34 ダンスの強硬突破
レベッカの16歳の誕生日。
記憶がなくなる前から招待状を沢山の方々に送っていた為、中止する事が出来なかった。
レベッカ自身、自分の誕生日を盛大に過ごしたいわけではない。
これはレベッカが、大々的にルーカスの恋人がエミリエンヌだと公言するためだけに、用意されていたパーティだったのだ。
そして、物影から二人の様子を堪能しようと画策していたために、レベッカ本人の準備は全くといっていい程、手抜きだった。
15歳までのレベッカの誕生日は実に質素だった。誰も、招待せず家族でひっそりと過ごし、自分を祝うルーカスを思う存分味わっていたのだ。
それなのに、今年大勢の客人が呼ばれたのだ。世間では、レベッカ本人に関する大きな発表があるものと勘ぐっていた。
実際には、レベッカに発表する予定のものなどなかったのだが・・・。
バルケネンテ公爵家の西側に、大きなレセプション会場となる大きな建物がある。
今日はそこで、ダンスを予定しているために、楽団もスタンバイをしている。
その指揮を任されているのは、長年、あちらこちらの屋敷を回っている老練な指揮者だ。
彼は、朝から嫌な予感がしてならなかった。
今日は良い音楽を届けることだけを考えよう。そう心に決めて楽団員のみんなと音合わせに集中する。
誕生日パーティーが始まった。
会場には沢山の招待客。そこに、王太子殿下を伴って現れたレベッカ。
ワンショルダーのドレスの胸元を、白色の花でちりばめた緑色のドレスは、腰からも螺旋状に花をあしらった上品なものだった。
アルナウトのタキシードも同じ花飾りを胸につけ、同じ共布のネクタイとハンカチが胸のポケットに入っていた。
その完璧な出立ちに、ため息が招待客から漏れる。
招待客が、今日のパーティーはレベッカと王太子の婚約が決まったお披露目なのだろうか?と噂し合う。
まだ娘は婚約していないとばかりにイーサンが声を張り上げて、誕生日のパーティーだと強く声をあげる。
「今日は、娘のためのパーティーにようこそお越しくださいました。心行くまで楽しんでください」
エスコート役をとられたイーサンが、挨拶をすると楽団から音楽が流れた。
勿論一曲目は、エスコート役の男性と踊るものだ。
アルナウトはレベッカの細い腰を抱き、うっとりと見つめる。
周囲の男達が、レベッカの二曲目のダンスパートナーに収まろうと、欲望の眼差しで狙っている。
いつものレベッカなら、『このわたくしとダンスをする資格を有していますの?』と聳え立つ塔の上から見下ろすくらいの視線で、誰も近寄らせない。
しかし、今日のレベッカはそんな防御技術を持たない一輪のバラだ。
この美しい花を手折られてはならない、と周囲に牽制するアルナウト。
「レベッカ、ダンスを覚えていないと言っていたけれど、とても上手だよ」
「本当ですか? アルナウト殿下にそう言っていただけると自信になります」
嬉しそうにレベッカが微笑むと、そこから春の息吹が広がっていくような、感覚に陥る。
外で見ている人たちも、一気に魅了された。
一曲目の音楽が、終わろうとしている。
アルナウトの王宮陣営が考えた作戦は、在り来たりだった。
そう、二曲目もそのまま強行突破で踊るというものだ。
二曲目、同じ相手と踊るというのは、恋人か婚約者だ。
こうなったら、ここで一気に恋人宣言してしまおう。
相手の許可を取っていないところが、反則だがレベッカの手を他の狼に渡す気はない。
自分もあくどい狼なのだが・・・。
楽団の指揮者が、レベッカとアルナウトが相手を変えていない事に気がつき、間奏を長目に演奏している。
焦る指揮者。
今回の雇い主である、イーサン・バルケネンテ公爵を見ると、手を横に何度も広げて見せる。
これは、間奏を長引かせろの合図だ。
うんうんと頷く指揮者。
この間に、ルーカスをアルナウトと交代させるつもりだ。
だが、ここでうっかり指揮者は王太子殿下と目があってしまった。
王太子から、血走った眼で次の曲をさっさと演奏しろと急かされた。
どうする!?指揮者!!
ピーンチ!!指揮者!!
ここで長年貴族を渡り歩いてきた指揮者は、とっておきの言葉を思い出しす。
『フォークの柄と主は太い方が良い』
(訳・長いものには巻かれろ)
指揮者の指揮棒が振り上げられる!!
二曲目が始まった。
動揺する楽団員も、腹を決め演奏をする。
「お願いだ、レベッカ。もう一曲俺と踊って欲しい!!」
アルナウトがレベッカの腰をガッチリと持ったまま懇願する。
レベッカには、その顔は泣きそうに見えた。
もう一曲くらいならと、軽い気持ちで「はい」と返事をする。
今の彼女に貴族の暗黙のルールなどわかりはしない。
その返事にアルナウトは驚喜し、いきなりレベッカを持ち上げて、派手にターンする。
周囲の観客達から、「キャー」という悲鳴と、レベッカと踊れなかった男性客からの低い唸り声が上がる。
イーサンは地団駄を踏み、シャーロットは嬉しそうだ。
この二曲目により、王太子の婚約者の一番の有力候補にレベッカの名前が刻みこまれた瞬間だった。
この世の春・・といった王太子。
しかし、会場の明かりが全て消え真っ暗になった。
イーサンは喜ぶ。
誰がやったのか知らないが、これでダンスの二曲目は無効だ!!
だが、喜んだのも束の間。
再度明かりが会場に着くと、レベッカの姿が消えていた。
アルナウトが、辺りを見回す。
「さっきまでこの腕の中にいたのに・・・レベッカはどこに行ったのだ!!」
「きゃーーーー!!!」
一人の女性が悲鳴をあげる。
そこには、血飛沫が散っていた。
「レベッカ!! どこにいる!!」
アルナウトが半狂乱になって叫ぶが、レベッカはいない。
すでに、連れ去られた後だった。
◇□ ◇□ ◇□
少し前、もう一人この会場から、連れ去られた人物がいた。
それはハンネス・ベイエルだ。
彼は、昨日からの寝不足と初めて飲んだ酒にふらふらしながら、この誕生日のパーティーにやってきた。
目の前を、美しい女神が王太子と手を取り過ぎて行く。
その光景に、ぎゅっと強く拳を握る。
その時、給仕の男がにこやかに「どうぞ」と言って飲み物が入ったグラスを渡してきた。
ハンネスはそこに何が入っているのかも見ずに、グッと飲み干す。
するとどうしたことか、頭がクラクラと回ってきた。
そして、倒れるように近くのソファーに座ると意識を失くしてしまう。
それを見計らったように、先程の給仕の男がハンネスに近寄る。
「お客様の具合が悪いようなので、奥の部屋にお連れします」と誰に言うでもなく、ハンネスをもう一人の男と一緒に抱え、会場を出る。
これは、アルナウトとレベッカの登場に招待客が気を取られている間に行われ、誰にも知られる事はなかった。




