42 鈴の音
カルブール王国の一行は、クノフロークのイサカ港に着いてすぐに王宮のお客様専用の南離宮に通された。
そして、その夜歓迎会が催されるのだが、クノフロークの関係者がバタバタとしている。
全く姿を隠したままの聖女様が、歓迎会を欠席したいとの申し出に、こちらの不手際でお気を悪くされたのではないかと、焦っているのだ。
クノフローク国の関係者が、聖女様の対処に相談した相手が間違っていた。
第2王子のロヴィーに、聖女の扱いについて尋ねたが、返ってきた答えは「放っておいていい。気に掛けるなら、僕を気に掛けて欲しい」と17歳と思えないカマってちゃんぶり。
出てこない者を引っ張り出す訳にも行かず、聖女様の部屋に食事を運ぶだけとなった。
同時刻、王宮ではカルブール王国の関係者をお招きし、盛大な晩餐会が催されていた。
この晩餐会の時間にレベッカは一人ぶうぶうと文句を言い、公爵家の屋敷でひっそりと食事をしている。
「きっと王宮の料理人が腕によりを掛けて作った料理が、ずらっと並んでいるんだわ・・・。羨ましい」
レベッカも行く気満々だったが、招待状にはレベッカの名前はなかったのだ。
それはアルナウトが、カルブール王国で有名な女癖の悪さのロヴィーとレベッカが会わないようにしたためである。
「私も宝石のような料理を食べたかったわ。それを食べるルーカスお兄様も見たかったな・・・。」
一人ぼっちで食べるご飯は、前世を思い出して、気落ちしてしまう。
「そうだ!! 王宮に忍び込めば・・!!」
立ち上がろうとしたレベッカの肩を押さえて、ストンと座らせた者がいた。
「誰よ?!」
レベッカが振り返ると、そこには晩餐会に行っているはずのルーカスがいた。
「にゃにゃにゃんでルーカスお兄様が??!!!」
「誰かさんが寂しがって、王宮に入り込まないようにだよ」
ルーカスが優しく妹の頭を撫でる。
「おにい・・さま・・。寂しさでマイナスの気分から、いきなりの頭なでなでは気分爆上がりで、心臓破裂を引き起こす事案ですわ。それに、急いで帰ってこられたのか、いつもは整った前髪が少し跳ねているのも『萌え』でそれだけで今日の晩餐会のお料理なんて吹っ飛ぶくらいです」
「・・・・良くわからないが、喜んでくれているようで、良かったよ」
出来た兄である。
兄の顔を夢見つつで、ホワーとしている妹には、全く関係のない話なのかもしれないが、今回レベッカが晩餐会と後日行われるダンスパーティーに招待されていない理由を教えてくれた。
「今回のレベッカが招待されていないのは・・」
「ああ、知ってますわ。カルブールで有名なスケコマシが来ているせいでしょ?」
「スケ・・・。」
レベッカはどこからそういう言葉を覚えてくるのだろう?とルーカスは頭を抱えた。
「そんなの相手にするわけないのに!!」
レベッカはほっぺを膨らませて拗ねる。
「もうすっかりレディーだと思ったいたのに、まだまだお子ちゃまなんだから」と頭よしよしを戴きました。
これで晩餐会と同じくらいの質量ですわ。
すっかりご満悦のレベッカだった。
ルーカスもレベッカの扱いに慣れたものである。
アルナウトの簡易的作戦は、レベッカとロヴィーが出会わないようにするだけだ。
その第一作戦は晩餐会とダンスパティーにレベッカを参加させないようにすることだけだった。
その後、マーレリアム学校にロヴィーが通う事になったとしても、学年の違う二人がそうそう、顔を合わせる事はないだろうと踏んでいた。
だが、世の中思い通りにならないことはよく起こる。
そう、とんでもないことが起こりうるのです。
ロヴィーの学力がなんと、全く足りてない。
編入試験を行った試験管は頭を抱えて、真っ白な答案用紙を2時間眺めることになったのだ。
「全教科ほぼ白紙か・・・。書いているのは名前だけなのか・・」
校長は苦悩の表情で、ため息をつく。
「いえ、それが・・・お名前も間違えておられて・・・」
ガンッ!!
校長が机に頭をぶつけた。
ロヴィーの学力は一年生にも到達していない。つまり、彼の年齢の3年生に編入すれば、全く勉強にもならないだろう。
だが、隣国の王族である彼を1年生の教室にいれるなど、隣国の国王に知られたら、王子をバカにされたと、外交問題に発展しかねない。
そんな訳で、彼を編入すべき学年を決めかねて喧々諤々すること2時間。
先生方が出した結論は、本人に決めてもらう!! だった。
ロヴィーに伝えると、本人は至って軽かった。
「ああ。いいよ。僕も学校は勉強よりも別の意義を見いだしていたからね」
別の意義とは?と思ったが、厄介な生徒の自由な理論を尊重し、彼の望む方法で、学年を決めさせたのだ。
その方法とは、ロヴィーが学校を見て回り気に入ったクラスで授業を受けたいと希望したのだ。
「この学校はレベルが高くて素晴らしいね!!」
隣国の王子に褒めてもらった教師は、嬉しそうに設備等を説明する。
「ええ、この学校では全ての生徒の必要に応じた資料をすぐに作り・・」
「ああ、そうじゃないよ」
ロヴィーが教師の話を煙たそうに、遮る。
「ここの学校の女子の顔のレベルの事だよ。みんな可愛い子が多いね」
「は?」
教師は戸惑っているが、気にせず持論を続けるロヴィー。
「この学校ごと、僕のハーレムにしたいな」
自分の大切な生徒を、妾にしようと言っている隣国王子に、教師は本気で殴りかけた。
そう、ロヴィーのクラスを決める重要事項は、そこに可愛い女子が一杯いるかどうかだ。
「うーん・・。ここの教室はちょっと僕には合わないな・・」
次々にクラスを覗き回るロヴィー。
その彼が足を止めたクラスこそ、レベッカがいる1年1組だった。
「ねえ、あのとっても綺麗な女の子の名前は何て言うの」
ロヴィーの瞳にハートが付いた。
その視線の先にいるのは、レベッカだった。
「彼女は学年一位で、(あなたと違って)とっっても優秀なレベッカ・バルケネンテ公爵令嬢です」
先生はレベッカの優秀さをわざわざ分かりやすくアピールした。
「頭もいい。家柄もいい。それに顔もいいなんて、僕にぴったりだね」
ロヴィーの言葉に、説明をしていた先生は苦笑いしかでない。
心の中では、『隣国の厄介者がなぜわが校の花である、レベッカ嬢と釣り合うのだ?』と罵っていた。
ロヴィーに空っぽのおつむには、いったい何が入っているのだろうかと、見たくなった。
「うん、決めた。このクラスに編入するよ」
脳みそが鈴のような彼の頭では、先生の言葉の裏なんて読めない。
ほら、ちりちりと残念な音がなっているよ。




