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47 占い師再び


レベッカは第2作のヒロインが、知り合いのお咲きさんだったことで安心しきっていた。


だが、カルブールの王女のララを見たときに衝撃を受ける。

あまりにも清楚。あまりにも可憐。

自分にはない庇護欲をそそる容姿。儚げな雰囲気は、女のレベッカでも手を差し伸べてしまいそうだ。


しかも、その王女がアルナウトの腕を掴んで、図書室の真ん中で見つめあっているではないか。


「悪役令嬢がヒロイン並みに可憐な女性なんて聞いてない・・」


二人に声も掛けられず、立ち尽くすレベッカ。



その様子を丁度、本を探しに来ていたジュリアが、図書館の吹き抜けの2階の手摺から身を乗り出すように見ていた。


「レベッカ様がピンチじゃない。しかも・・・レベッカ様、二人を見つめる顔があまりにも残念ですわ」

「何を見ているんだ?」

ジュリアの後ろから、怪訝な表情のルーカスが声を掛けた。

その横には、エミリエンヌもいる。


ルーカスの探るような声から、ジュリアに気を許していない事が伝わり、怯んだ。


「あの、怪しい事はしてないんです。・・・ただ、レベッカ様がアルナウト殿下に寄りそうララ様に嫉妬するあまり、とても公爵令嬢のお顔とは思えぬ表情になっているのが、見ていられなくて・・」


それを聞いて、ルーカスとエミリエンヌも吹き抜けから眼下に見えるアルナウト、レベッカ、ララの三人に目を向けた。


「・・・レベッカ・・・確かに恋する乙女とは言い難い顔だ」


皆が形容しがたいレベッカの顔とは・・・・。

フグのようにホッペを膨らまし、駄々っ子のような幼い顔でアルナウトを見ているのだ。


「クスッ・・。レベッカ様があのような表情を見せるのは、アルナウト殿下と関係があるときだけですわ。それにレベッカ様もお気付きになられてはいらっしゃらないけれど」


エミリエンヌはとても微笑ましいものを見たと言わんばかりに、喜んでいる。


「あの様子だと、レベッカ様は初恋かしら?」

ジュリアとエミリエンヌが行く末を見守っていると、レベッカにアルナウトが気がついた。


アルナウトは、レベッカを見つけ喜んだの束の間。

レベッカの顔から、自分自身とても説明しにくい状況にいることを瞬時に悟った。

自分の腕をがっちり掴んでいるララ王女。


「レベッカ、これは・・その・・違うんだ!!」


「アルナウトなんて・・・大っ嫌い!!」

踵を返しレベッカが図書館から走り去った。

とうのアルナウトは『大っ嫌い』と言われ呆然としている。


2階の観客席の三人はレベッカの行動に驚いたり、追いかけもしないアルナウトにブーイングだ。


「まさか、あのレベッカ様が逃げるように走り去るとは・・・」

いつも堂々としているレベッカとは全く違う一面を見て、ジュリアは純粋に驚いている。


「『大っきらい』って走り去る妹が可愛らしかったぞ」

ルーカスは、今まで見た事のない意外な妹の一面を見て、ほっこりしていた。


「でも、このままでは焦れったいあのお二人の事、再び溝を作ったりして距離が遠くなりませんか?」

エミリエンヌは自分の経験から、恋する乙女は臆病になりがちだと、思い返す。


「じゃあ、ルーカス様が言って二人をとりもってあげて下さい」

ジュリアがほらほらと急かす。


「いや、私では殿下は言うことを聞いてくれまい」

ルーカスはしり込みをして二歩下がった。


「ここはやはり、あの伝説の占い師の出番ではないでしょうか?」

エミリエンヌが目を輝かせてジュリアを見ている。

「待って!! こんな人の多いところで、あの化粧は勘弁してーーー!!」




と言う訳で、ジュリア老婆占い師が再び登場。


「では、行けばいいんでしょ? 行けば・・」

やけっぱちになったジュリアが、以前よりも役作りをしっかりしている。


落ち込むアルナウトの元に腰を曲げた占い師とルーカスとエミリエンヌが揃ってやってきた。


「アルナウト殿下、こちら私とルーカス様を取り持ってくれた有名な占い師の方なんです。是非この機会に占って見てください」

エミリエンヌが必死で売り込む。


どうして学校に占い師がいるのか?等いろいろと、とっ散らかった状況にアルナウトの頭は追い付いていない。


ここで断られては不味いと、ジュリアが奇声をあげてアルナウトの興味を引こうと頑張る。


「きええーーい!! 見えるぞよ。あなた方二人の未来がっ!!」

ジュリアの占い師のキャラが固まっていない。

兎に角、必死でアルナウトを振り向かせることに集中した。

その気合いが功を奏した。


アルナウトが占い師の肩をがしっと掴み「俺とレベッカの未来を教えてくれ!!」と頼む。


掴みはオッケー。

一先ず成功だ。


「現在、貴方はレベッカ様に浮気を疑われているようじゃな」


「そ、そうだ」


「すぐに言って、ララ王女の事をきちんと釈明をしなされ」

ジュリアが図書館の入り口をビシッと指差す。


「でも、レベッカは信じてくれるだろうか?」


「ほほう? それではレベッカ様に疑われたままでよいと? それとも本当に下心が有ったのかえ?」

早く行きなさいよ!!

心の中でジュリアが苛つく。


「下心なんてない。俺は浮気なんてしないし、これからも絶対にない」

ここで、アルナウトは漸くレベッカの元に行こうとした。


しかし、ジュリアがゲームの一部を思い出し慌ててアルナウトを引き止める。


ゲームではヒロインとアルナウトとの間がこじれるイベントらしきものがあったのだ。


ゲームの二択問題で、絶対に引っ掛かるイベントがある。


それは、もう一人の攻略対象であるロヴィーに国家の機密事項を聞いてしまう事から始まる。

その国家機密とは、前悪役令嬢のレベッカを助けて欲しいとバルケネンテ公爵から頼まれたロヴィーが、レベッカを乗って来た船に(かくま)い帰国するという秘密をヒロインに言ってしまうのだ。

それを内緒にしてて欲しいとロヴィーに言われたヒロイン。

だが、二人の仲を怪しんだアルナウトがロヴィーに何を言われたのか教えて欲しいと迫られる。


ここでゲームでは2択問題が出されるのだ。


①アルナウトにロヴィーがレベッカを船にのせて隣国に帰ろうとしていることをばらす。


②約束を守ってアルナウトには言わない。

この2択だ。


実はアルナウトに船の秘密をばらすのが正解で、それを選ぶとアルナウトの好感度が一気に上がる。


しかし、②を選んで『言わない』を選ぶとアルナウトのルートは、なんと消滅するのだ。


いやいや、それはおかしくない?秘密をペラペラ喋ったらダメでしょ!!とゲームに突っ込んだことを思いだした。

これは何となくそのシナリオに、似ている。

配役は全然違うが・・・。



「アルナウト殿下。そなたは、ララ王女のプライバシーに関わる事だからと、そこの説明をすっ飛ばして、または話さないようにお茶を濁そうとしているのではないか?」


なぜ分かったのだと、アルナウトの表情が如実に語る。


「そんなことをすれば、レベッカ様の不安を煽り、決して二人の仲は元に戻らないのじゃ」


「じゃあ、どうすればいいのだ? ララ王女には秘密にして欲しいと言われてるのだ」

アルナウトは両方を慮るばかりに行き詰まっている。


「簡単なことじゃ、大事な方はどっちじゃ!!」

「レベッカだ・・だが・」


「『だが』もくそったれもないのじゃ!!一番大切な者を守ってから、その次にララ王女を考えなされ!!」


そこまで言ってもアルナウトは考えて、動かない。

あーもう、面倒臭い!!ジュリアはこの皺だらけの化粧を早く落としたいのだ。

ええい!!と叫んだ。

「レベッカを失ってもよいのかえ?!!」


ここでアルナウトは顔をあげて「嫌だっ」そう叫ぶと漸く決意しして走っていった。


「やった・・・やっと行ってくれたわ・・」

「お疲れさまでした」

エミリエンヌが労を労う。


ルーカスも近寄ってきた。

「君が私とエミリエンヌの縁結びをしてくれた占い師だったんだね。改めて今回のレベッカの件と併せてお礼をいう。ありがとう」

ルーカスにお礼を言われ、やっと彼にレベッカの友人として認めて貰ったのだった。


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