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19 ドキドキ密室を作るわよ (1)


密室・・・よくある設定だわ。

などと思ったあなた。

フッ・・と鼻で笑う事なかれ。


このイベントを作り出すには二つの試練が必要なのよ!!!

とレベッカはミランとレン相手に力説中。


「いいかしら? ミラン、レン。よっく聞いてね」


「はーい。よっく聞くっす」

いい加減な返事をしたレンの頭を、ミランが叩く。


「今日、古典文学の先生が『「バムレッド記」と「雲の王子様」を読み、古典文学における恋愛価値観の変化を比較してレポートしなさい』と宿題を出したのよ」


「はあ・・それで?」

レンが面倒臭そうに頷いた。


「古典のおばあちゃん先生・・ジャネット先生が宿題のレポートを集めた時に、重すぎて持てなくなるのよ。そこで、そこにいたヒロインに手伝って欲しいと頼むの」


ここまで聞いて、レンとミランが嫌な汗が流れる。

ここでミランが逸早く脱出を試みた。


「レン、レベッカ様の役に立つように頑張ってくれ・・」

部屋から立ち去ろうとするミランの腕を、レベッカが掴む。


逃げられるわけがない。

それはミランも知っている・・・が、今回ばかりは是非とも逃げたかった。


「あら、この先は説明しなくても理解したようね」

レベッカの蛇のように絡みついた手が、ミランの腕に食い込む。


諦めたミランが、大人しく部屋に戻って椅子に腰かけた。


「だからね、ミランとレンに私の名前でジャネット先生が持てない量のレポートを、たっくさん書いて欲しいのぉ」

レベッカが甘えるように、小首を傾けて手を合わせてお願いポーズをする。


「くっっ!! 頑張ってみます」

ミランが早くもレベッカに屈した。

「ミランさん!! 何騙されてんすか?!」

レンが食い下がる。


「人が持てない量って何すか? レベッカ様、大体レポートって字数が決まってるっすよね?」

レンは必死だ。

何しろ、横に置かれている一冊5センチはあろうかという古典文学の『バムレッド記』の本が上・中・下あり、『雲の王子様』の本は一巻から六巻まである。


合わせて九冊の本を読まされて、死ぬほどレポートを書かされるなんて・・・マジ死ぬ。

そう思っているレンの横から、レベッカに盲目の、我を忘れたミランが質問をする。


「それで・・そのレポートの提出日はいつなんですか?」


「三日後なのー。よろしくね」

レベッカがにこやかに微笑みながら、紅茶を優雅に飲む。


「「・・・み・・三日後? 終わった」」

ヘタリこむレンとミラン。






このイベントでは、杖をついた御年78歳のジャネット先生が、ヒロインに宿題のレポートを、第一古典資料室か、第二資料室または第三資料室に運んで欲しいと頼むことから始まる。


そして、部屋に入ると偶然にも攻略対象がいて、なぜか外から鍵が掛かる。ヒロインと攻略対象が密室で二人っきりになり、親密度がぐんとアップするという、よくある密室イベントだ。


だが、このイベント。

前世のゲームではただ勘頼みで、入ってからしか、誰が中にいるのか分からないのだ。

前世で莉菜が選んだのは第三資料室。その中にいたのは騎士団長の息子のハンネス。


実は、このゲームは通るルートによって攻略対象が入れ換わるのだ。

それを知らず、何度やっても(ことごと)く、ルーカスルートに入れず、項垂れた莉菜だった。


本来三択の部屋選び。

しかし、現在ハンネスが隣国に短期留学中。

つまり、第三資料室はない。

なので、諜報部員を使ってルーカスが第一か第二のどちらの部屋に入っているかを前もって調べさせる。


そして、ルーカスの入っている部屋にヒロインのエミリエンヌを誘導するのだ。


このためだけに、レンとミランの汗と涙の結晶が、宿題として提出された。

適当に書いておけばいいのに、レベッカの学校の評価に繋がると、心配した二人は真面目に、論文を書き上げた。


二人のお陰で、教壇にどっさり置かれたレベッカのレポート。

更に偽ヒロインのジュリアも大量のレポートを書いて来た。


ジャネット先生は、授業終わりにこの大量の紙の束を、生徒に運んでもらおうと教室を見渡す。


エミリエンヌに目があったジャネット先生が、声を掛けようとしたその時、薄いピンクの髪の生徒が立ち上がる。


「先生、私がそのレポートをお運びしますわ」

ジュリアが教壇にすすすーと進み、レポートを胸に抱き抱えた。


レポート。それは、攻略対象と二人っきりになれるという、マニア垂涎の切符を手にしたジュリアは嬉々とする。

スキップしながら軽やかに、教室を飛び出した。




「ふふふ。ルーカス様に会いに行くわよ。先ずは保健室の前を通ってから第二資料室に行かなくっちゃ。地道に一人一人攻略するわよ。ギャクハーエンド・・・絶対にやってやる!! そうでないと・・・」


それを聞きつけたマシューが、レベッカの指示通りに、第二資料室と第一古典資料室の教室のプレートを入れ替えた。


何も知らないジュリアは、第二資料室と書かれた部屋に入る。

それを見届けたマシューは、その教室のプレートを再び『科学準備室』に入れ替えた。


中に入ったジュリアは、ルーカスではなく、アルナウト王子がいて驚く。


(あれ? ルーカスじゃない? 部屋を間違えた?・・・でも、どっちでもいいわー!!)

ジュリアにとってルーカスも王子も一緒だった。

どちらも攻略したい相手なのだから。


ジュリアは大量のレポートを、机に置くと素早くアルナウトの腕を取り、あざとく大きく開いた瞳を潤ませ下から見つめる。

そして、無邪気を装い声を掛けた。


「アルナウト殿下、ここで何かお探しものですか? 私も一緒にお手伝いしますわぁ」


「ああ、その必要はない」

レベッカを貶める女に用はない。

アルナウトが資料室を出ようとするとジュリアが大胆にも、アルナウトの腕さらにグイっと掴んだ。


険しい顔のアルナウトに、ジュリアはここで、攻略対象の攻略情報を使った。


「私、アルナウト様の瞳の色の秘密を知っていますわ」


どや顔のジュリアは、アルナウトが驚くのを待っていた。

だが、その情報は12歳の誕生日会でアルナウトはレベッカからあっさり教えてもらっている。


腕を取られたアルナウトは、スルリとジュリアの手を外し、すぐに彼女から離れた。


「ああ、その事は既に知っている」

その言葉を残して、あっさりと部屋を出ていった。


「知っている?」

ジュリアがオウム返しでその言葉の意味を考えた。

つまり、アルナウトを攻略するための重要な手札を失ったのだ。


しかも、密室イベント発生ならば、ここで外から鍵が掛かって、王子を二人きりになれるはずだった・・・。


しかし、アルナウトは普通に扉を開けて出ていってしまう。


「どういう事なの? ここで二人でウフフの密室イベントが始まるんじゃないのぉぉぉ?!!」


確かに、本来ここは第一資料室なのでイベント発生の用件を満たしていたが、マシューが最終的に教室のプレートを『科学準備室』に変更したために、ゲームのイベントは強制終了されてしまったのだ。


これはレベッカが、アルナウトを助けるために教室のプレートを変えたのではない。


次に起こる本当のイベント為に、やったまでだ。


そう、ルーカスと本来のヒロインのイベントのためだ。




少し、時間を遡る。


先程、大量のレポートを喜び勇んでジュリアが全て持っていってしまった。


ここでゲームオーバーだ。

だが、レベッカはジュリアの行動を先読みしていた。

彼女が教室を出ていくのを見送ってから、再びレベッカが大量の宿題のレポートをジャネット先生に提出した。


「ジャネット先生、『バムレッド記』のレポートを仕上げてから、私、もう一つの『雲の王子さま』を読んで、本来人間の心に持っている純真さに心を打たれ、これについても論文を書いたので、提出させて下さい」


教卓にドンッと積まれたレポート。

これも、レンとミランの三日三晩寝ずに書き上げた、超大作だ。


そうとは知らない、ジャネット先生はレベッカの勉強熱心な姿勢を褒め称えた。


「さすがはレベッカ嬢。本当に学生のお手本のような方だわ」


このやる気に満ちた生徒に、このレポートを運んでもらおうと、レベッカを見た。

だが、ジャネット先生が声を発する前に、レベッカがエミリエンヌ

を振り返る。


そして、眉尻を下げて心から済まなさそうに両手を合わせ懇願した。

「ごめんなさい、エミリエンヌさん。私のレポートだけれども、今から他の先生に呼ばれていて、運べないの。だから、このレポートを第二資料室まで運んで下さらないかしら?」


レベッカが頭を下げたことで、ゴールドの髪がサラサラと肩から落ちていく。

美しい光景にエミリエンヌは、見とれながら、レベッカにお願いされた喜びで、元気よく頷いた。


「ええ、任せて下さい。今すぐに第二資料室に運んで行きますね」


エミリエンヌはどっさり置かれたレポートを、大事そうに持つと、ジャネット先生に会釈をした。

そしてすぐに教室から出て第二資料室へ向かう。

そこにルーカスがいる事なんて知らずに・・・。




「ふふふ、上手くいったわ。そうよ、ここからがスペシャルイベント、『密室って殺人ばかり起こるんじゃないわ。恋が始まる事もあるのよイベント!!』がやっと見れるわ」


レベッカは軽やかな足取り(スキップ)で、第二資料室へ急いだ。



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