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28 レベッカ消滅(1)


占い師の助言通りに、エミリエンヌは素直な気持ちを伝えようと、公爵邸までルーカスに会いに来た。


普通ならば、勝手に屋敷を訪れるようなことはしないし、予約がなければ会う事も難しい身分差だ。


だが、エミリエンヌが来たらすぐに通すように、邸宅内に指示が行き渡っている。

門で立ち止まったエミリエンヌは、すぐに門番が笑顔で背中を押して通してくれた。


エミリエンヌは玄関まで歩いていくがその足取りは重くなる。

何を話せばよいの?

と湧いていた勇気が、どんどん枯れて行く。


屋敷の玄関が見えてくるころには、足が完全に止まって場違いな自分を諫めだした。

「占い師に言われて、こんなところまで来るなんて・・・」

のこのこ来た自分の浅はかな行動を恨む。


だが、ルーカスが玄関から飛び出して、こちらに駆けて来るのを見た瞬間全て吹き飛んだ。


そして、気が付けば「ルーカス様が好きです!!」と絶叫に近い愛の告白をしていたのだった。


ルーカスは、エミリエンヌを抱き締めると、少し残念なそれでいて、照れた顔をする。


「今度、君に会えたら告白するつもりだったのに、先に言われてしまったよ」


「・・・っ!!でででは、ルーカス様が好きな方って・・・!!」

「君だよ」




「くうううううう!!」

レベッカ悶絶。

「ルーカスとヒロインのあの表情。リアルでこの目で見れるなんて!! 『ひか海』最高!!」


公爵屋敷の諜報室で、悶えるレベッカを尻目に、他の諜報部員は冷静に仕事を黙々とこなしている。


レベッカがこのようにキャーキャーとじたばた転げ回るのは、ここでは至って普通の事なのだ。


「良かったですね、レベッカ様。これで心置き無くレベッカ様の誕生パーティーにエミリエンヌ様をご招待できますね」

ミランが、窓の外の幸せそうな二人を見下ろして、微笑む。


「これも、ジュリアが老婆の姿になって頑張ってくれたお陰ね。

よく言うじゃない・・『雨降って土壌ぬるぬる』って」


「レベッカ様、それは『雨降って地固まる』では・・? そんな事よりも、今度の誕生日パーティーのドレスを新調するからと、奥様が探しておられました」


「そうだったわ。今回のパーティーにお母様の力の入れようが凄くて・・・。何故かしら?」


今回のパーティーで、アルナウト王太子殿下自ら、レベッカのエスコートをすると申し出があったのだ。


しかし、その事はレベッカ本人には秘密にしている。

屋敷中知っているが、レベッカには当日まで内緒だ。


先に知らせると、面倒臭がったレベッカがどんな手を打ってくるか、わからない。


イーサン・バルケネンテ公爵の妻のシャーロットに、黙っていて欲しいと懇願されたミランは、レベッカの問いに答える事なく、彼女をシャーロットの待つ部屋に送り届けた。




◇□ ◇□ ◇□

数週間後。

まだ、誕生日パーティーには三ヶ月の時間があったが、楽しいイベントに屋敷はうきうきしていた。


華やかなレベッカを、屋敷の皆が慕っている。

公爵婦人のワクワクが伝染したかの如く、一丸となってパーティーの成功に向けて張り切っていた。


今日は、ジュリアがカロリーナ・クレーンプット侯爵令嬢の動きを報告するためにレベッカの自室に出向いていた。


相変わらず、ジュリアは横に立っているレンの顔を凝視しながらレベッカに報告中だ。

「まだ、カロリーナ侯爵令嬢は私に直接は接触してきていません。スーハースーハー・・」

レンの回りの空気を全て吸い込んでいるのではないかと思うほど、レンの匂いを堪能している。


「ねえ、せめてこちらを見て話してくれないかしら?」

レベッカが注意するが、ジュリアは向き直る素振りも見せず、いいわけをする。


「だって、いつもレン様はお隠れになっていて、ご尊顔を拝すこの機会を逃すなんて出来ませんわ」

レベッカも、推しの顔を見ている自分を思いだし、ジュリアの行動を見逃すことにした。


「ではそのままで、報告を続けて頂戴」


「はい、ではこのままレン様を堪能しつつ・・・えっと、直接の接触はないのですが、私の侍女にカロリーナ様の侍女が近寄ってきましたわ」


「あら、カロリーナ様って見かけによらず、慎重派なのね。見かけは大胆なのに・・」

我が儘放題のカロリーナ令嬢の、ケバケバな化粧を揶揄する。


「あのお化粧は、彼女が自ら侍女にさせているようですよ。私の侍女はこちらの情報を漏らすことなく、反対にカロリーナ様の情報を聞き出していますの」


「・・・私の侍女ですけどね」

ジュリアが自慢げに、自分の侍女と言っているが、その侍女を期限つきでレベッカが貸し出しているのだ。


この時、ジュリアがルーカスの事を尋ねた。

「今日はルーカス様は、エミリエンヌ様とお出掛けですか?」

二人の交際が順調だと聞いていたので、恋ばな大好き『ひか海』ファンとしては、進展具合を聞きたかったようだ。


「ええ、今日も仲良くお出掛けですわ」


「えー・・いいな・・」

レンを見ながら、何かを想像しているのだろう。

ジュリアの鼻が膨らんでいる。


「お買い物デートでしょうか?」

うっとりの想像の世界にはレンがいるのだろう。


「いいえ、今日はバルケネンテ公爵領を二人で見に行くと出掛けたのです」


レベッカが言い終わると、ジュリアの首がレンの方から、レベッカの方へ、オイルの切れたロボットのようにギギギと向いてくる。


「・・・それは、スキル発現イベントの事故が起きる日ではないのですか?」


レベッカがゲームの内容を思い出す。

ガタンとソファーから立ち上がり、時計を見る。


何故忘れていたのだろう!!

ゲームでは、エミリエンヌが光の魔力を持っていたが、中々高位魔法が発動できずにいた。

そんな時に攻略対象と一緒に領地に視察に出掛け、事故に遭う。

エミリエンヌは無事だったが、攻略対象が大怪我をし、それを見たエミリエンヌが、光の高位魔法の『治癒魔法』を発動させるのだ。


まだ、間に合う!!

あの事故は、正午に発生するはずだ。

ミランが「お一人で行ってはなりません!!」と叫んだが、レベッカは転移魔法を行った後だった。



丁度同じ頃、王宮でアルナウトがレベッカの誕生日パーティーで着るタキシードのデザインを決めていた。


パートナーのレベッカと合わせた共布を、どこに使うか決めかねていた。


「普通ですと、ハンカチーフをお揃いにする事が多いのですが?」

デザイナーが差し障りのない案を言う。


「うーん。それだと見えにくいだろう? もっと一目見てインパクトのあるところに使いたいな」


誰が見ても、これは相思相愛じゃないのか?と思わせるくらい、レベッカのドレスの生地をふんだんに取り入れたい。


相思相愛じゃないけれど・・・。

アルナウトが、考えたデザインを書くために、部屋の壁に置かれた小さなライティングデスクから、紙とペンを取り出そうと引き出しをあける。


そこには、あの手帳が入っていた。

「そういえば、誕生日パーティーーに浮かれて見ていなかったな」

手帳をペラペラと捲る。


丁度、開いたページに攻略対象の大怪我と見出しが書かれていた。


そこには、怪我をする場所と時刻が書かれていた。

「これは、ルーカスの事ではないのかっ?! 今何時だ?!!」


時計を見ると、もうすぐ長い長い針も短い針も真上を指そうとしている。

レベッカは知っているのか?


「ーークッ!!」

レベッカが泣くところなど、見たくない!!

アルナウトも、レベッカと同時刻転移魔法を唱えた。





レベッカが転移魔法で着いた場所は、ルーカスの馬車の数メートル先だった。


ルーカスとエミリエンヌを乗せた馬車は、昨夜の大雨でぬかるんだ山道で、車輪が空回りをして進めなくなっているところだ。


ホッとするレベッカ。

山の斜面に運び忘れて放置されていた木材が崩れて、馬車を直撃する事故だったのだが、馬車の上の斜面にはそれらしきものはない。


だが、その事故は起こってしまった。


グオオッッ!!ドガン!!ズオオーーッッ

気を抜いた瞬間、レベッカの背後に轟音が鳴り響いた。


振り向くと、急に現れたアルナウトの頭上に滑り落ちて来る木材の固まり。


レベッカの位置から50メートル離れている。

「間に合わない!!」


レベッカは何も考えず、転移魔法を瞬時に発動。

いつも自分に構ってくる笑顔のアルナウトが、消える?

その眩しい笑顔を失うことに恐怖したのだ。


アルナウトが立っている場所に転移したレベッカは、思いっきりアルナウトを突き飛ばす。


その直後、何本もの木材がレベッカを襲った。


アルナウトは突き飛ばされながら、そして、ルーカスとエミリエンヌは馬車から降りた時に・・・。

レベッカが崩れ落ちた木材と一緒に山の斜面に消えるのを見た。


アルナウトは叫びながら、斜面を駆け降りレベッカを探す。


ルーカスも飛び降り必死でレベッカの名前を呼び続けた。


もうもうと土煙をあげる斜面。

土砂で埋まったレベッカは見つからない。

だが、重なった木材の下から、レベッカの白い手があらぬ方向に曲がって出ているのを、アルナウトが見つける。


アルナウトとルーカス、そして、駆け付けたミラン達はレベッカの名前を叫びながら、大きな木材を魔法で次々に飛ばす。


ようやく全身が出てきたレベッカの顔には一切の血の気がなく、あちらこちらから血が流れていた。


どう見ても、レベッカの生命は消えて後は逝くのみ。

彼女の魂を行かすまいと叫び続けるアルナウト。


しかし、どくどくと溢れるほど流れ出る血を止めることが出来ない。

抱き抱えるアルナウトの白い服が真っ赤に染まっていく。


「逝かせません!!」

その声と同時に辺りが、金色に光る。

エミリエンヌが沸き起こる悲しみを糧に、闇魔法ではなく、光魔法を発現。


だが、レベッカの出血を僅かばかりおさえただけだ。

折れた腕や足も治せない。

「私の大事なお友だちを連れて逝かないで!!」

彼女は全身の魔力を使い、再度『回復魔法』を使う。


だが、レベッカの大怪我を直すまでに至らない。

レベッカの呼吸も既に止まっている。

「どうして? 私じゃダメなの?」

辺りに絶望が漂う。


「諦めないで、エミリエンヌさん!」

レンに連れてきてもらったジュリアが、エミリエンヌの肩をたたいた。


「私の大事なオタ活仲間を、こんなことで失うわけにはいかないのよ」


ジュリアが作れる最強の魔方陣を展開する。


「エミリエンヌさん、身体全ての治癒を止めて、レベッカ様の内臓だけの治癒に焦点を絞るのよ」


エミリエンヌは、ジュリアの魔方陣合わせて、レベッカの身体の中心に再度ジュリアと同じ場所で『回復治癒魔法』の魔法陣を光らせた。


「「友達をどこにもいかせない」」

二人が同時に詠唱を叫ぶ!!

レベッカの身体が強く光る。


アルナウトに抱かれたレベッカの肺が、生きるための空気を僅かだが吸い込み、呼吸を始めた。


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