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46 残念王子(ロヴィー)は生まれ変われるのか?


(ことごと)く一年生の女子生徒には見向きもされなかったロヴィーは、2年生の女子生徒に目をつけた。

この国の一年生はまだ『ねんね』が多く、何かにつけ「父と一緒に」というのだ。


「フッ、まだ1年生は子供なんだな」

相手にされていないのを理解できないロヴィーは、二年生の教室を物色中。


そこで、色気が凄い女性を発見した。

スタイル、艶っぽさはまさしくロヴィー王子のドンピシャのタイプだ。

何とかあの手この手で粘るが、やはり『父と一緒に』と言われてしまった。


「君は僕を試しているんだね」

それならば、「父上と一緒に僕の部屋においで」と試しに言ってみた。

ロヴィーの目には、彼女が「分かりました」と妖艶に微笑んだように見えた。


だが、実際には呆れた顔で苦笑いをしたのだが、ご都合主義フィルターのかかっているロヴィーの目では、分からない。


「ははは、今の笑みは僕を誘っているんだな。今夜が楽しみだ」


自分の部屋で待っているロヴィーに、ノックの音が乙女の囁きにも聞こえた。


「ああ、待っていたよーー」

扉を開けるとそこには・・・。


なんと本当に父親が付いてきたのだ。

あまりの事に、どうやって彼女と父親を招き入れたのか覚えていない。


気が付けば自分の部屋で、厳格な父親と三人で堅苦しい話をしていた。

話題は「飢饉の時の税収問題」


その途中、ロヴィーはついつい皮肉が出てしまう。

「この国の女性はレベッカ・バルケネンテ嬢を筆頭に、とても堅苦しい女性が多いんだね」

文句の一つも出るだろう。

ベッドに誘えば漏れ無く父親が一緒にくるのだぞ、と不機嫌だ。


ロヴィーの皮肉には、皮肉で応対する父親。

「この国の父親は、レベッカ嬢に深い恩義を持っている。不埒な輩から娘を守って下さっているのだから、あの令嬢に足を向けて寝ている親はいないでしょう」


「へー。それほど感謝しているなんてレベッカ嬢は何をしたのかな?」

ロヴィーは自分の事を言われているなんて思いもしない。

兎に角、この地獄のような状況から抜け出したいと、目の前の父親を排除しようと考えた。

「そろそろ、僕は二人きりで話をしたのだが、いいかな?」

流し目で令嬢に合図を送る。


「なるほど、そうでしたか。ではカリーナ。私はロヴィー殿下と話があるゆえ御前を辞しなさい」


「ええ? そっち? そ、そうでは、なくて・・」

あせるロヴィーに目もくれず、令嬢が見事なカーテシーをして、さっさと部屋を出ていってしまった。


残されたロヴィーは、さらに深い地獄の時間が始まる事となる。

勉強嫌いの彼が、この国の建国話を延々と聞かされたのだから。


あんな失敗は絶対にしないと、ロヴィーは懲りもせず二年生の教室をうろうろと見て回る。




今回狙いを定めたのは、少し大人しそうなタイプ。

自分のいいなりになりそうだと思ったからだ。


ロヴィーの狙い通りにその女子生徒は、隣国の王子に急に話掛けられて、ボーッとなっていた。

ロヴィーも慎重に近寄った。

急がず、何度もこの女子生徒に会いに来ては、話をした。


「それでね、僕、今度髪型を変えようと思うんだ。どんな髪型がいいかな?」

ロヴィーが自分の髪の毛を掬いあげて、相手に色気満載のウィンクを送る。

真面目な彼女は、一生懸命にロヴィーに似合う髪型を考えて答えた。

「そ、そうですね、ロヴィー殿下は肌が白くて綺麗なので、ストレートにして、髪の色も黒色に変えるといいかも知れないです。私もロヴィー様と一緒に髪型を変えて見ようかしら?」


「ああ、ストレートか。それいいね。僕は自然と髪が巻いているからたまにはいいね。僕はね・・」


一人喋るロヴィーを見ながら、彼女の脳裏に、レベッカの講演の力説している映像が突如流れた。


『自分の話ばっかりしている男は・・・』


あれ? 目の前のハンサムな王子様は、私の話を聞いてくれた事があっただろうか?

それに、私に質問をしてくれた事などなかったように思う。


突如、レベッカの講演でのあのフレーズが出てきた。


『自分の事ばかり話す男!!』

『あなたに興味がないのよ!!』


ドストライクな状況で、胸に突き刺さる。そして、レベッカの言葉が何度もリフレインする。


『あなたに興味がないのよ!!』

『あなたに興味がないのよ!!』


思い当たることばかりで、よろめく女子生徒。

そんな彼女の様子を気にもかけず、もういい頃合いだろうとロヴィーが誘う。

「今夜、二人でどこかに出掛けようよ」


「・・・ええ、嬉しいですわ」


ロヴィーは心の中でガッツポーズ。

やったぁ!久しぶりだ。

舌舐りして女子生徒を窺う。


「馬車で迎えに行くよ」


「でも、その前に私の名前を呼んで下さいませんか?」


「・・・君の名前?・・確か・・ソフィア・・・いや・・カトリーナ・・?」


「・・・。では、ごきげんよう」

彼女は軽い会釈をして去っていった。




またお持ち帰りができなかった。

この国の女性は、なんて身持ちが堅いんだ。

もしかして?!!

慌てて鏡に駆け寄るロヴィー。


鏡の前でスマイル。

そして少し斜めを向いてスマイル。

流し目からのスマイル。


「うん、完璧じゃないか。みんな、何故僕に落ちないんだ?」


「ああ、もうこんな時間だ! お肌に悪いから早く寝ないと」

ロヴィーは深く考えずにベッドに入り就寝。

明日は三年生の教室を巡ろうかと考えながら、寝息を立てた。



学園の令嬢がレベッカの、ダメ男の見抜き方の特別講習を受け、それを生かしてロヴィーの魔の手から逃れている。


その話は、令嬢が家庭で話をしたので社交界、特に貴族の父親達はレベッカに深く感謝していた。


レベッカに言われた通り、父親と一緒にロヴィーとデートをした女性も多数いたのだ。

父親にとって娘は誰にも触られたくない宝物。

それを無下に散らそうとする男は、隣国の王子だろうが許されるものではない。


親が『男性と軽々しく接触してはならない』と話をしても娘は聞いてくれない。ましてや、父親ともなると話もできない。


それを先手を打って、講義をしてくれたレベッカに称賛の声が上がるのは必然である。


そして、何より娘が危険を察知して、父親を頼ってくるのだ。

娘に頼られた父は張り切った。

どの親も威厳を誇示し、ロヴィーと対峙した帰宅後、娘にお礼を言われるのだ。


どの父親も誇らしげに事の詳細を社交界で話した。

その話しっぷりは、可愛い娘を魔の手から守った自分の自慢話なのだが・・・。


その話と共に、レベッカの株がどんどん勝手に上がっていった。


そうとは知らずレベッカは、今日もロヴィーの勉強を見ている。


ロヴィーも何故か諦めず、あの手この手でレベッカを誘うが、全く容赦なく切り捨てられている。


その間、日に日にレベッカの厳しさが増しているように思う。

「ねえねえ、三角形の面積を知った所で、何に使うのさ?」


「早く底辺を見つけなさい」


「そもそも、数学って僕のような王族には要らないんじゃないか?」


「この後、図形の問題はもっともっと難しくなります。早くこの問題を解いて下さい」


「ねえねえ、だから・・・」

やる気のないロヴィーに自分の時間を蝕まれているのだ。

レベッカの苛立ちは爆発寸前。


「違います。今貴方がやっているのは数学ではありません!!算数です」

商家の子供が用いる教科書を差して、首を横に振る。

なおもしつこく食い下がるロヴィーに、苛立つレベッカ。

「では、貴方に税制を何割か少なく納めたいと領主が言い出したらどうやって計算しますか?」


「ああ、簡単だ。僕以外の兄弟にそんなのが得意なのがいる。そいつにやらせればいいんだよ」


ああ。こいつは言っても無駄なタイプだ。

レベッカは『ああ、そうですね』と色ボケ王子を捨て置けばよかったのだ。

だが、これ(▪▪)に税金を払っている国民を思うと不憫でならない。


この王子を隣国に送り返すまでに、なんとか使える王子にしてやろうと変な使命感に燃えてしまった。


「貴方が出来ることはなんですか?」

「僕に出来る事?」

ロヴィーは考えている。

否、実際には考えている振りをしたいるのだ。

何故なら、女の子と遊ぶ事しか思い浮かばないのだから。


「人とコミュニケーションを取る事かな?」

適当な答えだった。

なのに、レベッカが異様に強く納得している。

「では、外国語や、他国の文化を勉強して外交に力をいれたりするのもいいかも知れませんね」

レベッカが自分の事のように、必死に考えてくれている。


幼い頃ならいざ知らず、大きくなった自分に誰かが期待してくれるなどなくなっていたのをロヴィーも肌で感じていた。


幼い頃は、皆が可愛がってくれた。

だが、最近では若い女性以外はバカにした表情を浮かべるものもいるのだ。


だから、ロヴィーは余計に何もしなかった。

期待されてないなら、何もしなくていいじゃないか。


だから、こんなにも自分に諦めないで教えてくれるレベッカを見て思った。


なんだ、強がっているけれど本当は僕に凄く興味があるんじゃないか!

やっぱり僕の魅力に、公爵令嬢もメロメロだったんだな。

・・・・・と。


普通なら、ここは期待に応えたいと奮起するところだが・・・。

残念な王子は、変われそうになかった。



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