第3話 フリーの剣士③
「俺の名前はジェギルだ。改めて よ ろ し く な。」
その瞬間、異様な空気がその場に流れる。
「(なんなんだ、この空気感...。さっきまでとは何か違う。俺はいまこのジェギルとかいう男に恐怖を覚えている...。)」
ジェギルは楽しそうにニヤニヤとしている。
「次はこっちから2つ質問させてもらうぜ。まず、デズィ。お前、ほんとは犯人じゃないだろ?」
「ほ、ほう。なぜそう思うんだ?」
ジェギルが仕切りを挟んでデズィのことを正面から見つめる。
「思う?ははっ!笑わせてくれるなまったく。確信だ。はじめて顔見た時から俺にはお前が犯人じゃないという”確信”があった。」
デズィは汗をかきながら話を聞く。
「(どういうことなんだ。)」
「この俺ジェギルは大事件の犯人だといわれている男だぜ?人を殺すいかれた野郎くらい見りゃわかる。さぁ、早く答えろ。お前はやってないな?デズィ。」
「あぁ、そうだな。俺はやってない。それになんで俺が疑われているのかもわからない。」
「よし、じゃあ2つ目だ。お前、なんでこの事件に関わろうとした?お前にゃぁ、利益は生まれない。」
デズィは少し考える顔をする。
「なんだ、そんなことが知りたかったのか?簡単な話だ。人助けがしたいだけだ。危険なことに巻き込まれる人間を減らしたいからな。」
と、白々しくデズィは言った。
ジェギルがため息をつく。
「はぁ、面白くねぇな。いい奴ぶっても無駄だ、お前、嘘ついてるだろ?もうこの質問はやめだ、デズィ。」
ジェギルが続けて言う。
「質問を変えさせろ。いいな?」
デズィが数秒考えた後に口を開く。
「そうだな。」
「じゃあ...軽い雑談だと思って話そう。お前はいままでどうやって生活をつないできたんだ?お前みたいなやつが金を稼げるもんかね。」
「俺は顔が広いもんでな、たまにそのパイプを通じて依頼がくるんだ。つまり大体はその日暮らしってことだな。」
ジェギルは目をつぶって考えながら
「なるほどな。あんたもそれなりの人生を送ってるってわけだ。」
「おかげさまでね。」
「なぁ、つまり”依頼”なら聞いてもらえるってことかい?」
「身動きの一つもできない囚人の依頼を聞けっつうのか?そいつは面白い。」
デズィは興味ありげに応える。
「よし、決まりだな。金はすぐ用意しよう。明日またここに来い。依頼の内容はその時話す。それでいいかな、デズィ。」
「考えておこう。気が向いたらまた明日来るよ。」
「気が向いたら?ふざけるな、お前が豚箱に入るかどうかは俺にゆだねられているんだ。調子に、乗らないことだな。俺はデズィ、お前と仲良くしたいだけだ。警官どもには明日もこの俺が会いたがってるといえ。おれもそれにあわせる。じゃあな。」
話を終え冷や汗をかいたデズィは部屋を出ようと錠を開けドアの取ってに手をかける。
デズィが出ようとしたとき背後からジェギルの声が聞こえる。
「おいデズィ。明日会うの、楽しみにしてるぜ?」
デズィはジェギルのほうを見つめながら扉を開けた。
「何の話をしたの?」
部屋の奥で待っていたサリアがデズィにはなす。
「他愛もない話だよ。”この俺に憧れた野郎を一度見てみたかったんだぜ”みたいな。そして一つお願いなんだが、あのジェギルって男は明日も会いたがってるんだ。」
「明日も?っていうかあの男ジェギルっていうのね。」
「あぁ、あいつの名前はジェギルだ。あんたは警官だろ?なんでそんなことも知らないんだ?」
「わからない。多分、国が1年前の事件を完全になかったことにしようとしてるんじゃないかしら。平和な国でこんなことはあってはならないって思った王様はこんなところ作ったくらいだから。」
「それで、明日も会いたいんだけど?」
「上に掛け合ってみるわ。とりあえず今日のところは私たちの目につく場所にいて。」
「了解。」
その後デズィはまた朝まで泊まっていたホテルへ行った。
---1986年1月31日AM5:00--
「お前また来やがったのか!!」
案の定ホテルの主人はぶちぎれた。
「すまないなおっちゃん。どうやら俺はまだシャバの空気吸ってられそうだ。」
「おい!そこの警官!!なんでこいつを逮捕しない?!」
主人は勢いのままにその場にいた男の警官を指さすが、サリアが反応する。
「今日もこの男を泊めてもらえるかしら?」
「うっ、わかったよ。一晩だったな。...10000円だ。」
勢いを止められた主人はおどおどとして言った。
デズィは思う。
(この主人、女に弱いのか。)
サリアは財布から10000円を取り出し主人に突き出す。
「あれ、おっちゃん。昨日泊めてくれたときは7000円だった気が...。」
デズィは自分の部屋に入ろうとしたところで思い出した。
「うるせぇぞ!犯罪者!」
主人は間髪を入れずに反発した。
---1986年1月31日PM11:00--
デズィは既に寝ていた。
彼は夢を見ていた。
色鮮やかな花が咲く丘の上。少年たちは3人で遊んでいた。デズィは遠くから遊んでいる様子を見ていた。誰の記憶か。デズィの記憶の中にはそんな思い出はなかった。
デズィは彼らに近づこうとした。しかし1歩として歩くことも許されず、夢はさめていった。
---1986年2月1日AM10:30--
翌日朝。メディン城地下牢獄にて。
「やぁデズィ。来てくれたか。」
「仕事なら、やるしかないからな。」
「依頼の内容を説明する前に聞いておきたいことがある。お前、護身とかできるのか?」
「どういう意味だ?」
「この依頼は危険を伴う。その大きさは俺には分からないし、最悪の場合お前は、殺されるかもしれない。」
「なるほどな。それなら心配はいらないさ、剣をある程度使える。今は1本も持ってないけどな。」
「なら話は早い。」
ジェギルは独房の隅から丸裸の札束を取り出す。
「依頼は1つ。殺人鬼を捕まえてくれ。報酬はこの金、全部やるよ。一部は前払いだ、これで剣でも買えばいい。」
ジェギルは独房の床に放り出された500万は余裕を持って超えているであろう札束を見ながら言う。
「世間を賑わせた殺人鬼が今度は正義の味方気取りか?」
デズィはあざ笑うように言う。
「そうかもな。まあお前にその理由をいちいち語る必要もないだろ?」
「...そうだな。引き受けよう。」