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17 諜報機関?いいえ、見守り隊です(2)


ルーカスが部屋に入って見たものは、公爵家にはない6階の広い部屋で、忙しそうに働いている人の姿だ。


しかも、どの人も黒い上下のスーツ姿。

しかし、ルーカスが部屋に入るとざわついていた部屋が、急に静かになった。

一瞬、全ての時が止まったのかと勘違いするくらい、一斉に働いていた人の動きも止まった。


だが、再び動き出した人達の半分が一瞬で居なくなった。

見間違いかと思いルーカスは目を擦ったが、半数以上の人が消えている。


しかし、イーサンはそれに気を取られる事なく、どんどん奥に入っていった。


広い部屋は低い間仕切りで仕切られている。

天井から、『情報管理室』『総合安全対策室』と書かれたプレートがぶら下がっている。


聞きなれない言葉にルーカスが、躊躇していると、イーサンが横から説明を足した。

「ここが、公爵家の諜報機関だ。ここの統括責任者は・・・」


考えるまでもない。

「レベッカですね」


「そうだ。以前我が公爵家の抱える密偵は5人。警備の不手際のせいで、ルーカスが誘拐されそうになったことがある。それを期にレベッカが仕切って・・・今ではこれほど大きくなってしまった」


それを期にって?・・・、レベッカは何歳だったのだ?とはもう考えない。


「それにしても・・・主にここの人たちの仕事って、王族の転覆を狙うもの達の情報収集でしょうか?」


「・・・いいや・・主にレベッカの趣味で・・・いや、興味がある者達の安全に関わる情報集めだ・・・」

イーサンが、ルーカスから顔を背ける。


「・・・レベッカの興味のある者?・・・それって私では?」

「そうです!! レベッカ様の命令は、主にこの公爵家の皆様の安全。特にルーカス様の安全を第一に考えておられます」


いきなり、ルーカスとイーサンの会話に割り入った男性は、胡散臭いにこにこ顔で、さらに説明をする。


「わたくし、この情報管理室の室長をしています、ミランと申します。ここに、ルーカス様が来られた時のために、何名かの諜報部員を用意しております。どうぞこちらに・・」


張り付けたようなミランの笑顔に違和感を感じながら、ルーカスは言われた通り、ついていった。

その中に『経理室』と書かれた一角に真っ赤な眼鏡を掛け、男性3人分の横幅を持つ貫禄のご婦人が、若い男に何やら書類を叩き返している。


「こんな領収書で、お金を出せる訳ないだろう。一昨日来な!!」


若い男も必死で食い下がっている。

「なんで、ダメなのさ!! ほら、ここよく見てよ。この前言われたから、きちんと但書きに接待費って書いてもらったでしょ」


ルーカスは怒声のやり取りを横目に、ここは本当に今までいた公爵家なのだろうかと目を疑う。

奥には、ひたすら山のように置かれた、数字で埋め尽くされた書類をひたすら計算している者もいた。


イーサンは『後は頼んだよ』とミランに言い、すぐにこの部屋から出ていった。

ルーカスはミランの案内されるまま、パーテーションでしきられた場所に入った。

すると、既に3人の男性が起立して待っていた。


「こちら3人が、ルーカス様の手足となって働く者達です。もし、足りなければ仰って下さいね」


自分よりも年上の若い男性に、恐縮しながらもルーカスは、これからの事を頼む。

「申し訳ないが、マーレリアム学校内で、ある人物の調査を依頼したい。頼めるだろうか?」


「勿論です。私、オリバーとマシュー、レンの三人で全てお調べしましょう」


オリバーは黒髪、黒い瞳の22歳で落ち着いている。

物腰は柔らかく、信頼出来そうな人物だとルーカスは頼もしく思った。


オリバーはすぐに詳細を尋ねる。

「では、早速ですが、私共に依頼する調査内容をお聞きしたいのですが?」


ルーカスがジュリアの事を言おうとした時、赤髪に黒目の18歳のレンが横から口を挟む。


「あれ? 聞かなくても分かるじゃないですか? ほら、ジュリアって子のことで」

ぼふっっ!!


優しそうだと思ったオリバーが、真ん中のマシューを飛び越えて、レンに蹴りを入れた。


その出来事で、ルーカスは学校での自分も観察されているのではと寒気を覚える。


「・・・もしかして、学校での私は・・君達に見られているのかな?」


「ずーっと見てるっすよ!!」

口の軽いレンが、横に吹っ飛んだ。

「不快に思われるかも知れないが・・・貴方を守るためだった・・それに、個人的に見られたくないだろうと思う時は、極力控えていた・・・その尾行も・・」


オリバーは、ルーカスが嫌な思いをしないように言葉を選んでいたが、レンが再びぶっ壊す。


「風呂とかトイレとかは見てないっすよ」

今度は室長のミランが自らレンを投げ飛ばした。


レン・・・もう君は黙っていた方がいいよ・・・とルーカスは心の中で伝える。

ルーカスが、レンの心配をして眉を寄せたのだが、オリバーは必死で言い繕う。


「ルーカス様が不快に思うのは、分かります。今回私達の動きを知られてしまったことですし、これからはルーカス様の心情を考慮して、動きます。そして、ルーカス様の希望も擦り合わせて行動します」


オリバーがそう言ったが、すぐにミランがコホンと控えめな咳払いをして、オリバーの言葉を訂正する。

「ルーカス様の心中をお察しします。自分の事を誰かに見られているなんて、気持ちの良いものではありません。しかし、それにより100パーセントの安全を手に入れられるのです。ここからは我々の領分ですので、是非とも寛容な気持ちでお任せ下さい」


ミランは相変わらずにこにこと笑顔だ。


しかし、オリバーがルーカスの気持ちを重んじる態度に対し、ミランは安全に過ごせるのだから、我慢しろと言う。


「ミランさんは、一日中誰かに私生活を見られているのは、平気ですか?」


「チッ・・・・はああ~」

ミランの舌打ちからの嫌みなため息。

穏やかなルーカスも、これには表情を険しくした。


「まあまあ、ここは俺の顔に免じて仲直りするっすよ」

レンが間の抜けた言い分で、間に入って、さあさあ、ここからは俺たちに任せてといいながら、ミランをパーテーションの外に追い出してしまった。


「お前のどの顔に免じる事があるんだ!!」と悪態をつきながら、ミランが退場していった。


「いやー、ミランって本来はいい奴なんだけど、レベッカ様命ってところがあって、ルーカス様も気を悪くしちゃったよね? ごめんね~」

レンがゆるーく謝る。


「本当にお気を悪くしたと思いますが、ここにいるものは命の危険に晒されていたところを、レベッカ様に救われたもの達ばかりで、特にミランは、レベッカ様第一なのです。本当に態度が悪くてすみません」

オリバーが殊勝な面持ちで頭を下げる。


以前に王弟の息子であるテオファーヌは、人買に売られそうになっていたところを救われて以来、レベッカには尋常ならざる感情を持っている事を、ルーカスは知っている。


彼らも幼い頃に救われたなら、レベッカが頼んだ事なら、然諾(ぜんだく)を重んじるだろう。


ここは取り敢えず、ルーカスが折れた。

「まあ、今まで私の知らないところで守ってくれていたことは感謝している」

先ほど、この部屋に入った時に、半数の人が消えたが、その者はこれからも自分を尾行する者達だったのだろうと気が付いた。

少々、嫌な気はしたがレベッカが止めるとは思えない。


ルーカスは諦めて本題に戻った。

「今日は私の事ではなくジュリアという生徒について、相談させて欲しい」


目の前の三人は、ルーカスが折れて話題を変えてくれたことにホッとした。


「その女子生徒は、レベッカ様が危惧しているので、こちらも様子を見ていたのです。しかし、さしあたって罪状がある訳でもなく、監視をしています」

オリバーが、現状を説明してくれた。


「しかし、今回私の風邪が原因でレベッカが休んでいる間に起きた、ゾエ嬢の教科書事件で、ジュリアがその教科書を入れたのは、レベッカだと言い出したのだよ」


ガンッッ!!!

言い終わらぬうちに、レンと、マシューが机を押し退けて、立ち上がった。


「落ち着け!! レン、マシュー。まずはレベッカ様に報告してからだ。他の者も落ち着け!!」


他の者?

ルーカスは、パーテンションの外の気配を探ると、この部屋全体が異様な殺気に包まれている事に気が付く。

「あの女!! ぶち殺してくれるわ」

「誰かミランを止めてくれ!!」


経理係の真っ赤なメガネの婦人まで騒ぎ出した。

「野郎共、今すぐ女を叩きのめして来い!!」


外は大騒ぎだ。

この手の相談は、時と場所と人を選んでしなければならないのだとルーカスは学習した。


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