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29.妖精種の村へ

 会いたいと言い出したのは、青龍だった。


『朱雀が育てた子が、魔王を降伏させたのね。会ってみたいわ』


 それだけでなく、青龍は朱雀に提案した。


『妖精種が魔王に攫われていたのを助けたって、朱雀は村でも英雄扱いになってるわよ。一度、顔を見せに来ない?』


 玄武と白虎と朱雀と青龍。兄弟姉妹のようにして育った四人がまた妖精種の村に集まるようにしたい。妖精種の長老たちからも朱雀にはお礼があると聞いて、朱雀は青慈と紫音に相談することにした。


「青慈、紫音、前に白虎がこの家に来ただろう?」

「おねえちゃんだよね、おぼえてるよ」

「ねーたん! ちた!」


 白虎のことははっきりと覚えているようなので、朱雀は説明を加える。


「私には玄武という兄がいて、白虎が姉で、青龍という妹がいるんだ。本当は従兄弟とかはとこくらいの血の繋がりなんだけど、妖精種の村では近い年代に生まれた子どもたちを兄弟姉妹として一緒に育てる風習があるんだよ」

「おとうさんの、おにいちゃんと、いもうと? おれ、ごあいさつする!」

「とーたんの、にーたんといもと! わたち、ごあいたつちる!」


 白虎が青慈にも紫音にも優しくしてくれたおかげで、朱雀の兄弟姉妹に対する青慈と紫音の印象は悪くないようだった。これならば妖精種の村に連れて行っても大丈夫なのではないだろうか。

 成人するまでに魔力がないことを馬鹿にされて離れた故郷だったが、今はそれほどの感情は抱いていない。二百年も離れていると、朱雀を馬鹿にした奴らは若い連中だけで、長老たちや親世代はそれを止めていたのも冷静に思い出すことができるようになっていた。

 特に玄武と白虎と青龍の兄弟姉妹は、朱雀が妖精種の村を離れることをとても心配してくれていた。

 青龍にはそのうち勇者と聖女を拾って育てた事情を話すと約束していたので、それを果たす日が来たのかもしれない。


「青慈、紫音、私の生まれた村に行く?」

「おれ、いく!」

「わたちも、いく!」


 元気よく手を上げて答えた青慈と紫音に、次は朱雀は藍に相談する番だった。

 藍は人間の女性で、勇者でも聖女でもないので妖精種の村では受け入れられないかもしれない。けれど、まだ小さな青慈と紫音を連れて朱雀だけで出かけるのは不安がある。


「藍さん、嫌な思いをするかもしれないんだけど、私の生まれた村に一緒について来てくれないか? 青慈と紫音も連れて行きたいんだ」

「青慈と紫音の世話をするひとが必要なのね。私は青慈と紫音の乳母だもの。頼ってくれて嬉しいわ」


 細々と説明しなくても快く了承してくれる藍に朱雀は感謝する。


「以前に来た白虎は私の姉のような存在なんだ。他にも兄のような玄武と、妹のような青龍という仲間がいる。彼らに青慈と紫音を紹介したいんだ」

「分かったわ。できるだけいい服を着て行かないといけないわね。杏さんと緑さんにも相談してみましょう」


 妖精種の村に行くことに藍は乗り気のようだった。留守番を頼むことになる杏と緑にはくれぐれもこの敷地内から出ないようにお願いをする。


「野生動物や魔物も出ないとも限らないから、私が留守の間はこの家の敷地内だけで暮らして欲しい」

「分かったわ。しっかり家を守るわね」

「任せて! 家の大掃除をして待ってるよ」


 朱雀たちがいない間に大掃除をするつもりでいる緑と、家を守ってくれるという杏は心強い。二人にお願いして、朱雀は白虎と通信で連絡を取った。赤い石を鳥の形に彫ったものに手を翳すと、白い髪に水色の目の女性の姿が立体映像で映し出される。


「白虎、私の家に迎えに来て、私と青慈と紫音と藍さんを、転移の魔法で妖精種の村まで連れて行ってくれないか?」

『いいよ、いつ頃行けばいい?』

「すぐに準備をする」


 通信を切って青慈と紫音の分の着替えをそれぞれのがま口に入れて、綺麗な裾の長い上衣とズボンに着替えて来た藍が、肩からかけている小さな鞄に荷物を詰め終えたのを確認して、朱雀は庭に出た。門を開けると、既に白虎が立って待っている。


「白虎、よろしく頼むよ……あれ? 青慈、その深靴を履いてきたのかな? 紫音は手甲は付けて行くの?」

「このおくつがいいの!」

「わたち、てっこー、かっこいー!」


 戦いに行くときのような格好の青慈と紫音に苦笑しながら、朱雀は白虎に転移の魔法をお願いした。つむじ風が舞い起こり、白虎と朱雀と青慈と紫音と藍を包み込む。風が晴れたときには、白虎と朱雀と青慈と紫音と藍は、妖精種の村の入口についていた。

 高い柵で周りを囲ったその村は、森の奥深くにあって、木々がうっそうと茂る中、村の場所だけが切り開かれていた。白虎が大きな門に手を翳すと門が音もたてずに開く。

 門の中にはいると、青龍と玄武が待っていてくれた。

 青龍は小柄な体付きで褐色の肌に青灰色の髪に青い目の女性で、玄武は長身で褐色の肌に黒い髪に黒い目の男性だ。


「久しぶりだな、朱雀! その子たちが朱雀の育てた勇者と聖女か?」

「可愛い勇者様と聖女様ね。初めまして、私は朱雀の妹の青龍よ」

「俺は玄武だ」


 青龍と玄武が挨拶をすると、青慈も紫音も背筋をピンと伸ばして挨拶をする。


「おれ、せいじです! おおきくなったら、すざくおとうさんとけっこんします」

「わたち、しおん! おおちくなったら、あいたんとけっこんちまつ」


 何を言っているのかと慌てる朱雀と藍に構わずに、玄武と青龍は真面目な顔でそれを聞いている。


「朱雀と結婚するのか。それなら、長生きしないといけないな」

「玄武、国王から不老長寿の妙薬を作るように頼まれたんじゃない?」

「あれは断った。だがちょっと作ってみたが、邪法は俺には合わないな。少し寿命を延ばすような魔法薬しか作れなかったよ」

「それ、くだたい!」

「紫音、欲しいのか?」

「くだたい!」


 がま口を開けて中に入れて欲しいと一生懸命背伸びしている紫音に、玄武が腰の小さな鞄から出した小瓶を渡してしまったのを朱雀は見た。


「玄武、そんな小さい子に、危険な薬をあげないで!」

「欲しがるから。どうせ俺はいらないし」

「紫音、そのお薬は私に渡しなさい」

「やーの!」

「紫音、絶対に使っちゃダメだよ」

「ちらない!」


 薬を手に入れてしまった紫音がそれをどうするか心配になる朱雀に、玄武が大らかに笑う。


「成功作じゃないから大丈夫だ。少ししか寿命は延びないよ」


 妖精種の言う少しだから全然あてにならないのだが、腕力の強い手甲まで付けて武装した紫音と争って勝てる気はせずに、朱雀は薬を取り上げるのを諦めるしかなかった。そのうち寝ている間にでもがま口からそっと抜いておけばいいだろうなどと甘いことを考えてしまう。


「青慈と紫音に長老たちも会いたいって言っているのよ」

「会ってあげてくれるか?」

「ちょうろうって、なんですか?」

「妖精種の中でも特に長く生きている偉いひとたちよ」

「えらいひと、わたち、あう!」

「ごあいさつします」


 妖精種の朱雀と物心ついたときから一緒に暮らしている青慈と紫音は、妖精種の白虎にも、玄武と青龍にも抵抗はないようだった。藍は緊張しているようだが、青慈と紫音の乳母ということで無条件に受け入れられているようだった。

 長老の家を訪ねると、家の中には数人の男女がいた。妖精種の長老たちは数名で話し合って妖精種の村の規則を決めている。村を治めるのが一人ではないというのが、妖精種の特徴だった。


「朱雀、戻って来てくれたのか」

「魔王にはこの村を離れた妖精種が何人も餌食になったと聞いています」

「勇者と聖女が魔王を降伏させたことも聞いている」

「あなたが勇者、あなたが聖女ですね」


 長老たちに問いかけられて、青慈と紫音がビシッと背筋を伸ばしている。


「せいじです! すざくおとうさんとけっこんします!」

「しおんでつ! あいたんとけっこんちまつ」

「結婚云々は受け入れるかどうか別にして、紫音、そのひとたちに私とのことを報告しなくていいのよ?」

「ちやった?」


 青慈が真面目に挨拶しているのにつられてしまっているが、紫音が藍と結婚することに関しては、妖精種の長老も報告されても困ってしまうだろう。


「勇者は、自分の手柄の褒美に朱雀と結婚したいと言っているのか」

「青慈さんといいましたね。あなたの功績を讃えて、朱雀との結婚を許しましょう。ただし、あなたが大人になって、朱雀がそれを了承したときに限ります」

「許すんですか!?」

「勇者は魔王を降伏させた。そのことでたくさんの妖精種が助かった。その功績を讃えてもいいのではないか?」

「あくまでも、朱雀の意志を尊重した上でのことです」


 まだ5歳の青慈に結婚の意味が本当に分かっているのかも怪しいし、大きくなれば気持ちが変わってしまうこともあるに違いない。それを分かっていて、大人になってから朱雀の了承がないと結婚は認めないと言っているのだろうが、魔王を降伏させた褒美として青慈に朱雀が与えられるという話に朱雀は呆れかえっていた。


「子どもの言うことですよ?」

「勇者の言うことだ」

「青慈は勇者ですけど……」


 長老たちをなんとか説得しようとする朱雀に、青慈が目を潤ませて朱雀を見上げてくる。


「おとうさん、おれがきらい?」

「嫌いじゃないよ?」

「おれはおとうさんがだいすき! おおきくなったらけっこんしたい」

「それは……まだ青慈は小さいし」

「おおきくなったらって、いってるよ」

「う、うん」


 うるうると涙の滲んだ目で見られてしまうと朱雀もはっきりと断ることができない。青慈がずっとそばにいてくれることを朱雀も望んでいるのだから、青慈の好意が嬉しくないわけではなかった。


「おとうさん、ずっといっしょにいようね」

「う、うん?」


 これでいいのかと悩みつつも頷いた朱雀に青慈が抱き付いてくる。青慈を抱き上げていると、長老たちは紫音に聞いていた。


「聖女は欲しいものはないのですか?」

「もう、もらったの」

「そうなのか? それならば、せめて我らから礼だけでも言わせてほしい。本当にありがとう」

「ありがとうございます、聖女よ」


 お礼を言われて紫音も藍にしがみ付いて抱っこされて誇らしげな顔をしていた。


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