第4話 A①
---1986年1月の終わり頃--
年始に起こった大殺戮事件と一年前に起きた殺人事件。一年前の犯人だとして捕らえられていたジェギルは剣の扱いにたけるデズィを呼び、年始に起きた事件の犯人を見つけ出すことを依頼した。
---1986年2月2日AM9:30--
デズィが依頼を引き受けた翌日。
ジェギルと話した後、独房の外に出たがそこには誰もいなかった。警官も、もちろんサリアも消えていた。その後デズィは何事もなく外に出て近くの古いホテルに泊まった。
「ふぁぁぁ...。よく寝た。ちょっと寝すぎたか?」
ゆっくりと起き上がりながらつぶやく。」
「依頼を受けちまったんだ。早く出よう。」
五分程度で身支度を済ませ、部屋を出る。
「じゃあチェックアウトで。」
「ありがとね。行ってらっしゃい。」
部屋の鍵を受付のおばさんに渡し、ホテルを出ようと扉に手をかけたところで背後からおばさんの声が聞こえる。
「そうだお兄さん、ちょっと前によくない事件が起きたばかりだから気をつけてね。」
優しい声だ。
「親切にどうも。」
ホテルの外に出て、外を見渡す。
「ジェギルは護身が何とかって言っていたっけ。剣が欲しいな。体術は苦手だ。」
デズィは剣を売っている場所を聞き出そうと城下町の商店街へ向かう。
--15分後-
商店街にて。
「結構人がいるんだなーとりあえず片っ端から聞いていくか」
商店街には雑貨から食材、香辛料など何でもそろっており人もあふれかえっている。
「なぁあんた、この辺で武器を売っている奴を知らないか?」
デズィはの野菜や果物を掴んでいるいかつい男に話しかける。
「私に武器について聞くとは、っ貴様、何もの...。」
そこにいた男は数日前デズィが会った、ハーブルの家の門番をしている男、デゲルであった。
「あなたは確か少し前にしつこく迫ってきた、デズィといいましたか。今度は何用でしょうか。」
デゲルは落ち着いた様子で話した。
「え、あー、会ったことありましたっけ...。」
デズィは完全に彼のことを忘れていた。
「ふん。一度あった人のことはちゃんと覚えていることですよ。私はデゲル。ハーブル邸で門番をしている者ですよ。」
「んあ!あんた俺を追い払いやがった!」
「過去のことは水に流しましょう。過去に縛られては未来が見えないものだ。」
「くっっ...。」
大人の対応で勢いを止められたデズィ呼吸を整える。
「それで、何の用かな。デズィさん。まだエブレス様になにか?」
「いつかそうなる気はするけど今回は違う。武器が欲しいんだ。」
「武器...。ここでは話しづらい。どこか人気のない場所へ。よろしいかな?」
「わかったよ。どこへ行けばいい?」
「あぁ少し待ってもらえるかな。買い物を済ませたい。まだ体調のすぐれないエブレス様のために栄養のあるものを用意しなくてはな。」
「は、はぁ。」
--20分後-
「いつまで待たせんだよこの野郎...。」
待つことに疲れたデズィが愚痴を漏らす。
「まだまだだなデズィさん。愚痴は心の中にとどめておくことだ。悪口はよく響きますよ?」
買い物を終わらせたデゲルがデズィの背後からぬるっと現れ口を開く。
「あんまり驚かせないでくれよ、あんたの言葉はもっと響く...。」
「さぁデズィさん少し移動しましょうか。」
「そうだな。あと俺のことはデズィで呼んでいいぜ。」
「そうかい。わかったよデズィ”さん”」
「...はぁ。」
商店街を少し離れた路地裏で話を始める。
「武器といいましたか、私が勤めるハーブル家は様々な事業を手掛けておられる。もちろん武器も。」
野菜たちをもったまま話を進める。
「なるほどな。なら店の場所だけでもいいんだ。教えてくれないか?」
デズィは壁にもたれかかりながら聞く。
「それはいいでしょう。ですが一つ尋ねたいのです。何のために武器を?」
「仕事で依頼を受けてな。護身用に大剣を一つ欲しいんだ。」
「仕事...護身用なら無駄な殺生はしないでしょう。ところで個人的な話なのですが、依頼の内容について聞いてもいいでしょうか。」
「もちろんだ。殺人の犯人を捕まえろって話だったよ。」
「なるほど。それはぜひとも協力したい。わかりました、ここカエデスの街の隣にはヴェルデクという町がある。そこには小さいがいい武器を揃えてる店がある。名前は”ハーブル武具専門店”の3号店。普通だったら入ることも許されないような店だ。きみの名前と私からの紹介があったといえば入れてもらえるようにしましょう。」
それから20分ほど経った頃だった。
メディンの首都カエデスと隣町ヴェルデクとの境目。デズィはデゲルに紹介された店に向かうためにひとりで歩いていた。
「この辺からかなり田舎っぽくなるな。」
「あ、そういえば俺ヴェルデクに店があるとしか聞いてないな、誰かに聞いてみるか。」
一本道をこちらに向かって歩いてくるオリーブ色のロングコートを着た青年にデズィが近づく。
「なあ君、この先に武具屋があると聞いたんだが場所を知らないか?」
「ふぅん。この道を歩いているということはカエデスから来たんですねぇ、今はヴェルデクに入らない方がいいですよ。」
青年は足をとめず前を向いたまま答える。
「どういうことだ?」
歩幅を合わせながらデズィが尋ねる。
「そうですねぇ、なんというべきか私も経験したことの無いことで。怪獣と言えばいいのでしょうか。得体の知れない化け物がこの道をずっと先に進んだ所に現れたのです。」
「化け物?」
すかさず聞き返した。
「分かりませんか、危険なのですよ。私も逃げてきたところです。私の見解ではあの怪物はカエデスで起きた事件に関係があるかと。」
「あの事件と関係だと、そうか、感謝するぜ。」
デズィは現場に行こうと走り出す。
「ふぅん。あれが事件について嗅ぎまわっている男ですか。」
デズィが見えなくなったのを確認した青年がつぶやく。
「まったく、馬鹿な男ですね。」
つぶやきながら青年が手を上げ指を振る。
するとスーツ姿の男が青年の周りに集まる。
「どういたしましょうか?」
青年よりも数十歳は年上であろうスーツの男がかしこまって聞く。
「そうですねぇ、まぁ私が直接関わるべきではないでしょうし、あの男について調べ上げておいてください。名前は、デズィといいましたか。」