ギフト・おぶ・みい
一番きれいなものをあなたに。
「好きです」
「ごめんね」
平凡な外見をした彼は食い下がった。
「贈り物を、用意してきました」
「……ごめんね? 私、彼氏いるから」
「受け取ってください」
――――最寄りの中古品屋はどこにあったかなと思いながら、取り敢えず彼の話に付き合うことにした。
彼のいままで一連のアプローチは少々情熱的すぎた。うれしさ半分、申し訳なさ半分……、というか彼氏いるって最初から言ってるけど。多少迷惑でもあった。
でもなんだか強く拒絶したら、しすぎてしまったら、どんなことになってしまうのかがわからなくてちょっと怖い。これが実情だ。
「で、贈り物ってなんなの?」
「ここにはありません」
わるいけど、「心です」とか言うなよ。
「どこにあるの?」
「こっちです」
彼はシャツの胸元を開いて「僕の心を見て!!」……と言ったわけではなく。駅の改札口から徒歩30秒先にあるバス停を指さした。
今、私と彼はバス停に立っている。
「いや、どこにあるの?」
「ここです」
情熱的だ……。何もわかっていない私が冷えきっているのだろうか。「きゃあ、素敵なバス停ね! 時刻表に数字がいっぱい!」とか言った方が良いムードになるかな。いや、良いムードを出したところでそこで終わりなのだけど。
ともあれ腕時計をチラッと見てニヤッとしているあたり、多分バス停がプレゼントというわけではないだろう。バスに乗って、何処かに行くのだろうか……。このバス、繁華街から離れていく路線だけど、いったい何処へ向かうのだろう。
すると彼は語りだした。
「一番美しいものを、あなたにあげたかった」
過去形。なかなかドラマチックな始まり。
「でも、探しても、探しても……、それが何なのか、わからなかったんだ。一番美しいものが。……ほかのどんな物よりも、きれいな、そんな贈り物が」
「そんな、別にいいよ? 私の好きなモノだったらなんでも」
「でも!」
口挟まないほうがよかったかな。
「僕は、探し続けたんだ……」
「うん」
今度は邪魔にならない程度にささやかな相槌をして彼を見る。
「そうさ。最初から、わかってたんだ」
――――ヴヴヴブオオオオオオォ!!!
「…………!!」
向かいの道路を走ってゆく大型トラック。それと比べて、彼の言葉はあまりに優しい。彼の音は、すべて振動と共に散ってゆく。
「ごめん、なんて?」
「ッ!! キミが!! 何よりも!! 一番美しいから!!」
絶叫が響く。静寂を取り戻したバス停へ。向こうの改札口へと。
そして世界が止まる。彼の動向にだれもが足を止め、固唾をのんで見守った。
……当然、私も見守られている。
「ちょっと声――、」
「世界で!! 一番美しいのはッ!! キミだったんだ!!」
ごめん。
ーーー
結局、贈り物はこの言葉、だったのだろう。
私にとって、これ以上のものにはならない言葉。けれども彼にとって、……いや、彼の好意を知っていた私にとっても、これは必要なものだった。
嫌いじゃないよ。こういうところが、本当に好き。
なにか言葉をつくって贈ろうとして、唇が震えていることに私は気付く。
それはダメだ。涙で中和できるほど、私たちは、薄くない。……そうである、ハズなのだ。
「――――ねえ、」
いつの間にか世界は流れて、私たちは、ずっとそこにいて。
私がゆっくりと、こぼさないように、声を出したとき。
彼は再び、語った。
「……キミはなによりも、どれよりも、きれいだ」
――――ぺコーン!! ペコーーン!!
路線バスがやってきた。速度を落として、私たちのもとへ。
「言ったよね? 僕はあなたに一番をあげたかった。だからあげるよ。 最高の贈り物を」
甘い匂い。ため息のような排気音、バス独特の仕草で開く出入り口から誰かが降りてきた。
私が降りてきた。
「作ったんだ。あなたをあげるよ」
私は私自身と向き合った。
読んでいただいてありがとうございました。今回はおためしで傍点を入れてみました。読みやすくなっていると良いですが。
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