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02 父は娘に甘かった


レベッカ8歳、ルーカス10歳。


益々ルーカスの神々しさが増して、もうこの世全ての「麗しい」を独り占めした聖者様、と言っても過言ではない。


聖者ルーカスを崇める毎日は、幸福に満ちていた。

しかし、このままではいけない!!

ルーカスを欲する者が、わんさかでてくるだろう。

そう危惧したレベッカは、剣術を早い時期から独学で練習していた。

そして、剣に魔式を組み込めば、魔物であっても瞬殺できるくらいになった。

だが、まだまだ訓練は足りない。


なぜなら、どんな魔王級の猛者が来ても勝たなくてはいけないのだ。

それが・・・最推しに対する愛。

さらに、使える魔式を増やす為に、元々自分の属性である『火』の他に『闇、水、木、土』も使えるように特訓した。


レベッカはうっかりしていたが、この世界では、水属性はない。

なのに、なぜか習得出来た。

それに加え、常識的にはいくら訓練しても、生まれ持った属性以外は使えないと魔法士に言われたが・・・流石非常識なラスボス。

やれば出来る子なのだ。


しかし、ヒロインの属性である光は習得しない。

出来なかったのではなく、わざと習得しなかったのである。


うっかり使ってしまえばヒロインの功績が霞んじゃうからだ。


光属性を極めるよりも、隠密行動を習得した方が実践的に使える。

そう判断したレベッカは、人の屋敷に潜り込む練習や、潜入する諜報訓練をより多く特訓した。


これがあれば国家転覆を図る悪人を割り出したり、王国内に違法薬物を流す奴の情報を得る事が出来る。

・・・・が、レベッカはそんな事に使わない。


今、レベッカはその技術を生かし、とある部屋に潜入中だ。


闇夜に紛れ、天井に張り付いている。

「ああ、いい寝顔・・・・。次の巡回が回ってくるまで、ご尊顔を見てられるわ。ああ、でももう後3分だわ」


そう彼女が使うのは推し活のみ。

つまり、ルーカスの部屋に潜入するために、この技術を日夜磨いているのだ。


「折角なのに、後少しで巡回がくるわ。チッ、暫く巡回の兵士を気絶させる?」

ダメよね・・・。

流石にそれはダメだと諦める。


「おかしいわね・・・。もう来てもいいのに来ないわ。時間通りに巡回しないなんて、これは懲罰ものよ。」

来ても来なくても不満を漏らす。

レベッカがぷんぷんしていると、巡回の足音が聞こえた。


だが、おかしい。

我が家の騎士でも兵士でもない足音なのだ。

しかも、二人いる。

足音がルーカスの部屋の前に止まった。


ギィィィィー・・・・。

ゆっくりとドアが開く。


そして怪しげな二人組が部屋に入ってきた。

「おい、本当にここでいいのか?」

「確かにここの筈だ。あれを誘拐すればいいんだな?」


誘拐?

ルーカスを?

憤怒の炎がレベッカの胸に吹き荒れる。

生かしちゃおけない・・地獄におちてもらうわ!!

レベッカは二人の前に天井から飛び降りた。

「静かにしてもらうわ!」


「うわ!!おまっ」


「お口チャック!!」

そう言うと二人は物を言う事も、体を動かす事も出来なくなった。


「あなた達、誰に指図されてきたのか、ゆっくり聞かせてもらうね」


天使のような少女は、次の瞬間悪魔に変わる。


縄が蛇のように動きだし、二人をぐるぐる巻きにした。

それから、愛しの兄が起きないように、二人を引きずり部屋を後にした。



今王都で流行っているマニキュアがある。それはレベッカが作り、バルケネンテ家の名前で売り出した物だ。

尋問で分かった事だが、犯人はその作り方と兄を引き換えにしようと企んでいたのだ。


誘拐犯を裏で操っていたのは、とある伯爵家だったが、誘拐の犯人の自供からすぐに割り出せた。


誘拐犯はとても素直に色々と教えてくれた。だから、それを企てた伯爵も既に犯罪奴隷となり王都にはいない。

裏の伝を使って、素早く裁判が行われさっさと島流しを食らわせたのだ。


ここでレベッカは考えた。

あの時はたまたま(▪▪▪▪)、兄の部屋を訪れていたから良かったのだ。

しかも、自分が偶然(▪▪)に天井に張り付いていたから、犯人と兄の間に飛び降りる事が出来たのだ。


兄が無事だったから良かったものの、あの時自分が寝ていたらと思うとぞっとする。


ルーカスが二度と危険な目に遭わぬよう、今回の事は父であるイーサンに報告しようと決意した。


これでレベッカが暗躍しているのが、父のイーサンにバレてしまった。

だが、ルーカスの健やかなる日々と、安全の方が大事だ。


それに、これで父の危機管理能力が向上するなら一挙両全。


全容を聞いた父は肩を落とし泣いた。


「泣かないでよ。お父様」

「ううう、あんなに可愛かった娘が、こんなに腹黒くなってしまった・・・昔、ほっぺにチュッとかしてくれていたあのレベッカがぁぁー・・」


「お父様、娘っていつかは『お父さんの下着と私の服を一緒に洗わないでー』とか『やだ、お父さんから加齢臭がする』って平気で言っちゃったりするのよ。それに比べて私はまだお父様に抱っこされるの平気だし、むしろ大好きよ」


そう言われたら、イーサンは最近友人が『娘が冷たくて悲しい』と言っていたのを思い出した。


「そうだな、腹黒くても裏社会に通じていても可愛いレベッカには変わりないな」


「そうよ、そんなお父様がレベッカは大大大好きよ!!」

レベッカが父に抱きつく。


「あははは、レベッカはまだまだ甘えん坊だな。そうだ、明日はみんなでスイーツを食べに行くんだったな。楽しみだな」


「うん、お父様。じゃあ、明日ねー。おやすみなさい」


「ははは、おやすみ」




ふふふふふ、父の買収に成功した。

父、チョロし。

これでもっと自由に活動できる。

ヲタ活には軍資金が沢山いるもの。



レベッカがさらに闇夜に動き出したのはいうまでもない。

数年後、公爵家の元々いた密偵を増やし、闇の諜報機関を設立してしまう。そして、そのトップはレベッカが就任したのだった。



◇□ ◇□ ◇□

ルーカスの憂鬱話。


僕には2歳違いの妹がいる。

レベッカが生まれた時は、とても嬉しかったのを覚えている。


レベッカはまだ赤ちゃんの時から僕が大好きだった。

普通の赤ちゃんはお腹が空いたり、オムツが汚れたら泣いて知らせるらしいのだけど、レベッカは僕がいるといつも笑顔で泣かなかった。


だから、うっかり侍女が忘れて、オムツかぶれになったりしていたな。


僕がいる時はいつも満面の笑みで、嬉しそうに笑っているから、赤ちゃんはこんなにも泣かないものだと思っていた。


でも、僕がいない時のレベッカは、誰があやしても『すん』として、表情が消えると侍女が教えてくれた事がある。

それを見たことがないので、とても不思議だった。


レベッカはおしゃべりしだすと、常に僕を呼んだ。

歩き出すと、いつも僕の後ろをついて回る。


妹はいつも笑顔だから、女の子はわがままを言わないのだと思っていた。


前に親戚の女の子が、僕に『本を読め』とか、お人形遊びで、『あんたは犬をしろ』とか散々我が儘を言うので、一日でへとへとになったことがあった。


でも、その女の子、帰る頃には大人しい良い子になったが、二度と屋敷には遊びに来なかった。


でもその女の子の我が儘があってから、レベッカが本当に優しくていい子なんだと思った。


レベッカは僕と一緒にいると心の底から幸せそうな顔をするから、僕もついつい笑ってしまうんだ。


たまに僕を困らせる時もある。それは僕の絵姿を部屋に飾りたいと言い出した時に、一枚だけならと思って『いいよ』って言った。

そしたら、二十枚も絵描きに頼んで、部屋中僕だらけにした時は、恥ずかしくて困ったよ。


レベッカが誰よりも僕が好きって分かる。

それは嬉しいけど、時々『トートイ』って謎の言葉を呟く時のレベッカはちょっと怖い。


怖いといえば、この前・・・。

僕の屋敷に沢山お客様が来て、僕と同い年くらいの男の子もきたけど、数人泣いて帰った。


一人は僕の部屋を見せろと言われ案内したら、大事なおもちゃを投げた子だった。

お母様にもらって大切にしていた犬の人形だったけど、「まだ人形を部屋に置いてるのかよ!!」

と言って投げたのだ。


でも、丁度一緒にいたレベッカが、それを慌てて拾って僕に渡してくれた。


それから、その子に可愛く微笑みながらボソッとレベッカが呟いたんだけど・・・。


ちょっと、その時のレベッカの顔が怖くて、おへその辺りがヒュッってなった。

そしたら、いきなりその子がお漏らししちゃったんだ。


「っっぼく・・のくまさん・・・血まみれくまさんに・・・ふえーん」

泣き出したその子は、すぐに両親と一緒に帰ってしまった。


「レベッカ、あの男の子に何を言ったの?」

「えっと・・お兄様の人形を投げちゃダメって注意したの」


え?それだけ?

それだけで、あれだけ怯える?・・・と思ったけど、これ以上は聞いちゃいけないって僕の何かが警告したから、

「・・・そうなんだ」

とだけ言っておいた。



他にも、意地悪そうな子がいたけど、皆すぐに僕に優しくなった。

そればかりか、自分のおもちゃをどんどん渡してくれるんだ。

でも、どの子も手が震えてたけど・・・寒かったのかな?


お客様が帰った後、人形を投げた子の事が気になってお父様に聞きにいった。


「あの男の子、一体何に怯えていたの?」


お父様は僕の質問に、片手で自分の顔を隠し後ろを向く。

「・・・お前だけは・・すくすくと子供らしくいてほしい・・・」


え?泣いてるの?

しかも、答えになっていないよ?

それに僕だけって?

僕よりももっと愛らしいレベッカがいるのに?

と疑問に思ったけれど、その答えが解明するのは数年後だった。



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