第5話 A②
---1986年2月1日AM10:40--
デズィとジェギルが二人で話している頃。
サリアはメディン城の外でデズィが出てくるのを待っていた。
「サリアさん、報告があります。」
一人の警官がサリアに言った。
「なに?」
「それが、ヴェルデクで怪物が現れたという報告が入ってきているのであります。」
「怪物?」
「はい。今のところ死者はいませんがいつ出てもおかしくないとのことです。」
「わかったわ。すぐに行くから可能な限り仲間を集めておいて。」
サリアは平静を装っていたが、怪物という存在のせいで緊張感がわかず何を考えればいいのかわからずにいた。
「了解です」
---1986年2月1日PM6:30
武器の手入れや仕事の手続き、仲間の招集に時間がかかってしまったサリアは5人の仲間を引きつれヴェルデクの田舎道を歩いていた。
「あそこの武器屋の店主が怪物を発見したとのことです。」
数10メートル先に見える武具屋を指さして仲間の一人が言った。
「わかったわ、急ぎましょう。(結局集まった仲間は5人だけ...か。)」
サリアたちは走って店へと向かった。
ドンドン!と店の扉をたたく。
「すみません!警察のものですが、不審者の目撃があったと聞いてきました。開けてください!」
サリアが大声で言う。
「反応が内容です。強行突破しますか?」
「そうね。やりましょう。」
サリアたちが扉から距離を取り一斉に扉に向かって体当たりをする。
キィィィ。と鈍い音を立てながら扉が枠から外れて床にたたきつけられる。
「誰かいますか!」
6人が店の中を捜索し始める。
「いやだ、目が、目が見えない、助けて、たすけて、、」
か細い声がカウンターの奥から聞こえてくる。
「!どこにいますか!返事を!必ず助けます!」
サリアがカウンターに近づきながら銃を構える。
彼女がまず見たものは体が引き裂かれ、エプロンを着たスキンヘッドの男だった。
「!!」
サリアは言葉が出なかった。
「なぁなにが起きたんだよ...?目が、見えないんだ、俺はどうなっちまうんだ...。」
声を出したのはカウンターの奥にいた、かろうじて生きている状態の体が血まみれの男だった。
「な、なにがあったの?目が、開いてない。」
サリアは男に駆け寄り服についた血を見る。
「あなた、これ自分の傷じゃないわね。もしかしてあなたがこの人を...?」
「違う、何もわからないんだ。気づいたらここにいて、気づいたら目が開かなくなっていた。」
男は泣きながら答える。
「私も協力しますよ。警官の皆さん。」
オリーブ色のロングコートを着た青年が壊れたドアをまたいで店に入ってくる。
「子供はこんなことに関わらないべきだわ。後で話を聞くから外で待っていて。」
サリアが青年に促すが青年はずかずかと近づいてくる。
「その男から離れたほうがいいですよ。服を見ればわかるでしょうが彼は囚人。脱獄囚といったところでしょうか。」
「確かにそうかもしれないわね。でも彼はきっと犯人じゃない、この引き裂かれてしまった男の人の話では怪物がやったらしいの。」
「ですから、その怪物がこの脱獄囚だと言っているんですよ。」
サリアは青年を見つめながら汗を垂らす。
「いったい何を言って...。」
青年はサリアには目も合わせず脱獄囚の前にかがむ。
「な、なんだよ。誰か、いるのか?助けてくれよぉ!!」
男がわめく。
「はぁ、黙っててくださいよ。ほら、これでも飲んで静かにしていてください。」
青年は注射をコートから取り出し脱獄囚の左腕に突き刺した。
「う、うわああああやめろ!くそ!うあああ...。」
「あなた何して...?」
「それでは、楽しんでくださいね、警官のみなさん。」
青年は外に出て少し離れた、道の反対側の場所からサリアたちを見ている。
「う、うあああああ!!!」
男は叫び続ける。
サリアは後ずさりし、仲間たちのもとへ駆け寄る。
男は血管が浮き上がり、筋肉が膨張していく。さらには注射を打たれた左腕の肘から赤黒い木の幹のようなものが生え、体に巻き付く。
「何が起きているんだ?」
一人の警官が言葉をもらす。
「声が...響く...うるせぇ...。」
木のようなものに覆われた男がこもったような声で話す。
「なんなんだ、くそ!!」
「待って!」
サリアの声は届かず警官はマシンガンを構え赤黒い木に向かって乱射する。
「やめろよ。いてえだろうが。」
聞いている様子はない。声がすると同時に男に巻き付いた木の幹が剥がれ落ちる。
中から現れたのは先ほどまでの男ではなく、身長が2メートルほどもある、言葉の通りの怪物であった。
黒い体に固く閉ざされた目、弾丸を一ミリも通さないであろう筋肉の量だった。
「なんなの、こいつ。」
サリアは全員に銃を構えるようにジェスチャーをし、それぞれが隊列を組むために動き始める。
「おいおいこいつ呼ばわりかよ、かわいそうだと思わねぇのか?お前。」
「撃て!」
サリアが命令を下すとともに全員が引き金を引き始める。
「まだ自己紹介もしてねえのに戦闘開始かよ。ひでぇな。」
弾丸をすべてはじき返す怪物による余裕の言葉だった。
「話は聞いてもらえない、か。じゃあ、容赦はしないぞ?」
怪物はゆっくりと動き出し警官を一人ずつなぎ倒す。
「どれくらい持つんでしょうか。見ものですね。」
外からつまらなさそうに様子を見ていた青年がつぶやく。