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38 ジュリアの気絶日和


アルナウトは、以前ジュリアが落とした手帳を手にとって読んでいた。


ジュリアが書いている事で、大まかな事件は起きているが、詳細部分では間違っている事柄が多いのだ。


これはどういう事なのか?

先読みの力をもってしても、間違うのだろうか?


それを確かめる方法は、ジュリアに直接尋ねれば良いのだけれど、ジュリアという人物評価があまりにも低く、信用出来なかった。


だが、ここ最近の様子をみる限り、あのレベッカとも親しげに話しているではないか。

それはもう友人関係と言っても過言ではない。


レベッカの人を見る目は確かだと、定評がある。

そのレベッカが気を許した人物ならば、信用できるのではと考えた。


最終手段に出なければならないほど、手帳に書かれている事案が国家レベルなのだ。

放っておくのは危険だと判断したアルナウトは、ジュリアに登城命令を出した。


そうとは知らないジュリアとその家族は大騒ぎだ。


「ジュリア、お前一体何をしたんだ?」

ボスマン男爵は、人の良い赤ら顔にてっぷりした体を揺すって、ジュリアに詰問する。


身に覚えありありのジュリアは、あれこれと思い出す。

思い当たることが一杯ありすぎて、顔面蒼白だ。


エミリエンヌさんに泥棒の罪を(なす)り付けた件かしら? それとも、その後レベッカ様にそれを押し付けようとした件かしら?


入学当初は、自分の推しであるレンを助けることだけしか考えていなかった。


「お父様、どうしたらいい? 思い当たる事しかなくて、もう・・・私・・牢屋行きが決定してしまいましたー!!」


父のお腹に飛び付いて、おーいおいと声を上げて泣いた。


「最近仲良くなった、レベッカお嬢様に取りなしてもらう事は出来ないのか?」

ボスマン男爵も、娘が何か良からぬ事をして、申し開きの場に呼ばれたのだと勘違いしている。


おろおろしながら、可愛い娘が助かる方法を必死で考えた。


「・・・うん。グスッ・・一度レベッカ様に何とか・・何とか王子様のお怒りを和らげてもらうように頼んでみる・・ずずずず」


鼻をかみながら、部屋に帰ると手紙を書いた。

手紙を持って、使用人の所に行くのではなく、玄関を出て庭の木に向かって真正面に立つ。


「レン様、ここにいるのは分かっています。私、ピンチなんです・・・。だからこの手紙をレベッカ様に届けてすぐに会えるようにお願いして欲しいです・・・」


真っ赤な鼻を(こす)りながら、涙目で頼むジュリアは、珍しくレンに抱きついて来なかった。


木から、手が伸びてきた。

その手は手紙を受け取るとじっとしている。

暫く考えていたレンは、そのままジュリアの腕も掴んで抱き上げた。


「ななな、なんと!!レン様によるお姫様抱っこ!! これは、もはや・・私・・死んでいる?」


レンがハアアアとため息をつく。

「あんたさあ、今にも死にそうな顔で頼んできたんだよ? それなのに、俺に抱っこされただけで、もうすっかり元気じゃん」


レン様、怒っている? と、思ったのも束の間。何がウケたのかレンがクスッと笑う。


「間近で・・笑うレン様・・」

「うわ?! 気絶するな!!」


◇□ ◇


「・・・という理由があって、ここに連れてきたッス」

レンの報告を聞きながら、手紙を読むレベッカ。


「それで、なぜこの子は自分が死ぬと思っている割に、間の抜けた至福の顔で寝てる訳?」


レベッカの部屋のソファーに、『ふへへへ』と不気味な笑みを浮かべて眠るジュリア。

ジュリアが寝ている理由。

レンは勿論知っている。

それは大好きな俺の顔を間近でみたからだ、とはレンも自分の口からは恥ずかしくて言えない。


「いいわ。言わなくても想像がつくから」

レベッカがジュリアの側に行き、彼女の体を揺する。


「ほら、急ぎの用なんでしょ!! 起きなさい!!」


「うー・・ん・・うぎゃーぁあああー、なんでレベッカ様が?」


「失礼ね。人の顔を見て、叫ばないでよ」

起きたジュリアに叫ばれた後、レベッカは自分の考えをジュリアに話した。

「多分、殿下はジュリアに何か尋ねたい事があって、呼んだんじゃないかしら?」


「聞きたい事って何?」

ジュリアが、前のめりになる。


「さあ・・・それは分からないけど、光の治癒魔法とか?」

レベッカに、王太子であるアルナウトがジュリアをわざわざ王宮に呼ぶ理由など分かる筈もない。


「私なんか用は無いはずなのに、何で王宮に呼ぶのかしら? ・・あっ、もしかして!! 私の事、好みだから呼んだとか?!! キャー照れるわ!!」

レベッカに会って、ジュリアは本来の楽天的思考を取り戻していた。


適当に言ったのだが、以外にもレベッカがその言葉に、ムッとしている。


「え? レベッカ様? 私、冗談で言ったんですよ・・・? なんで、そんなに不機嫌なんです?」


レベッカは自分では気が付かなかったが、勝手に眉が寄って唇が『へ』の字に曲がっていたのだ。


「怒ってないわ。それに、アルナウト殿下の好みって清楚系だと思うのよね」

記憶喪失の時の彼は、ぐいぐいレベッカに押していた。つまり、彼の好みは大人しい女性なのだと思っている。


レベッカは、記憶喪失中の出来事は全て覚えている。

だが、恥ずかしくて言い出せないのだ。


「ふーん・・・。レベッカ様って・・・喪女だったでしょ?」


「なんで・・」

なぜ分かる?と驚くレベッカ。でも、これ以上この話しを続けると、ジュリアにおもちゃにされそうなので、レベッカは話を切り上げる。


「そんなことはどうでもいいことよ。あなたは明日、一人で王宮に行くんでしょ。もし、断罪系ならば、すぐにこの手紙をアルナウトに渡して頂戴」


先日、アルナウトの可愛い?弟分の命を助けてやったのだから、こちらも可愛くはないが、友達?の命を助けてもらおう。

そうしたためた手紙を、ジュリアに渡した。


ジュリアはその手紙を大事そうに抱え、自分の屋敷に帰っていった。

その際、「持つべきものは友達よね」と何度も何度も頭を下げて感謝するジュリア。


帰りはレンに送ってもらうと気絶するので、歩いて帰るというジュリアだったが、レンが強引に抱えて送っていった。


秒で気絶したジュリアに不安は残る。

でも、あの二人は案外いい組み合わせなのかも知れない、とレベッカは二人のやり取りを思い出し笑ってしまった。


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