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23 それはデート?(1)


レベッカとアルナウトは、宝石店で、手頃なピアスを買った。

細いチェーンの先に、石がついている簡単な作りの物だ。


高額だとエミリエンヌに受け取ってもらえないと考えたレベッカは、一番安価なアクセサリーを選んだのだ。


ルーカスには、エミリエンヌの瞳と同じ色のアメジストが付いたものを、そしてエミリエンヌにはルーカスの瞳のアクアマリンの物を選んだ。


レベッカは、自分用に黒い瞳と同じ黒曜石のピアスを持っていたが、それはアルナウトに取られ、変わりに美しい翠のグリーントルマリンのピアスを渡された。


「これで、揃ったな」

上機嫌のアルナウトに、レベッカは困り顔で微笑む。


「殿下の瞳の色のアクセサリーをつけていれば、何を言われるか恐ろしいですわ」


「言わせたい奴には、どんどん言わせておけ。俺はお前の黒く美しい瞳の黒曜石を明日から付けて学校に行くよ。だから、お前も・・」


アルナウトはレベッカに懇願するような顔を向ける。

レベッカは心中、皆にお揃いの物を大っぴらに見せたらどうなる?


・・・想像するだけでうんざりだ。


でも、強い瞳で『付けて来い』と要求されて、めんどくさくなってつい返事をした。

『はいはい、付けて行きます』と言ってしまう。


流されたわけではないが、アルナウトが自分の返事次第で、がっかりするところを、何故かレベッカは見たくなかったのだ。


付けると聞いたアルナウトは、早速自分の耳に黒いピアスをつける。

そして、レベッカが持っていた袋を、バリバリと破ってレベッカの耳にも緑のピアスを付けようとした。


「え? 今?」

レベッカは自分の耳を両手で隠して、抵抗する。


「そうだよ。折角買ったのだから、今すぐ見たい」

アルナウトの期待に満ちた瞳が、ピアスを持って近づく。


レベッカは自棄糞(やけくそ)になって、「わかりました。では、どうぞ」と隠した耳をアルナウトに差し出した。


アルナウトの手が、少し熱いように感じる。しかも、耳朶に優しくそっと触れるから、こそばい。

「殿下、つけるなら早くしてください!! こそば・・・」

睨もうと、アルナウトの顔を見ようと顔を向ければ、鼻と鼻が当たりそうな近さで、レベッカの呼吸が止まる。


それはアルナウトも同じだったようで、美しい緑の瞳が大きく開き光が入る。


レベッカは初めて、その瞳が美しいと感じた。

「は・・やく、つけるよ・・」

再び触られたレベッカの耳が、赤くなる。


少し、ぎくしゃくした雰囲気の二人だったが、アルナウトが告げた次の行き先に、レベッカのテンションが爆上がりで、すぐに元に戻った。


その行き先は、王都で話題のパティスリー『ヴェルデ』。

沢山の女性がこの店のケーキに夢中で、いつも満席なのだ。


しかし、アルナウトの準備は万端だ。普段は使いたがらない王家の威光をここぞとばかりに使って、予約を捩じ込んだ。


このお店の名前は、あのジュリアが落とした手帳にも書かれている。

手帳によると、なんとケーキの美味しさに、レベッカがこの店のパティシエを公爵家に監禁状態にして、自分の屋敷でスイーツを作らせたと書いてあったのだ。


アルナウトは『ヴェルデ』のケーキを食べたレベッカが、手帳通りに豹変するのではないかと、危惧している。

そんなことはないと思いつつ、もしかして・・・と不安を抱えて店に向かった。


ペンキで深緑に塗られた木の扉を開けると、カランコロンとどこか懐かしい音が響く。


一歩入った店内には甘い香りが広がっていた。

こじんまりとした個室に通された二人は、かわいく色鉛筆で書かれたケーキのメニューを寄り添って眺める。


お互いに一つずつケーキを注文をした後、アルナウトがシュークリームを追加で注文した。


「ケーキの後で、まだお食べになるのですか?・・・。見掛けによらず、甘党なのですね」

レベッカはアルナウトの別な一面に、目を丸くする。


「ここのシュークリームは、絶品でね。是非、君にも食べてもらいたかったのだよ」

レベッカに食べてもらいたかったのは本当だ。

しかし、アルナウトにはここでもう一つ検証してみたい事があった。

それは、以前ここの大きなシュークリームを、貴族のお嬢様方のお茶会に出したことがある。

アルナウトは皆に『手で食べると食べやすい』と言ったのだが、一様に皆フォークとナイフでグチャグチャにして食べたのだった。


レベッカならどう食べるのだろうと、好奇心で注文した。


先ず、それぞれのケーキが目の前に置かれた。

アルナウトなイチゴタルト。レベッカは季節のフルーツをふんだんにつかったフルーツムースケーキ。


レベッカの顔が、満面の笑みに変わる。

チョコでコーティングされたケーキを割ると、フルーツが現れた。


「ふわー・・見てください殿下!!これはまるで宝石箱ですわ!!」

コメントがありきたりだったが、これは、異世界の殿下にとっては面白い比喩表現だったようで、「ぶふううう」と笑われてしまった。


「レベッカは面白いことを言う」


少し剥れたレベッカは、アルナウトにも、コメントを求める。


「じゃあ、殿下も少し食べて味を表現してくださいよ」


コメントは難しいのよ。できるものならやってみてと、レベッカはアルナウトに食レポに挑戦させた。


「うん。これは美味しいね。タルトはサクサク感を残しつつ、パサつかない。しかも、大粒のイチゴをふんだんに乗っけてるだけだと思ったが、その間に甘過ぎないクリームと練乳で爽やかに仕上げている」

一口食べたアルナウトは、アナウンサーのようにスラスラ言ってのける。


レベッカは、アルナウトの食レポに喉がゴクリと鳴ってしまった。


クスッと笑うアルナウトが、自分のイチゴタルトを一口掬って、レベッカに差し出す。

ナパージュによって、つや感を増した輝くイチゴの誘惑に勝てず、アルナウトのフォークを受け取らず、そのままパクリと食べる。


アルナウトは、レベッカの行動に目を見開いたまま、固まった。


「ううう・・これもまた逸品・・殿下の仰ったタルトも絶品・・昇天します・・」


「おい、勝手に死ぬな」


照れ臭そうに微笑むアルナウトに、レベッカが凝視する。

そんな風に笑うんだ・・レベッカの黒い瞳がアルナウトから離れない。


「そんなに美味しいなら、この店のパティシエを公爵家に引っ張って専属にすることも出きるぞ?」


アルナウトがトーンを落とした声で聞く。

手帳通りのレベッカなら、迷わず監禁するのだろう。


「そんな事しませんよ。美味しいものは、時間をかけて並んでこそ味わえるんです。殿下も次からは並ばないといけませんよ・・・まあ、今日は私のためにありがとうございます」

レベッカは、自分のためにアルナウトが無理に予約を入れたことは知っている。

そこは、きちんとお礼を言った。


「そうだね・・・。次からは一緒に並ぼう」

アルナウトはホッとした。

まさか、手帳に書かれているような、傲慢な真似をレベッカがするはずがないと信じてはいたが、確信的に書かれていたので、もしやと思っていたのだ。



そこに先ほどアルナウトが頼んでいたシュークリームが到着。


クリームが一杯入ったシュークリーム。レベッカの置かれた皿の前には、フォークとナイフが置かれる。


アルナウトは面白い実験を目の前に、ワクワクした。

レベッカがナイフを取る前に、「これは手掴みで食べるといい」と説明しなければいけない。


だが、アルナウトが口を開く前に、レベッカがシュークリームを鷲掴み、大きな口を開けて食べた。


豪快な食べっぷりに、アルナウトが一人納得する。

だが、心中は複雑だ。


そうだ・・レベッカが俺の前で体裁を気にするわけがなかったな。

ここで、アルナウトの胸に冷たいすきま風が入り込む。


愛しい男の前ではないのだから、見映えを気にせずに大口を開けて食べることができるのか・・。

結論を知って寂しい気持ちになる。


そんな気持ちを知らず、レベッカは嬉しそうにシュークリームを頬張っていた。

ほっぺにクリームを付けながら。


「まるで子供だな・・」

アルナウトがレベッカの頬のクリームを指で取り、そのまま舐めた。


今度ばかりはレベッカも、自分の心臓がばくばくしているのが分かる。

「でん・・でん・・か・・何を・・」


「あ・・・・。」

アルナウトも自然にした自分の行いを思いだし、慌てた。


再び、二人の顔がピンクに染まったその頃、もう一組の買い物デートのカップルには最大級のお邪魔虫が引っ付いていた。


いつも、読んで頂きありがとうございます。

今日は更新が遅くなってすみません。

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