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41 三人の船旅


陸路ではなく海上から船でカルブールの王族と聖女はやってくる。


その船内で、三人三様の悩みや思いを抱えて、過ごしていた。


一人は第一王女のララ・バン・カルブール。

16歳。

彼女は転移した聖女の付き添いとして、この船に乗せられたが、それは表向きの事。

父である国王に、クノフローク国の王族またはそれに準ずる高位の貴族との縁を結んで来いと命令されていたのだ。


「私のような不出来な人間を、好きになってくれる人がいるのでしょうか?」

ララはベッドのシーツをぎゅっと握りしめる。


彼女の容姿は濃い茶色の髪の毛に黒い瞳。飾ればそれなりに美しい容姿をしているが、彼女の兄弟が皆美しすぎた。


自分以外の兄弟姉妹は金髪に碧眼で、とても見映えのする姿をしており、その容姿をいつもいじられていた。


第一王女という立場でありながら、そのオーラを感じさせない平凡さ。


『お前がこの国に役に立つのは、結婚するくらいだ。それに、その容姿では多くは望めないだろう』

言葉と共に父と家族からの蔑む視線。


船に乗った瞬間に、あの冷たい場所から離れた安堵感が広がった。

だが、すぐに必要に以上に強く叩かれるドアに、再び気持ちが萎れる。


「ララ様、すぐにお返事くださいませ。全く愚図なんだから」

侍女の言いぐさから、普段彼女が受けている扱いの酷さが垣間見れるだろう。


王族に厄介者扱いされているには、理由がある。

彼女の母は小国の第3王女だったために、王宮の勢力争いでは派閥に属する事も出来なかった。


しかも、国王の寵愛は国内の最大派閥である、侯爵家の令嬢に注がれてしまった。

そのために親子揃って肩身の狭い思いをしていた。


しかし、その母も病気がちになると、体よく国許に追い出されるように帰国してしまった。


そして、ララだけがカルブールに残されたのだった。その彼女も追い出されるように船に乗船させられた。


侍女はもう少しで船がクノフローク国の港に着くので、慌ててララの身なりを整えにやってきたのだ。


そして、ブラシをララの美しい髪の毛にガシガシと当てる。


痛みを我慢するララに、侍女はドレスを放り投げ、「これを着ておいてください」と慌てて部屋を出ていった。


慌てて出ていった理由。

それはララの兄弟である、ロヴィーが甲板に出ていたからだ。


「きゃー、ロヴィー殿下が甲板でダンスをしているのよ」


ララは毎度派手好きな行動を取る兄が好きではなかった。

彼も、この船に乗せられて、追い出された口なのだが・・・。



ロヴィー・バン・カルブールは、現在17歳。

幼い頃からその愛らしい顔で、王宮の全ての者の心を掴んできた。


少し微笑むとどんな大人でも自分の思い通りに動いてくれた。

そんな訳でナルシスト王子が爆誕した。

しかも、全ての女性の愛が自分に向いていると思い込んでいるのだ。

ここまで化け物級の自惚れ王子が出来上がったのには、もう一つ大事な要素がある。


彼の母が最大派閥の侯爵の娘だったのだ。

つまり誰も彼もロヴィーにすり寄り、ご機嫌伺いをする。


でも、彼の怖いところはそんな事など理解している。そして、それを最大限に生かして次々と女性をハントしたのだ。


どうしてそのような事をするのか?

答えは簡単。とっても女の子が大好きだったから。

たくさんの女の子と遊びたい。

生来の浮気者だ。


見た目はふんわり天然パーマの金髪と明るい青い瞳は、優しげな天使のようだ。

しかし、心の中は肉食系で、頭の中はピンク一色でR18の事しか考えていない。


こんな第3王子は、本国でいろんな令嬢にお手付きしまくったために、さすがに国王から国を追い出された。そして、妹と同じく厄介払いをされたのだが、彼の頭はまっピンク。


父上はきっと僕に広い世界で女性を見てこいと仰ったのだと、甚だしい勘違いをしている。


なので、現在も上機嫌で甲板で侍女を集めてダンスをしているのだ。




ところでここには、もう一人重要人物がいる。

異世界(日本)から転移させられた聖女と呼ばれた人物だ。


その日は突然に起こった。

朝、いつものように店のシャッターを開けて背伸びをする。

そして、店先を箒で丁寧に掃いていると、「毎日せいが出るね」と

同じようにシャッターを開けていたパン屋のご主人に声を掛けられた。


「店先を綺麗にしないと、商売運が悪くなるからね」


そういうと、再び店内に入る。

だが、店内は真っ暗で何も見えない。

そして、気がついたら知らない人達に囲まれていたのだ。


自分を見ていたのは、その国の王様とその第一王子。そして魔法士3人。


慌てる人々に、一人の魔法士が変な丸いガラス玉を触らせて、残念そうな顔をする。

「陛下、残念ながら今回の聖女・・・、異世界人は全く魔力を有していないかも知れません」


「なんだと、それではただの厄介者を転移しただけではないか!!」と一番偉そうなおじさんが叫ぶ。


それから、勝手に呼び寄せておいて、帰る手立てもないというのだ。

挙げ句の果てに、「クノフローク王国には魔法学が発達していてる。あなたはそこで魔法を習得するまでゆっくりと過ごして下さい」と船に乗せられた。


体よく厄介払いをされたのだ。


「どうして、こうなったのかしらねぇ?」

異世界人と呼ばれ、居場所を失い、理解できないまま船に乗せられたのだ。

船室から一歩も出る事なく、引きこもっているしかない。


「はー、和食が食べたい・・・」


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