50 船上パーティー(2)
レベッカはどうも嫌な気がして、ララ王女からの招待状の返事を出せずにいた。
レベッカのこんな時の勘はよく当たるのだ。
だが、渋っている側で二人の親友が、粘り強く行こうと誘ってくる。
「レベッカ様が行かないのなら、私も辞退しようかしら? だってつまんないじゃない」
ジュリアが口を尖らして、不満を漏らす。
「私もレベッカ様と素敵な船上の宴に参加してみてかったです」
しょんぼりと肩を落とすエミリエンヌ。
「はー・・。もう仕方ないですわね。お二人がそこまで仰るのなら、私もパーティーに行きますわ」
二人は嬉しそうに顔を見合わせ、「やったー」とハイタッチ。
いつの間にエミリエンヌにそんなはしたない真似をジュリアは教えたのかしら?
「ジュリアさん、あまりエミリエンヌさんに俗的な行動を教えるのは止めて下さいね」
釘を刺したが、聞く気はなさそうだ。
二人がこんなに喜んでくれるなら、参加しよう。
そう決めたら、後はララ王女へのプレゼントを用意しないといけない。
忙しくなりそうだわと、レベッカが思った時、ジュリアが少し気になっていることを話した。
「今度のララ王女の船上パーティーなんですが、テオファーヌ様以外の男性は招待されていないらしいの」
「あら?そうなんですの?」
エミリエンヌが残念そうだ。
きっとルーカスと一緒に行けると思っていたのだろう。
「ララ王女が男性が苦手ということを考慮したらしいの。だから、今回はレン様も乗船されない方がいいのではないでしょうか?・・私としては、少しでも一緒にいたかったのですが・・」
レベッカが首を傾けて「うーん」と悩んだ。
確かにララ王女が男性に苦手意識を持っていると、情報は聞いている。
だが、テオファーヌとお付き合いを始めて治っているように思う。
ここで、レベッカは今回のパーティー参加人数を聞いて、安心してしまった。
150名もいるのだ。女性だけとはいえ、これ程沢山の貴族女性を連れ去る事はないだろう。
それに、現在隣国のカルブール王国とは良好な関係を保っている。
故に、隣国の貴族女性を拐って人質にするなど、現在の情勢からは考えられない。
「そうね、折角のパーティーでララ王女が気分を害されると困るわね。では、レンは港で待機ね」
どこかに隠れているレンに伝えた。
すぐに、ジュリアが入り口近くの壁に向かって微笑む。
そこにレンがいるらしい。
いつもながら、ジュリアのレンの居場所をかぎ分ける嗅覚には驚かされる。
こうして、レベッカは敵の罠が満載の船に護衛もなく、乗り込む事になったのだ。
隣国の王族の豪華客船が、更にライトアップされて、港に到着したご令嬢からため息がもれる。
令嬢の護衛達は、船の上なら暴漢に襲われる事もないと、全て港で待機している。
レベッカの公爵家の騎士も諜報部隊もレベッカ達の乗船を見送っていた。
レベッカの強さを知っている彼らは、誰もがレベッカが連れ去られるなど思ってもいない。
この船で、ロヴィーが舌舐りして待っているなど考えもしないで。
着飾った150人の女性が、乗り込んでいく。
そして、ジュリアは相変わらず遅刻ギリギリでの乗船となった。
彼女が一番最後のお客様だった。
ジュリアが乗り込むと船全体が不気味な何かに包まれた様な気がしたのだ。
ジュリアは、回りを見回しその何かを確かめようとしたが、分からない。
漠然とした不安がジュリアを襲う。
もう一度自分が乗り込んだ船を見て、ゲームを思い出した。
そう、この船は・・・。
レベッカが隣国に救助されるときの船なのだ。
「そうよ、この船はゲームの時の船よ。でも、それだけではどうしようも出来ないわ。でも、この感じ・・・とっても嫌な予感しかないわ」
港に残っているレンに何か分からないが、不審な感じがすると伝えたかったが、既に出港していて声は届きそうにない。
必死でボディーランゲージで伝えようと、体をくねらせて体で文字を作って見せた。
だが、港で見ている多くの護衛騎士は、それを見て笑っている。
「あのご令嬢は何をしているんだ?」
「おいおい、猿みたいな格好をしているぞ。ははは」
そんな他家の騎士に向かってレンが刃を向ける。
「黙れ!! 俺のジュリアは何かを察知したんだ。お前らも自分のお嬢のために早めに備えとけ」
そう言い残し、レンは闇に消えた。
きっと、今のレンの言葉をジュリアが聞いていたなら、狂喜乱舞で失神か、出血多量で倒れるまで鼻血を出すかのどちらかだっただったろう。
どちらにしても、聞こえなくて良かった。
レンが消えたのを見て、ジュリアは船内に入った。
何が起こっても、レン様は助けに来てくれる。
奇妙な二人は、いつの間にか心が通いあって確かな絆を育んでいた。
船内に入ると、既に沢山のお嬢様達がそれぞれのソファーに座って談笑している。
楽団が軽快な音楽を奏でているが、その音量は会話の邪魔にならない絶妙な加減で奏でられていた。
一際大きなテーブルにレベッカが座っていた。
その隣にはエミリエンヌが陣取っていた。
エミリエンヌは普段は大人しく、学校の食堂などの席取りにはいつも負けて立っている。
だが、レベッカの事になると人が変わるようで、レベッカの隣をキープしていた。
その迅速な行動にジュリアは不思議でならない。
おっとりしていて、実は出来る女性なのね。
可愛いだけでは、ヒロインにはなれない。
ここで、ジュリアは第一作目のヒロインはエミリエンヌだったのだと漸く認めるのだった。
後、2話の予定です。
最終話までどうぞどうぞ、お付き合い下さい。
よろしくお願いします。




