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14 お邪魔虫、再び


頻繁にお邪魔虫が発生する。

そろそろ、殺虫剤が必要な季節かしら?

レベッカが考える。


さあ、今からドラマを見ようと、机にはビールとポテチを用意し、テレビのスイッチを押した。

ドラマのオープニングが流れ出す。


こんなときに限って、親戚のおばさんから電話が掛かってくるのだ。

大体において、この電話に用事らしい用事はないのだ。


今まさにそんな状態だ。

レベッカはイベントが見れる一番良い席を用意し、それが始まるのを待っていた。


なのに・・・今からという時に限って再び・・そう、再びアルナウト王太子殿下が現れて、邪魔をする。


「ねえ、今から何が起こるの?」

アルナウトの声と同時に、化学実験室の扉が開く。


「あれ? あの子は君の友人のエミリエンヌちゃんだよね? また、あの二人を引っ付けようとしているの?」


レベッカの忍耐もここまでだった。

アルナウトの額にデコピンをかまし、『いたっ!!』と声が出る前に、アルナウトの首に腕を回し締め付け口を塞ぐ。

上記の行程が、瞬時の早業で行われた。

アルナウトは顔を歪め、『降参』の意味でレベッカの腕にタップする。


「良いですか、殿下。これより声出さずに静かにご観覧下さい。さもなくば、首を・・・」


ふふぃほ(くびを)?」


「折る」

「!!」

アルナウトが口を押さえられたまま、ブンブンと縦に首を何度も振る。

どうやら、静かにすると言っているようだ。


「絶対に静かにして下さい」


念を押され、アルナウトも大人しくルーカスとエミリエンヌの行動を見守る。


「エミリエンヌちゃんが来ましたわ!!」


控えめなノックの後に、恐る恐るエミリエンヌが化学実験室に入ってきた。

「お忙しいところすみません。レベッカ様にルーカス様の薬をお渡しするように、頼まれました。これを・・・」


エミリエンヌがガラス瓶に入った、どろどろの緑の液体を渡す。


「ああ、わざわざ休み時間にありがとう。・・・これは、本当にいつもの薬か? やけにどろどろしているんだが・・。まあいい、そこに置いといてくれ」


しかし、レベッカにルーカスが薬を飲むところを確認してほしいと頼まれたので、エミリエンヌは帰れない。


「あの、レベッカ様にルーカス様がきちんと薬を飲んだか見届けるようにと言われています。今、飲んで頂けないでしょうか?」


エミリエンヌが、必死に頼む。


化学準備室のレベッカは、そのやり取りで悶えていた。

「くーううう、見ましたか?あの、初々しい感じの二人。寂しい一人ものにはきゅんきゅんしますよね?」


「うーん・・?」

乗り気でないアルナウトの意見なんて、聞いちゃいないレベッカは一人でこそこそ話している。


「殿下、ここから二人がより親密になるエピソードが満載なのです。瞬き禁止で見て下さいよ。この後、薬の苦さに、ルーカスが少しコホコホと咳き込むのです。それで口からこぼれた薬を、エミリエンヌさんが自分のハンカチを出して、ルーカスの唇を優しく拭いてあげるの」


「なんで、そうなるって分かるのだ?」

アルナウトが怪訝な顔で尋ねた。


「そりゃ、いつもの薬より100倍苦くしといたんですもの。絶対に噎せるに決まってます」

悪い顔でルーカスが持っている薬の瓶を指す。


「・・・ルーカスが不憫に思えてきた・・」


準備室の二人が見守る中、ルーカスが、レベッカ自家製の薬を飲んだ!!


「ぶっふううううう」

ルーカスは『()せる』を通り越し、盛大に吐き出した!!


「きゃーーー大丈夫ですか?」

斜め前に立っていたエミリエンヌは、直撃は免れる。


「ゴホッゴホッ」

ルーカスがまだ苦しそうに、咳き込んでいた。




準備室のレベッカとアルナウト。

「「・・・・。」」

レベッカは固まっている。


「おい、さっき言ってたのと大分違ってないか?」

アルナウトは、苦しそうに咳をしている友人が心配だった。


「100倍の苦味は余計だったわ。失敗ね」



咳が治まらないルーカスの背中を擦るエミリエンヌ。

ルーカスが落ち着くと、ポケットから小花の刺繍のハンカチを取り出し、ルーカスの口回りに付いた薬を拭いた。


「ああ、すまない。君のかわいいハンカチを汚してしまったね」


「気になさらないで下さい。それよりも、もう大丈夫なのですか?」


「大丈夫だ。しかし、レベッカが薬の配合を間違えるとは思えない。何か魂胆が・・・」

ルーカスは、目の前のピンクの髪の毛の女子生徒が、紫の瞳を潤ませて自分の心配している姿を改めて見た。


レベッカがエミリエンヌと自分をくっつけようと動いていることを思い出した。


椅子に座り直して、エミリエンヌにも椅子を勧めた。

10分の休み時間は終わっている。

とっくに次の授業が始まっているため、廊下は静かだ。


「ごめんね。さっき先生に連絡を入れたから、無断欠席にならないよ」

「いつのまに・・・?」

ルーカスは、驚くエミリエンヌに、古い大きなマグカップにコーヒーを入れて渡した。


「あ、ありがとうございます」


「ごめんね。どうやら君は・・・」

妹に巻き込まれたと言い掛けて止める。


エミリエンヌはルーカスの謝罪を、ハンカチを汚した事へのものだと思った。


「いいんです。・・・それにしても、このカップは凄く年季の入ったものですね」


エミリエンヌが、古めかしいカップを眺めている。


「それは、ここの初代生徒会長が使っていた物だ。ほら、名前がここに書いてあるよ」


エミリエンヌが、持ち手の横に書いてある、小さな落書きを見付ける。


消えかかっているが、『コーバス』と読めた。


「『コーバス・フォンダン・クノフローク』4代前の国王が学生時代に使っていたカップだよ」


「ええー!!」

エミリエンヌは驚きのあまり、カップを落としそうになる。


「ここにはもっと古い物が沢山ある。物持ちが良いだけで、大した価値にはならないよ」


エミリエンヌは由緒正しい学校の、奥深さを知った。


「そうだ、この実験は次の授業で行うものだよ。しっかり勉強してね」

ルーカスは化学の先生に押し付けられた、一年生の資料作りの実験結果をエミリエンヌに見せた。


「これは?」

首を傾げて資料を見るが、サッパリ分からない。


「これは定例比の法則だよ」

ルーカスは資料を見せながら、丁寧に優しく分かりやすく、エミリエンヌに教えた。



この様子を瞬きもせずに、一心に見るレベッカ。

「このイベント、垂涎(すいぜん)ものですわ」


「イベント? おい! もう(よだれ)が垂れてるぞ」

呆れる王子。


涎などお構い無しだ。

レベッカはこのルーカスとヒロインの親密ぶりを見ることが出来て、今にも昇天しそうだった。


転生以前、竹脇莉菜として『光る海をあなたと』をしていた時、他の攻略対象とは順調に進んだのだが、最推しのルーカスになると、どうも空回りして好感度が上がらなかった。


先程のハンカチを選択するにしても、3択のハンカチの中から選ぶだけだった。


①真っ赤な薔薇の刺繍入りハンカチ

②ゴリラのマウンティングポーズの刺繍入りハンカチ

③青い小花の刺繍入りハンカチ


しかし、莉菜は選択を間違えた。

ルーカスが笑ってくれるのではと、②を選んだのだ。


ゲームのルーカスは、笑いもせず、『すん』とした真顔になっただけだった。


毎回、ルーカスイベントだけ裏読みし過ぎ、深読みし過ぎ、そして全イベントに失敗したのだ。


あれだけ望んだルーカスの笑顔が、今目の前で輝いている!!

これを見れるのは、やはりエミリエンヌのお陰だ。


「二人のご尊顔を拝し、私の汚れた心が穏やかに浄化されているわ」

レベッカの異様なまでの行動に、飽きもせず付き合っているアルナウト。


「おい、レベッカ。たまには俺のご尊顔も見ろよ」

レベッカは隣の高貴な御仁の顔をチラリと見、再び視線を戻す。


「みた」


「・・・あのさ、俺の事・・もうちょっとは構ってくれてもいいんだぜ? それに俺も中々なものだと思うけどな・・・」


ふて腐れたアルナウトが、少し口を尖らした。


「・・・殿下」

「え?なに?」

期待で振り向く王子。


「人前では『俺』ではなく、一人称を『私』とすべきです」


「・・どうせ、そんなことだろうと思ったよ」


ふらぁと立ち上がり、「しかも、人前って・・・突き放され具合が酷すぎる・・でも・・頑張れ俺・・」と、

一言を言い残しアルナウトが部屋からフェードアウト。


残ったレベッカは、ルーカスとエミリエンヌの会話を、ひたすら盗み聞きしては涎を拭いていたのだった。


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