第2話 フリーの剣士②
年始に起きた殺人事件の犯人として疑われたデズィはホテルの主人に荷物を強引に引っ張り出され、デズィもホテルを追い出されてしまった。
ホテルを出たデズィは目の前の状況に大きく目を開く。
「んなっ...なんでお前がここにいるんだ、サリア...。」
そこにはサリアと数人の警官が立っている。
サリアは真剣な表情を保ち続ける。
「デズィ。あなたに逮捕状が出ているの。先日起きた殺人事件の犯人として。」
理解が追い付かないデズィはゆっくりと口を開く。
「どういうことだ?少なくともサリア、あんたは俺が犯人じゃないことがわかるはずだ。いったい何が?」
数秒の間が流れる。
「私たちはあなたとおしゃべりをしに来たわけじゃない。私はただあなたを警察署に連れて行くのが仕事。さっさとついてきて。」
デズィは反論を続けても無駄だと気付いて、
「わかった。歩きながら話を聞こうじゃねぇか。」
といい歩き始めた。
サリアとデズィを中心にほかの警官たちがボディーガードのようになって歩く。
「で、一体どういうことだ。俺が犯人だって?」
ひっそりとした声でデズィが問いかける。
「そういうことになってるみたいね。」
「俺に疑いをかける理由はなんだ?おれはここ数日でメディンに来たばかりだし。来てからは何もしていないだろ。」
「昨日さっそくハーブル邸にいったんでしょ?そのときにあなたと話した門番の人が”警察にはもう話をしたはずだ。これ以上エブレス様を傷つけるつもりか!”って警察署に押しかけてきたの。」
あきれたデズィがすかさず
「おまえがここに行けっていったんだろうが。」
と軽くサリアをにらみながらつっこむ。
「止めたはずよ。」
「ん?待てよ、それ俺が犯人になる理由にはならなくないか?」
サリアは続ける。
「私だって何かがおかしいことくらいわかってる。逮捕状の請求を誰がしたのかもわからないのにとにかくあなたが犯人だってことでろくな証拠もなく請求が認められてる。真犯人がいるんだろうけど、私にはどうしようもない。」
それからしばらくはだれも一言もしゃべらない状況が続いたが突然、警官が慌てたよう走ってデズィ達に合流し、サリアになにかを報告する。
「えっ、なんで...?」
サリアは驚きのあまり硬直する。
数秒の間の後、サリアが気持ちを整えてからデズィに話す。
「簡単に言うわ。1年前の殺人事件の犯人があなたに会いたがっている。それも二人きりで。」
「1年前の事件の犯人が俺に?一体何が起きてる?」
「こっちのセリフよ!あなた凶悪犯なんかと面識があるの?」
「あるわけねぇだろ。ここ1年この国に一度も入ってきてもない俺がそんな極悪野郎と会う暇は残念ながらなかったんでな。」
結局、その場にいた人間は全員緊張感を持ったまま1年前の事件の犯人が捕まっているというメディン城地下にある独房へと向かった。
---1986年1月31日AM4:30--
「こんなところに囚人入れるところがあったなんてな。」
デズィがメディン城地下を見下ろしながらつぶやく。
「そうね、警察や国の関係者くらいしか知らないんじゃないかしら。メディンは基本争いのない平和な国だから刑務所に入ってくる囚人も軽い罪を犯した人しかいないの。で、そんな人たちの中に殺人とかをした極悪人をいれたらすぐに出ていく囚人たちがかわいそうだっていう理由で今の王様が作らせたの。」
「なんか王様も王様で結構すごいやつだな...。」
デズィが鼻で笑うようにつぶやいた。
「さ、こんなところで話してたってしょうがないわ。行きましょう。」
サリアたちは数百段もある階段を下りていく。
階段を降り切った一行は広い空間の中に石でできた窓の一つもない小部屋に近づいていく。
デズィがゴクリと唾をのみサリアに話す。
「ここに例のやつが?」
「ええ、二人で会う約束だから私たちはここで待っているわ。何かあったらいいに来て。」
デズィはゆっくりと歩き出す。小部屋についている小さめな鉄製の扉を前に呼吸を整える。
ギイィィィ...という鈍い音を鳴らしながら扉を開き錠をかける。
小部屋には中央から特殊な強化ガラスで仕切りがたてられている。
仕切りの向こう側に座るオレンジ色の囚人服を着た短髪の男が口を開く。
「よぉ、お前が俺に憧れて年始早々虐殺したとかいう男かい?意外と若いんだなぁ。」
「そういうことらしいな。俺はデズィ。(もっとやべぇ雰囲気があると思ってだが、思ったよりは一般人っぽいな。)」
「そうかデズィっつうのか。よろしくな。」
「ああ、よろしく頼むよ。一応言っておくが今回の事件はお前の時より殺した人数が多いしやり方も残酷だ。上から目線はやめることだな。」
デズィは軽く挑発をしながら様子を見る。
「はっはっはっは!おもしろいやつだ。お前、この俺がここに呼んでなけりゃ今頃こっち側にいた人間だぜ?感謝くらいしてほしいもんだ。」
「くそ話はその辺でいいか?まずはお前の名前を教えてくれ。こっちはお前のことを何も知らないもんでな。」
「そうかいそうかい、名前も知らねぇのか。悲しいねぇ。」
「はやくしてくれ、俺はこんなことに時間をとっていられないんでな。」
男はニヤリと口角を上げる。
「俺の名前は”ジェギル”だ。改めて
よ ろ し く な 。」