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17.南瓜のケーキで藍のお誕生日

 藍の誕生日には、ケーキで作って欲しいものがあったようだ。


「杏さんと緑さんのお誕生日の栗のケーキ、モンブランっていうのね。本に書いてあったわ」

「そのモンブランというのが食べたいのかな?」

「モンブランには栗だけじゃなくて、南瓜やサツマイモもあるんですって。私、南瓜のモンブランが食べてみたいわ」


 話を聞いているだけで、杏と緑の誕生日のときに食べたケーキを思い出しているのか、紫音の口の端と青慈の口の端から涎が垂れそうになっている。


「もんぶらんっていうんだ」

「おいしかったの」

「またたべたいよね」


 食いしん坊の青慈と紫音にとっては、ケーキを食べられる貴重な機会を逃すわけがない。目を輝かせて朱雀を見ているから、朱雀も南瓜のモンブランケーキを作らないわけにはいかなくなった。

 南瓜を煮て甘くして生クリームと合わせて南瓜のクリームを作る。スポンジケーキの上にたっぷりとカボチャのクリームを乗せて、端を泡立てた生クリームで飾る。

 昼食前にできてしまったケーキを、朱雀は大事に氷室に仕舞っておいた。

 昼食にはワンタンを作って、スープの中に浮かべた。一杯では足りずにお代わりする青慈と紫音のために、何個もワンタンを追加する。藍も杏も緑もたっぷりと食べていた。

 冬になってから漁には行かなくなっているので、海沿いの街からは春になるまでは魚は届けられないと連絡が入っていた。しかし、その日は急に連絡が入って、魚を届けられると言われた。


(まぐろ)……どういう魚だろう」

「聞いたことがあるわ。とても大きな魚で、遠い海まで行って獲ってくるのだって」


 海沿いの街にも行ったことのある藍は鮪がどんな魚かしっていた。とても大きな魚で、何か月もかけて船を出して遠い海まで行って獲ってくるのだという。獲った鮪は氷室に入れて凍らせて持って帰ってくるらしい。

 そんな風にして手に入れた鮪の切り身が転移の箱の中に入っていて、朱雀は調理方法を見ながら料金を多めに転移の箱の中に入れた。


「青慈、紫音、今日は鮪丼にしよう!」

「まぐろどん!? おさしみ?」

「おさしみがたべられるの?」


 晩ご飯の献立が決まって、青慈と紫音も飛び跳ねて喜んでいる。昼食後には紫音は眠くなるので、お手洗いに連れていかれて寝台に寝かされていた。

 青慈は長椅子に座って本の続きを読んでいる。長めの児童書を与えているが、毎日少しずつ読み進めているようだった。


「おとうさん、このこたち、れっしゃにのってる。れっしゃって、なに?」

「列車は蒸気機関で動かす大きな乗り物だよ」

「じょうききかんって、なに?」

「蒸気機関は……なんて説明したらいいんだろう」


 朱雀もその辺りは詳しくなかったので、後日青龍から本を送ってもらう約束をして、そのときに青慈と一緒に調べることにした。青龍に本を送ってもらう手紙を書いていると、青慈が覗き込んでいる。


「おれ、もっといろんなことがかいてあるほんがほしい」

「どんな本だろう」

「どうぶつのことがしらべられたり、さかなのことがしらべられたり、のりもののことがしらべられたりするほんって、ないのかな?」


 勉強したい青慈が欲しがっている本が、朱雀には何となく分かる気がしていた。青龍は王都へも行って本を集めている。妖精種の村に行ったときに久しぶりに青龍の家に行ったが、青龍は自分の本を色んなひとに分けているはずなのに、足の踏み場のないくらい家じゅうが本だらけだった。

 青龍に頼めば本を仕入れてくれるのではないだろうか。


「図鑑、かな」

「ずかん?」

「それに、辞書もだな」

「じしょ?」

「図鑑は動物や魚や乗り物など、それぞれの分野で絵入りで説明してくれる本のことだよ。植物や魔法植物の図鑑もあった方がいいかもしれないね」

「マンドラゴラやスイカねこのこともわかるの?」

「分かると思うよ。辞書は自分が分からないことを調べるための本だよ」


 話していると青慈の目が煌めく。


「ずかんは、しおんちゃんとおれのぶん、かってくれる?」

「別々にした方がいいかな?」

「なかよくみれるときもあるけど、べつべつにみたいときもあるから」

「それなら二冊ずつ準備しよう」


 元々青慈の我が儘には甘いので、朱雀はあっさりと図鑑は二冊ずつ頼むことに決めてしまった。青龍に手紙を書き終えて魔法で送ると、青慈が長椅子に座ってまた本の続きを読んでいる。

 ぱちぱちと爆ぜる暖炉の火に照らされて、青慈の顔は橙色に染まっていた。

 お昼寝の時間が終わると紫音は元気に起きてくる。学校を意識している青慈はもうすっかりお昼寝の必要がなくなっていたが、まだ3歳の紫音はお昼寝がないと眠気で機嫌が悪くなったり、遊んでいる途中で床に倒れ込んで寝てしまったりする。

 寝台に連れて行って藍が様子を見ながら二時間くらい寝かせるのが一番いいのだ。


「とーたん、おなかすいたー! あいたん、おのどもかわいたー!」

「お茶を淹れましょうね。紫音の大好きな牛乳をたっぷりと入れて」

「やったー!」


 藍にお茶を淹れてもらって、紫音は子どもの椅子に座って茶杯に口をつけてくぴくぴと飲んでいる。本に栞を挟んだ青慈も、本を片付けて椅子に座った。


「今日は雪のせいかお客さんがほとんど来なかったわ」

「冬の間はこんな感じなのかしら」


 休憩に顔を出す杏と緑は、おやつの後もお客は来なさそうだと思っているようだ。


「緑さんが店番をして、私は朱雀さんの家を掃除するわ」

「そうしましょう」

「助かるわー。私一人じゃ掃除が行き届いていなかったのよ」


 藍は努力してくれているが、青慈と紫音の様子を見ながらだと細々とした家事まではできない。朱雀も気を付けているのだが、食事の準備と片付けに、調合の仕事もあるので、掃除まで行き届かないのが現実だった。

 久しぶりに杏に隅々まで掃除をしてもらえるのは助かる。


「藍さんの誕生日お祝いに何も用意してないから、労働力で許して」

「すごく助かるわ」


 杏の申し出に藍はとても喜んでいた。

 氷室から出して来た南瓜のモンブランケーキで藍の誕生日を祝う。

 青慈と紫音は声を合わせて歌っていた。


「何の歌かな?」

「しおんちゃんがかんがえたうただよ」

「あいたん、だいすきのうたなの」


 朱雀の問いかけに、青慈と紫音が答える。しっかりした旋律だったので、藍が教えたのかと思っていたら、紫音の考えた歌だった。聖女だから紫音は歌の才能があるのだろうか。そうだとすれば歌の先生のところに連れて行った方がいいのかもしれない。


「あいたん、おたんじょうびおめでとう! だいすきよ!」

「あいさん、おめでとう!」

「ありがとう、紫音、青慈。紫音は私のお姫様よ。青慈は可愛い勇者様よ」


 口々におめでとうを言う紫音と青慈に感激して藍は二人を抱き締めていた。

 モンブランケーキを切って、一人ずつのお皿に朱雀は乗せる。お茶も淹れて、全員で藍のお誕生日を祝った。


「これは南瓜?」

「綺麗な橙色ね」


 匙で食べながら杏と緑がケーキの話をしている。


「杏さんと緑さんのお誕生日に栗のケーキを作っただろう? あれはモンブランというらしいんだ。南瓜やサツマイモでも作れるって話で、藍さんは南瓜のモンブランを作って欲しいって言ってくれたんだ」

「藍さんの要望だったのね」

「南瓜が甘くてとても美味しいわ」


 南瓜のモンブランケーキは杏と緑にも好評だったようだ。青慈と紫音に関しては、吸い込むように食べているので、美味しいということはよく伝わってくる。口の周りを南瓜色にしてお茶を飲んでいる紫音の口を藍が拭いて、青慈の口を朱雀が拭く。


「青慈は学校に行くようになったら、お弁当を持って行かなきゃいけないかな」

「おとうさんのおべんとう!」

「そのときには、口の周りが汚れたら自分で拭くんだよ」


 食べ方が下手なわけではないが、青慈は急いで食べるときにはどうしても口の周りを汚してしまう。特にモンブランケーキの南瓜のクリームのような口に付きやすい柔らかなものは、青慈の口の周りについてしまう。牛乳の入った飲み物を飲んでも口の周りが白くなるのだから、一人で食事をするようになるのならば気を付けるように言っておかなければいけない。


「がっこうには、おとうさんもしおんちゃんもいないのか」

「そうだよ。学校までは私か藍さんに送ってもらうけどね」

「おくらなくていいよ! おれ、ひとりでいける!」

「山道は危ないから、送って行ってもらわないとだめだよ」

「まいごにならないし、おおくろくまがきてもへいきなのに!」


 そう言って唇を尖らせる青慈はまだまだ小さい。山道をとても一人で歩いて山を降りさせて学校に行かせるようなことはできなかった。

 春になれば青慈は学校に行くようになる。

 そのときにはしっかりと送り迎えをするつもりの朱雀だった。


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