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03 全身黒タイツはお好きですか?


飽きもせずルーカスを堪能し、()で続けるレベッカ10歳。ルーカス12歳。


レベッカの毎日はとても忙しかった。

父に頼んで公爵家の騎士に剣術を教えてもらったり、家庭教師を雇い、あらゆる方面の勉学に励んでいる。


しかし、大事な時間は絶対に譲れない。

ルーカスを拝み、ルーカスの健やかなる成長を楽しむ時間だ。


今日も今日とて、窓越しにルーカスを見ていたら、父に呼ばれた。


今、ルーカスがお母様と一緒に花壇のお花を愛でるというスーパーレアで、目にも眩しい時間だったのに!!!


一体、何の用事?

絵画鑑賞中よーー!!


レベッカは怒りを父のドアにぶつけた。

こんこんこんこんこんこんっっっ


「レベッカ、何度も言うがドアは二回叩けば分かるから」


イーサンは頭を抱える。


「ああ、ルーカスも来たんだね。二人ともそこに座ってておくれ」


ルーカスが来たことでホッとしたイーサンが、二人の前に一通の招待状を広げて見せた。


「なんですの? これは」

大事なルーカスタイムを台無しにされたレベッカは、まだ不機嫌だ。


「今度、王太子殿下が12歳の誕生日を迎えるにあたり、レベッカにもそのパーティーの招待状が届いたのだ!!」


「お父様、『届いたのだ!!』って、それ・・私も行かないとダメなんですの?」

あらやだ、めんどくさい。

そんな時間があったら、ルーカスを愛でる会の会員を集めて、今後の方針などを決めたいわ。

会員は私一人だけど・・と一人突っ込むレベッカ。


そんなレベッカに、イーサンがこれがどんなに大切な事か、延々と熱く語っていたが、レベッカはあくびを3連発していた。


「お前の興味はルーカスだけだと知っている」

父に言われ、レベッカが驚く。


「っ!なぜそれをお分かりに?!」


「この屋敷のものなら、全員知っているぞ」

なあ、と横のルーカスをイーサンが見ると、当のルーカスは困った顔をしながら『ははは』と苦笑いだ。 


「え? 秘密裏に行動していたのに?」


「レベッカよ。ルーカスが動けば爆走してお前も動き、ルーカスの一挙手一投足を、未だに何人もの絵師に描かせておいて・・どこが、秘密裏なのだ?」


しまった。

愛がだだ漏れだったわ。

レベッカは・・・ミジンコ程度の僅かな領域の脳みそを使って、一応反省した。


「ということで、ルーカスにも殿下の誕生日のパーティーは行ってもらうことに・・」


「ぬお? 行きます。すごい行きたいです。絶対に行きます!!!」

父の言葉を遮って挙手でアピールするレベッカに、イーサンが深ーーいため息をつく。


「はあああ・・・。わかったから。殿下に粗相のないように・・・ルーカス頼んだよ」


「・・・はい、父上。できるだけの事はしてみます・・」

ルーカスは力ない返事で頷いた。


ルーカスもこの頃になると、流石にレベッカの常軌を逸した行動をおかしいと認識していた。


イーサンとルーカスの心配をよそに、レベッカは最終奥義を考えていた。

豪華な王宮の庭園を令嬢と歩くルーカスを目に焼き付ける。

そのための奥義。


植木に化けて見守るのだ。

それが無理なら・・・

全身黒いタイツで暗闇から見る。


「レベッカや。ドレスを作るのだが、好みの生地の色はあるか?」


レベッカの返事は速い。

「黒か緑で!!」


植木になるなら、緑。

全身タイツなら黒。


「うむ、分かった。用意しておこう」

イーサンはドレス作りの大変さを二日後思い知るのだった。





この王太子の誕生日パーティーは、王太子妃を選ぶための選考会も兼ねている。

それが、イーサンにとっては不安で仕方がないのだ。


黙っていればレベッカの顔は、その辺の令嬢とは比べ物にならないほど綺麗なのだ。

親バカの点数を差し引いても、見映えはいい。


うっかり王太子が、顔だけ見て気に入ってしまわないか、それが心配なのだ。


本来なら、不参加にしたいところだが、絶対参加の条件がつけられている高爵位の辛さだ。


とはいえ、可愛い娘のドレス姿は気になる。

今日は朝から来ている仕立て屋に、レベッカがどんなドレスを注文しているのか気になり、部屋に行くことにした。


だが、部屋の前にくるとレベッカの注文を、必死に断る仕立て屋の声が響いている。

「お願い、作って欲しいの」

「お嬢様!!それだけはお作りすることができません!! どうぞそればかりは!!」


「ええ? これほどお願いしているのに? なぜ作れないのですか?」

レベッカが珍しく悲しげに、懸命にお願いをしている。


イーサンは耳をそばだてた。

あれほどお願いしているわが娘の希望を受け付けないとは!!

仕立て屋を叱ろうとバーアアンとドアを開けて入る。


「どういうことだ? わが娘の願いを聞き届けられぬ理由を申せ!!」

イーサンはまさか自分の娘が、黒の全身タイツを頼んでいるなど、想像もしていない。


「あの・・お嬢様が・・このようなデザインの・・服?でしょうか?とにかく見てください」


仕立て屋が公爵令嬢が描いた物を見せる。


「うむ、これは・・・・?」

想像していたやつと違う・・。

イーサンは心の中で、

『なんだこれ?』

『なんだこれ?』

『なんだこれ?』

『なんだこれ?』

『なんだこれ?』を5回は繰り返した。


それからゆっくりとソファーに腰掛けて、ふーーーうっと長いため息をついて、目を閉じた。


『しっかりしろ。イーサン。仕立て屋がこれほど無理だと言っているなら、その原因はレベッカにあるはずだと、そろそろ覚えないといけないぞ』


『ああー、そうだったな。ははは』


自問自答タイム、終了。


「レベッカ、この真っ黒なピチピチ衣装は何につかうのだ?」


冷静を装い、一応聞いてみる。


「お父様、これは闇に隠れるための衣装です。お兄様がパーティーにいかれるのなら、影から見守るのが、ヲタ・・・妹の役目ですわ」


「はぁぁぁー・・・仕立て屋。娘の意見は全く無視して色もデザインも任せる。それなりに見えればそれでいい。頼んだよ」


「ええ? お父様? 全身タイツは?闇夜に隠れないと! それがダメなら全身葉っぱで植木鉢作戦を!!」


「レベッカ、パーティーは真っ昼間に開催される。それに王宮では綺麗に刈り込んだ植木ばかりだ!! 諦めなさい」

イサーンは一言だけいうと、部屋を振り返ることなく出ていってしまった。


これでレベッカの全身黒タイツは封じ込められたのだった。


「ああ、なんということでしょう。お父様には言えないけれど、今回のパーティーは、お兄様とヒロインが出会うという見逃せないイベントがあるのです。生でよ・・生配信イベントを見逃すなんてあってはならないのよ」


ここで去っていったはずのイーサンが勢いよく部屋に戻ってきた。

「言い忘れておった。よいか、レベッカ。決して王太子殿下と接触してはならぬぞ!! 絶対にだ!!」

それだけ言うと、再び仕事に戻った。


「あら? ここではお父様が王太子と是非に懇意になってこいと言うはずなのに・・・。まあ、いいわ。私には王太子なんて端から興味ないもの」


王太子・・・。

王太子?!

レベッカが首を捻る。


「これはいけないわ。・・・男爵の娘であるヒロイン、エミリエンヌ・ラートは親戚の公爵令嬢の侍女として城内に入る事が出来るのよね。その時に着けているピアスの色で、次のイベントに進む相手が決まるんだったわ。何もしなければ、はじめは金色のピアスで、王太子とイベントが始まってしまうわ」


ルーカスは水色。

王太子は金色。

騎士団長の息子は赤色。


ゲームの三択問題で、なぜか赤色を選んでしまい、後悔の涙を流した事を思い出した。

「なんとしてでも、エミリエンヌのピアスを水色に変えて見せるわ」



本来、アルナウト・フォン・クノフローク王太子殿下との顔繋ぎのために奔走する貴族が多い中、父はそれを避けるように娘に指示を出す。

しかも、その娘は王太子を忘れ、全く違う計画を画策していた。


その皺寄せは、全てルーカスにいってしまう。

父の執務室に呼ばれたルーカスは、部屋の扉の前でため息が出た。

「王太子の誕生パーティー・・。以前から、レベッカを欠席させていたのに・・・。今回出席させなければならなくなったと相談された時は驚いた」


これまで父が、必死でそういう類いの◯◯会と名の付くものにはレベッカを(ことごと)く欠席させていたが、今回は王家からの要請もあって仕方がなかった。


「今回の父上の相談内容は、嫌な予感がしてならないな」


ルーカスは、意を決してノックする。


ルーカスが部屋に入ると、イーサンが深々と頭を下げた。


「ルーカス。最初に謝っておく」


「いえいえいえいえ、父上。どうか、頭をお上げください。もう、それだけで心臓に悪いです」


「え?許してくれるのか?」


「許すも何も・・・まだ内容すら聞いていません・・」

ルーカスはこの部屋から逃げたくなる。

言い出しにくそうな父に代わり、仕方なく自分から言い出す、親孝行なルーカス。

「レベッカの事ですよね?」


父が嬉しそうな顔をする。

「そうなんだ。きっとルーカスならやってくれると思っていたよ」


「・・・だから何を?」


「レベッカは異常にお前が好きだろう? だから、絶対にお前の傍から離れない筈だ」


ルーカスもそれには自信があった。

生まれた時から、妹のレベッカはルーカスが好きだと全身から噴き出す愛を向けてきた。


赤ちゃんの時は笑顔で愛を語り、

お喋り出来るようになると、どんなにルーカスが尊い存在か、語ってくれた。


有りがたく思うがちょっと怖い。

しかし、それが功を奏しルーカスの誘拐事件が発生しそうになった時、犯人はあっという間に逮捕となったと聞いた。


だから、今度のパーティーもルーカスの傍から離れないと確信していた。

「そうですね。レベッカは僕の傍を離れないでしょう」


「そう!だから、ルーカスが王太子殿下の傍に寄らなければ、レベッカも殿下の傍には寄り付きもしないだろう」


なるほど、そう言う事か。

それならば、できるかもしれないと、ルーカスも安堵した。


「でも、よろしいのですか? 他の貴族は殿下と同じ年頃の息子には、側近候補として近付くようにと言っているそうですが?」


「いや、よく考えろ、ルーカス。もし、ルーカスと殿下が一緒にいて、お前が転びそうになった時にレベッカが取る行動を考えてみろ」


ルーカスはその状況を想像してみた。

自分を助けようとレベッカが飛んで来る。そのときに横にいる王太子殿下が邪魔になるだろう。

レベッカはどうする?


・・・・王太子を蹴り飛ばして、自分を助けに来る妹がありありと浮かんだ・・・。


異常な愛を感じるが、ルーカスは自分をこよなく愛してくれる妹を好きだった。


「王太子暗殺未遂は避けないと・・・」

ルーカスは決意するのだった。


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