと罰を受けてきてね」


レベッカは街の警備隊に二人を引き渡し、男の子を連れて急いで屋敷に帰った。





医者の診察が終わり、男の子の様子をレベッカとルーカスが見に部屋に入る。


「レベッカ、本当にこの男の子は王弟のトリスタン殿下の子供なの?」

ルーカスは半信半疑だ。

なぜなら、この男の子の髪の毛は黒かったからだ。


たしかに王族は皆金髪に瞳は緑だ。


「うん、本当よ。この子のお母様が南の国の踊り子で髪の毛が黒かったと記憶しているもの」


ルーカスは、『その情報はどこから聞いたの?』とは聞かない。

もう、レベッカの情報源は不思議だが、いつも正確だと散々思い知らされたからだ。


「じゃあ、すぐにトリスタン王弟殿下に連絡を・・」

「ダメ!!・・まだダメよ」


「なんで? 父親がいるって知ったらこの子も喜ぶし、王弟殿下もお慶びになるよ? もしかして、レベッカはこの子を渡すのを引き伸ばして何かの駒に使いたいの?」


「違います。そんな事には使わないわ」

「じゃあ、すぐに引き取りに来てもらおうよ」


「それは、絶対にダメよ。こればかりはお兄様のいうことでも聞けない!!」


レベッカがルーカスと初めて意見を違えた。

そればかりか、ルーカスに険しい顔を見せたのも初めてだった。


「レベッカ・・・。何をそんなに怒っているの?」


ルーカスを前にして、レベッカが笑顔ではないなんて、一度もなかった。

しかも、親がわかっているのに返さないと言っているのだ。


いつも突拍子もない言動が多いレベッカだが、今日のレベッカは尋常ではなかった。




男の子がバルケネンテ家に運ばれて五日が経った。

男の子は熱が下がって、ご飯も食べられるようになっていた。


お医者様に色々と話を聞くために、レベッカはルーカスと一緒に部屋に入る。


「僕はルーカス・バルケネンテ。こっちは妹のレベッカだよ。君の名前を教えて?」


男の子は小さくて、5歳くらいに見えたため。ルーカスは幼児に話すように喋る。


「はい、僕の名前はたぶん・・・テオです。10歳かな?」

自信なさげな自己紹介にルーカスが首を傾げた。

「たぶんとは?」


「昔、お母様はもっと長い名前で呼んでた様な気がするんですけど・・・覚えてなくて・・」


レベッカが本当の名前を教える。

「あなたの名前はテオファーヌ・フォンダン・クノフロークよ。年齢はそう11歳」


「へー・・そんなに長い名前だったのか。なんだか偉くなったみたい」

テオファーヌは屈託なく笑う。


「君は本当は貴族の子なんだ。それも高位の。でも、今はそれが表にバレるとまずいからテオで通してくれるかな?」


ルーカスが彼を守る為に頼む。


「うん、わかった」

テオファーヌは素直に応じた。


本来ならば、早く本当の父の元に返す方が、危険も少なくていいのにとルーカスはレベッカを見る。

が、この件に関してレベッカは全く聞きそうになかった。



その日、誰もが寝静まった深夜にレベッカが行動する。


「夜の王宮に忍び込むってスリリングー。って言ってもかなり離れた離宮だけどね」


真っ黒の上着とズボンに着替えて、顔を黒いマスクで目を隠す。

そして、鏡に映してチェック。


「怪盗令嬢・・・うーん違うわ。あっ、もうこんな時間。急がないと!!」


闇夜に悪役令嬢が走る。

行き先は警備が厳しい王宮である。


「地図を見てたけど、やっぱり王宮って広いわね。しかも何?あのバカみたいに大きい庭園。あの向こうなのよね?」


ぶつぶつと文句を言いながらやって来たのは、王弟が住む西の離宮だ。


トリスタン王弟殿下は31歳。踊り子の女性が忘れられず、政略結婚もしないで未だ独身。

その王弟にレベッカは堂々と近付く。

「すみません、ちょっと起きてくれませんか?」

レベッカが体を揺すろうと手を伸ばした瞬間、腕を掴まれる。


「何者だ?」


「ここまで顔を隠しているのに、名乗るバカはいませんわ」

レベッカは掴まれた手を、スルリと抜いてくすっと笑った。


トリスタン王弟殿下も豪胆なのか、全く騒がずにじっとレベッカを見ている。


「私に害する気はないようだな。何の用だ?」


「話が早くて大変ありがたいです。では早速・・実はあなたとアンナ様とのお子様の事でお伝えしたい事があるのです」


ガタンッ!!

トリスタンがベッドから、立ち上がり血相を変えた。


「アンナと私の子供・・・?」


呆然とするトリスタンに、「そうです」と答えるレベッカ。


「アンナは?」


何も言わず、レベッカは首を横に振る。


「亡くなったのか・・・?」


「そうです」


トリスタンの肩がストンと力が抜けて落ちた。


「だが、アンナが残した子供がいるのだな?」


僅かに希望を持ち、真意を確かめようと縋るようにレベッカの瞳を覗く。


「ええ、彼女と同じ黒い髪の男の子です」


アンナに似ていると言うだけで、王弟殿下の眼差しは輝き出し、希望で溢れる。


「その子に会わせてくれ!!」

トリスタンがレベッカの手を掴もうと腕を伸ばすが、それよりも速く、レベッカは僅かに届かない位置に軽く一歩下がった。

そして、レベッカは顎をあげて見下す。

「はあ? 嫌です。お断りします」


最高に意地の悪い顔を見せた。



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