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39 ジュリアの先読みは限界です


ガクガクブルブルとは、こういう状態を言うのだろう。

ジュリアは自分の足の膝が、バカみたいに震えているのを感じている。


今、彼女の目の前に、一般家庭にはないそれはそれは大きな扉があり、その前で心臓が早打ちの限界をむかえていた。

これは地獄門かもしれない・・・。


横の侍従がコンコンと扉を叩けば、冷たく廊下に響いた。

ジュリアはレベッカに書いてもらった免罪符代わりの手紙を握りしめ背筋を伸ばす。


「入ってくれ」

アルナウトの声は至って普通。

だが、ジュリアには恐ろしい魔界からの声のように聞こえる。


「おおお呼びとお聞きしさささ参上つかつか奉りいたしまして下さいました」

ジュリアは噛みまくり、何をいっているか理解できる者はいない。


一瞬怪訝な表情をしたアルナウトは、ジュリアの悲壮な面持ちで彼女の精神状態を推し量った。

「・・・呼び出したのは、聞きたい事があったからだ。緊張せずに・・」

アルナウトが言い掛けている途中に遮るなどあってはならないが、ジュリアは斬られる前に、レベッカの手紙を見せて、難を逃れたかった。


「平に平にご容赦下さい。ここにレベッカ様からのお手紙があります!!これで、命ばかりは!!」


アルナウトはレベッカからの手紙を目を通した後、その手紙をジュリアに返した。


「今回、これは必要ない。何の誤解をしているか知らないが、私が聞きたいのは、これだ」


アルナウトがテーブルに見覚えのある手帳を出した。


「あ!! これは・・その・・」

思ってもいなかった展開に、ジュリアの思考が凍り付く。


「これは、ジュリア嬢が落としたものだな?」

アルナウトに睨まれた時点で、言い逃れは出来ない。

ジュリアは素直に「そうです」と認めた。

もうなったら、全部話してしまおうと息を「すうーぅ」と吸った所で、アルナウトが先に切り出す。


「ここには、先に起こりうる事柄が書かれていた。つまり、お前は先読み人だな!?」


ビシッとドヤ顔で言われたので、違うとは言いにくい。

しかも、この世界の王子様に「ここは前世のゲームで・・・」、などと言ったからには、気が狂っていると思われかねない。

うん。ここは素直にその案に乗っかろうとジュリアは腹をくくる。


「そ、そうです!!殿下、私はホンのちょこっとだけ先が見えるのです。でも!! 今は殆ど見えなくなっています」


それは本当だ。

レベッカがやりたい放題で、ゲームの進行状況が変わりまくっているのだから。


「やはり、そうか。そこで、ジュリア嬢に聞きたい事があるのだ」

アルナウトがあるページに開かれた手帳を見せられる。


そこには、『カルブール王国の王子が、投獄されたレベッカを引き取る』

と書かれて大きく赤丸までされていた。


ジュリアはその文字を書いたが、赤い丸は付けていない。

つまり、アルナウトがこの事に興味を持って付けたのだと分かった。


これを説明するのかぁぁ・・。

ジュリアが頭を抱える。

なんせ、随分とシナリオとは変わっているし、レベッカ本人が全く別人である。


「先ほども言いましたが、私の先読みの力は既に尽きており、見えなくなってます。ここに書かれているものも、既に現在とは大きく異なっています。なので、私にはもう・・・わかりません!!」

勢いよくジュリアが頭を下げた。


本当に全く分からなくて、お手上げ状態。しかも、そこに書かれているのは『ひか海』の第2弾なのだ。

シリーズで2作目が出たが、肝心のレン様が出ていないと知って、やる気もなくゲームを適当に進めただけなのだ。


ここまで言ってるのに、アルナウトが諦めてくれない。


「では、現状と違ってもいい故、ジュリア嬢が先読みしていたレベッカの話を教えて欲しい」


そう言うと、言わない限りはここから出さないぞと凝縮した高圧的オーラを出してくる。


「では・・・・」とここまでの話からゲームのストーリーを話始めた。

「レベッカ様はお家の後押しもあって、心からアルナウト殿下の婚約者の座を望まれるはずだったんですが・・・」


「何故、そうならなかった?!」

アルナウトがバンッと机を叩いて、体を近付ける。


「どうしてでしょうね・・・?」

知っているが、言えない。

だって、ただのルーカスオタクだったんだもの。


「先、言います」

なるべくアルナウト殿下の顔を見ないように話を続ける。

「本来ならば、ヒロインの(私がヒロインだと思ってたんだけどな・・)エミリエンヌさんが恋をした相手を、レベッカ様が嫉妬で邪魔をするはずだったのですが、現実はすごく協力的で・・・、本来起きるアルナウト殿下による断罪も起きていないんです」


「それは起こらなくて良かったが嫉妬するレベッカも見たかったな・・」

アルナウトの独り言が切ない。


ジュリアはそれを聞こえなかった風を装う。


「それで、先ほどのカルブール王国の王子の話ですが・・・、この国の魔法の知識を学ぶ為に、第二王子のロヴィー・バン・カルブール殿下と第一王女のララ・バン・カルブール殿下と、さらに転移魔法で異世界から呼び出された聖女が留学してくる・・・はずなのです」


アルナウトが胡散臭いものを見るように眉をひそめた。


「そんな重大な外交事案は、聞いていないが?」


怒られても、ジュリアはストーリーを話しているだけなので、これが外交問題なのかどうか、分からない。

「兎に角、その聖女様が魔法を習得できないので、この国に来るのです。そして、カルブールに帰国する際に、第2王子が投獄されたレベッカ様を気の毒に思い、連れて帰る・・・と未来を読んだんです」


1作目の終了後に、美しいレベッカ様の断罪を回避する声が多く寄せられ、運営会社が救済措置として、それを付け足したと言われている。


ジュリアの前に唸っているアルナウトがいる。


「その第二王子とは、顔はいいのか?」


ああ、それで唸っていたのかと呆れたがゲームを思い出してみる。


「かなりの美男子で、甘いマスクが女性に大人気。しかもその顔から発する甘い言葉に若い女の子から、マダムまで虜になってましたね」


ジュリアは前世で、隣のおばちゃんまでロヴィーのファンになっていた事を思い出した。


「厄介な人物がくるかも知れないのだな・・・。そんな奴がきたらレベッカも隣国にホイホイ着いていくのでは・・・?」


アルナウトの独り言がかなり大きくて、もはや聞こえないふりが難しい。


ここで、昨夜のレベッカを思い出したジュリアは、このもどかしい二人のためにとっておきの情報を授けた。


「昨夜、アルナウト殿下の好みが私かもと冗談で言ったら、レベッカ様は少し不機嫌になられたのです。これはもしかしたら・・・嫉妬ではないでしょうか?」


「レベッカが? 嫉妬?」


アルナウトが途端に王子の顔から普通の青年のような顔になった。


「他に何か言っていなかったか?」


「他は・・・、そう言えば、殿下の好みが清楚系だと勘違いしていたように思います。早めに訂正しておいた方がいいですね。じゃじゃ馬のレベッカ様が好みだと。」


「そうだな・・・。」

アルナウト殿下は否定しなかった。

じゃじゃ馬が好みとは・・。






ジュリアはとぼとぼと王宮の長い廊下を歩いている。


そして、レベッカが自分のために持たせてくれた手紙を見ていた。


アルナウトには言わなかったが、聖女は第2作目のヒロインである。

この作品の悪役令嬢は第一王女のララで、攻略対象には引き続きアルナウト、ルーカス、ハンネスそして、隣国のロヴィーも含まれる。

今度の作品も聖女が、エミリエンヌのようにでしゃばらない人物ならいいのに。とフラグを立てるような願いをしてしまった。


第二王子の甘いマスクで囁かれたレベッカが、惚れちゃったらどうしよう。

聖女や、第一王女がアルナウトを好きになったら?

ゲーム補正でアルナウトがヒロインを好きになったら?

・・・・・。


ジュリアはこの世界で出来た友人の事を思うと心配が尽きなかった。

王宮を出た途端に、レンがふらつくジュリアを支える。


「どうした? 大丈夫か?」


「レン様が2作目に出ていなくて良かった。それだけでも、心配事が一つ減ったもの」


「なんか良く分からないが、レベッカ様が待っている。さあ、帰るぞ」


レンがジュリアに『気絶すんなよ』と抱えた瞬間、彼女はいつものように昇天したのだった。


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