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2/12

自分は運が悪い方だって思ってないか? 私もだ

 魔族に最も近い村。

 そう通称される人間領の最端「カルアレ村」。

 百人ばかりの村民が暮らすそこは、魔界の眼前である事を考慮してなお、陰鬱な雰囲気に包まれていた。



「勇者様、本当に大丈夫なんでしょうか?」



 村長が、赤髪の少女に問いかける。



「安心して、私たちが解決しちゃうから!」



 勇者と呼ばれた少女は、無意識に仲間に目をやり、右手は剣の鞘を撫でる。

 名前は、アリアロッテ・フルード。魔王を討ち滅ぼす任を受けた救世主である。


 現在、彼女は魔界を前にして立ち寄った村で問題に見舞われている。

 今までにない規模で作物が荒らされており、村での生活が立ちいかなくなりつつあるというのだ。そして、村の子供が一人、昨日から行方不明なのだという。

 魔界の最寄りという事もあり、何か強力な魔物が現れたのかもしれない。

 もしもそうであれば、被害は作物だけにとどまらないだろう。



「全く、勇者様は面倒を引き受けすぎです」



 勇者の行動に難色を示すのは、魔術師のガレルア・オード・ロマール。王国の筆頭魔術師であり、勇者一行の頭脳だ。



「で、でも見過ごすのは……」



 そのように声を震わせるのは、祈祷師のマナ・ルアンナ。勇者の昔馴染みであり、英雄である彼女が腹を割って話せる数少ない友人である。



「まあまあ、魔王を倒すために民を犠牲にしちゃあ本末転倒だろう?」



 笑顔でそう言うのは、戦士のグラント・ロイ・アシモフ。戦闘での重々しい立ち振る舞いとは対照的に、実に理知的で穏やかな人物である。



「ふん……」



 反対意見が自分だけであると見ると、ガレルアは不満そうにしながらも意見を取りやめた。

 彼が言っている事も、単なるわがままではないのだ。



「じゃあ、私たちは森に入るから、四日くらいしたら報告に戻ってくるね」


「はい、よろしくおねがいします!」



 その言葉から二日間、村人たちは不安に苛まれながらも平和に暮らしていた。

 勇者の働きのせいか、新たな被害は起こらず、このまま何もないままに解決してしまうだろうかと誰もが楽観した。


 ただ、異変は三日目に起こる。勇者が帰る直前から始まる異変。

 それは、小さな村に余る、世界規模の大事件だ。


 勇者からもたらされる事態の報告よりも先に、魔王がこの村に訪れた。

 当然、彼らは知る由もない事なのだが。


 ◆


 ようやく着いた。ようやく、村が見えた。

 アンナと名乗った少女の言う通りに森を進むと、彼女が住んでいるという村が見えてきた。


 善行はするものだ。アンナを助けていなければ、私はまだ森の中を彷徨っていた事だろう。

 疲労を感じない私ではあるが、長時間の連続活動で流石に精神が参ってきていたところだった。

 とはいえ、千年の激務に比べれば遥かに()()だが。



「アンナ!? 帰ったのか!!」



 村に着くと、矍鑠(かくしゃく)とした老人が駆け寄ってきた。

 親類だろうか?



「お爺ちゃん……! あ、いや、体に障るぞご老体」


「相変わらず変な喋り方して! また勝手に森へ入ったろう!? 危ないからやめろと言っておいただろうが!」


「ご、ごめんお爺ちゃん。でもね、カイウスさんが助けてくれたから平気だったよ」



 カイウスさん。

 私の事だ。魔王の名前がどれくらい人間に知られているのかは知らんが、念のために偽名を考えていた。

 人間的におかしくない名前にしたのだが、何やらこの名前を名乗ったらアンナが私の事をキラキラとした目で見てくるのが気になってしまう。

 惚れられたか? もしそうだとしても人間を娶る気はないぞ。



「おお、そうでしたか。何とお礼を申し上げて良いやら」



 アンナには、ワイルド・ボウを倒した事は伏せておくように言ってある。

 私が望むのは平穏な生活であるため、過度な力を持っている事が露呈するのは望ましくないのだ。

 つまりは面倒。

 私は今、何よりも面倒を嫌っている。



「いやいや、当然の事をしたまでだ」



 そう、全く当然の事。

 自分の利のためにやった事だ。



「はぁ、人間ができておるなあ」


「はっは、照れる」



 人間じゃないけど。



「カイウスは森の中で魔物に襲われて……あ、いや、魔物と激しい戦いを繰り広げていたところを助力してくれたのだ。思ったよりも激戦になってしまったので、帰りが遅くなってしまった」


「こら、おかしな話し方をするな」


「痛っ!?」



 見事な拳骨だ。まるで魔都中央広場にある鐘の音のように音がよく響いている。



「魔物に追われて、森の奥に入り込んでしまったようだ。ひどく疲れているようだが、怪我はない」


「なるほど、そこを助けていただいたと……やっぱりお前の言葉は嘘じゃないか。真面目に話しているんだから適当な事を言うな」


「痛ぁ!! 二度もブツ事ないじゃん!?」


「カイウスさん、もう時間も遅いので、よろしければ泊まっていかれてはいかがか。私もお礼がしたいし」



 なるほど、できた爺さんだ。

 まあ、初めからどちらにしても上手い事言いくるめて泊めさせるつもりだったが。



「お言葉に甘えさせていただこう」


「では、ウチへどうぞ。あまり広くはありませんが、多少の持てなしくらいはできます」



 私は食事を取らない魔族だが、ここで断るのは不自然なので笑顔で対応する。

 今まで物を食べた事はないが、私は食事ができるのだろうか。

 お腹を壊したりしないだろうか。

 流石に死にはしないだろうが。



「森は今危険ですからな、ゆっくりされて行かれるがよろしい。少なくとも、近頃の異変を勇者様が解決くださる時まで」



 ……ん??????

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