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43 ダメンズの対処方


今日からレベッカのクラスに、ロヴィーが入る。


彼は早速、一時間目から遅刻のようだ。

もう後僅かで授業が終わるというところで、「おはようございます」と爽やかに入ってきた。


その爽やかさに女生徒が、ざわめく。

すぐにチャイムが鳴り、授業が終わると狙いを定めたようにレベッカの席にやってきた。


「おはよ。レベッカ嬢。君はとっても美人さんだね。」

「ありがとうございます」

レベッカはごく僅かな表情筋を動かして、笑顔を作った。


「やっぱり、僕の目に狂いはなかった。僕は君とお近づきになりたいんだ。いいだろう?」

ロヴィーがレベッカの横の座席に座る。


「ええ、よろしいですわ。でも先ずは物理的距離よりも、学力的な距離を近付けて頂きますわ」

レベッカは、ロヴィーに参考書をどさっと渡した。


「えーっと・・これは?」

今までの女性とは違う対応に、戸惑う。


「はい、ロヴィー殿下。今日から徹底的に私がお教えします。では、32ページを開いて下さい。数学は図形から勉強をしましょう。おさらいでチェバの定理を仰って下さい」


「え?それって何?」


「チェバの定理もメネラウスの定理もご存じなくて?」


「僕はキスの定理と寝屋の枕(ねやのまくら)の定理な知っているよ」


ブチッッ。レベッカの堪忍袋の緒が切り刻まれた音が鳴る。


「王家は国民の先頭に立ち、導かねばならない存在。それがその努力を放棄しているなんて・・・。徹底的に学んで頂きますわっ!」


レベッカがロヴィーの学力を掘り下げていった結果、彼が理解しているのは前世の小学生レベル。


図形で使われるsinθ(サインシータ)など見たこともないらしく、四角形の面積を回答できる程度だった。


逃げようとするロヴィーを椅子に座らせて、レベッカの算数授業が始まった。

10分の休憩時間では全く進まず、レベッカはロヴィーを解放した。

だが、ロヴィーに山のような宿題を出し、鬼のような形相で「明日までにしてくるのよ」と迫ったのだった。


次の休憩時間、ロヴィーは逸早くレベッカから逃げた。

そして、隣の教室ですぐに自分の好みの生徒に声を掛ける。


「君の瞳は栗の様に明るい茶色で可愛いね」

声を掛けられた生徒は、イケメンな王子に話掛けられて、すぐに舞い上がっていた。


「今日は僕の部屋に遊びに来ない? 実はこの国の事を良く分からなくて・・。優しそうな君が僕の部屋でゆっくりと焦らず教えてくれると嬉しいんだけど、いいかな?」

ロヴィーの腕は、躊躇することなくその生徒の腰に回り、引き寄せる。


「わ、私でよければ・・」

女生徒は顔を赤らめて、頷く。


ロヴィーは無邪気な笑顔の下で、今夜の遊び相手が見つかった事を喜んでいた。

やっぱり簡単に釣れちゃうね。レベッカ嬢で、僕の腕前が落ちたのかと思ったよ。

目の前の女生徒をさらにしっかりと仕留めようと、ロヴィーがキスをしようとした途端、ロヴィーの顔面にレベッカの指が食い込んだ。


「ロヴィー殿下、先程私がお渡しした宿題を1ページもしていないのに、おいた(・・・)はいけませんわ」


レベッカの黒い瞳は瞳孔が開ききって、ヤバイ顔になっている。


「す、すぐにしますぅぅぅ!!」


ロヴィーは自分の教室に飛んで戻った。


レベッカは顔を赤らめていた女子生徒を見つめながら、警戒心を募らせる。


「この国で、ばか王子の好きにさせないわ」

レベッカはその足で校長室に殴り込みをかけ、直談判をして次の授業、全ての女子生徒を講堂に集めてレベッカ特別授業を開講する時間をもぎ取った。



高らかに、放送が流れる。


ピンポンパンポーン

「女子生徒の皆さーん。次の授業は講堂で行われます。全ての女子生徒は、講堂に集合して下さい。なお、男子生徒は各教室で自習です」


放送後、何も知らされていない生徒がぞろぞろと講堂に集まってくる。


そして、全ての女子生徒が講堂に入ると、全ての出入り口は締め切られた。

ざわめく講堂。

しかし、壇上にレベッカが現れると、ざわめきが静まる。


「皆様、授業のカリキュラムよりも、もっと重要な事を伝授いたします。これから、私がいうことを守り、これより先の学校生活を謳歌して下さい」


深く頭を下げると、再びこそこそと話す生徒がいたが、レベッカが

顔をあげると、その瞳の鋭さに誰も口を噤んだ。


「では、始めに・・・『待てない男に気をつけよう』」


どういう意味か分からず、生徒の頭に『?』マークが浮かんでいる。


「先ず、男性というのは好きな女性は大切にしたいと思っています。故に好きな女性であればこそ、すぐにベッドに誘うなど決してしません」


一人の女性が手をあげる。

「はい、そこのあなた。質問があればどうぞ」


当てられた女子が立ち上がる。

「あの、でも、好きだから一緒に長くいたくなるのではないですか?」


「ええ、勿論です。好きな相手とは一時でも長く一緒にいたいでしょう。でも、好きだからこそ相手を思い、すぐに手を出すような事は致しませんのよ!! 待つことが出きるのです!!出会ってすぐ手を出すようなのは、決して貴女の王子ではありません!!」


頷く生徒。


「では、次に。構ってちゃん男には気をつけよう」


再び講堂内部が『?』が飛び散らかっている。


「自分のことばかり話す男というのは、自分に興味があって、あなたに興味がないのです。ベラベラと自分のことを話す男には気をつけて下さい」


違う女子生徒が恐る恐る質問をした。

「あの、自分の事を知って欲しくて話をする男性もいるのでは?」


「とても、良い質問ですわ」

レベッカはにっこりと微笑みながら、演台の下で広げている小説や、情報雑誌を忙しくめくっている。

焦りは見せず、優雅に答えた。

「本当に付き合いたいのならば、疑問が生じるのではなくて?

それなのに、自分の事ばかりで全く貴女の事を聞きもしないのは、貴女に興味がないのよ」


「ほおおー・・なるほど」

納得の頷きが壇上から見て取れた。

そこには、独身の女性教師もいる。

レベッカはホッとする。

前世は喪女で、今世もオタ活一筋。そんな彼女が偉そうに恋愛を語れる訳ない。


「それと・・・壮大な夢を語って良いのは子供までよ。夢に向かって努力もせずに、すぐに助けを求める男は止めなさい。夢を実現可能にする計画もしない男に、お金は貸すな!! それと、世の中に『絶対に儲かる』って話は絶対に詐欺で、そんな美味しい話はありません!!」


前世の母を騙していたクズ男の話を力説してしまったレベッカ。

コホンと咳払いで、話をごまかしながら、次々と例題を出し、この学校の女性が騙されないように、話を続けた。

そして、最後に

「とにかく、女性の皆さんを狙う狼が沢山います。うわべの軽い愛を囁く男と、誠実に貴女を思う男性を見分ける力を養って下さい」

と締め括り、講演を終えた。




このレベッカの力説が生かされたのは、講演が終わった数時間後のことだ。


本日、ロヴィーに自分の部屋においでよと誘われていた女子生徒はレベッカの話を真剣に聞いていた。

そして、教室に帰ると待ち構えていたロヴィーに会う。


「僕、ずっと待ってたんだ。ねえ、今日はすぐに僕の部屋においでよ」

さっきはすぐにロヴィーの顔の良さにボーとなっていたが、今は冷静に彼の話を聞ける。


「でも、初めてあったばかりの男性の部屋に遊びに行くなんて、できませんわ」

あの講演前なら、ふらふらと行ってたかも知れない。


「そんなに怖がらなくていいよ。僕、何もしないよ。ねえ、おいでよ」

ロヴィーの執拗さが彼女の警戒心を強める。


レベッカ様が言ってたわよね。私が怖がっているのに、待ってもくれない。これは、レベッカ様のいうダメ男パターンその一だわ。


女子生徒の気持ちがスーと冷めていく。そして、冷ややかな目でしっかり断った。


「ロヴィー様。今日は折角誘って頂いたのですが、父と約束をしていたので、もし良かったら我が父と一緒にお茶などいかがですか?」


父というフレーズに寒気を覚えたロヴィーが、顔を強張らせて逃げる。

「そうなんだ、父上によろしく。そういえば僕も用事があったんだよ」

走り去る隣国の王子の後ろ姿を見て、心から女子生徒は感謝した。


「レベッカ様の講義をうけてて、本当に良かったわ」


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