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並行線上のセツナ  作者: 白旗太郎
第二章 第一の試練【侵略と防衛】
12/16

12.刹那の攻防

 ガイアと名乗るその巨人は、セツナの目には人間では無い何かに写っていた。見た目からまずガイアは、人間とは異なるモノだとは認知できるが、そう言うわけでは無い。

 この生物の根本に眠る何かは、人間のそれとは全く違うものの様に感じ取ったのだ。だが、それはただのセツナの憶測にしか過ぎない。

 それでも、ガイアにはこの巨大な身体といい何かがあるとセツナは感じる。


 しかし、そんな事ばかりを考えている暇は無い。今は戦わなくてはならないのだ。お互いの世界の命運を賭けて。

 セツナは、地面を蹴り宙へ飛び出す。それに続く様にガイアも駆けて襲ってくる。

 

 両者がぶつかり合うその瞬間、セツナが片手を振った。すると空を斬るヒュンッ、と言う音が鳴った。そう、セツナの手にはいつの間にか孤を描くような形状をした、日光に照らされて輝く鋼の刀剣が握られていたのだ。そしてそれは早速、ガイアの身体に数本の傷痕を残していった。


 一瞬の早技の前にガイアはなす術無く、傷を負ってしまう。だが、その程度の傷などガイアの身体からしてみればただの擦り傷と対して変わらない。

 

 そして、セツナが攻撃をし終えたと同時にガイアも手を払う。セツナは、その攻撃を確実に視界に捉えていた。だが、今の宙に飛んでいる状況では、避ける術がない。

 勢い良く飛んで来るその掌は、セツナだけを叩くのでは無い。周りにある空気ごと押し込まれるように、強烈な力を空間へと放ってくるのだ。

 そしてそのままセツナは、地面へ叩き落とされてしまった。

 しかしセツナは攻撃を避けようとはしなかったが、攻撃をただ喰おうとした訳では無い。その攻撃のモーションを確認するや否や、セツナは直ぐに刀を仕舞ったのだ。そして、全身の力を抜いて攻撃を受け流す準備を一瞬の内に整えていた。


 その為セツナは、地面へぶつかる際に両手を地面へと思い切り叩きつける事で、ガイアの一撃のダメージを分散させ、そのまま後方へと数回転して着地し、ダメージを最小にして攻撃を受け切ったのだ。それは正しく、一瞬の力加減もミスする事はできない様な、高度な受け身の技術を要するモノだ。

 それを実践で行えるセツナは流石としか言いようがない。

 

「その見た目に反して、攻撃のスピードは中々速いんだな。避け切れると思って油断してたよ」


「お前こそ、オレの攻撃を二度も受けて尚、立ち上がってくるとは……流石だぜ」


 一定の距離を保ち、セツナとガイアの両者は互いに睨みを効かせている。どちらかが動けば、直ぐにでも反応する用意を両者はしている。

 それでも互いに呼吸が合わずに、未だに見合っている。緊迫の状況ではあるが、両者は依然落ち着いている。


 勿論のことだが彼らは、自分から仕掛けるのも相手の動きに合わせて攻撃するのにも長けている。その為、動こうと思えば動く事もできる。だが、それをしないのは両者が相手の力量を理解し、その上で仕掛けるタイミングを伺っているからだ。

 そして、その仕掛けるタイミングを両者は全くと言って見せないものだから、未だに硬直状態が続いている訳だ。

 だが、彼らはそんな受け身になる戦いをしに来たのではない。勝つ為に戦うのだ。


「ーー行くか」


 セツナが静かにそう呟き、背中に納めている刀に触れた。その瞬間、待ってましたと言う様にガイアが突進して来る。

 その巨体が為に、地面が大きく揺れる。その揺れの最中でもセツナは平常を保ち、静かに刀を抜き取った。


「ウガァァァ!」


 ガイアは相変わらずの攻撃の手法で、右手を引く動作から始まる。そして力を溜めて前方を思いっきり振り切る事で、相手を弾き飛ばす技だ。単純だからこそ、洗練されたその攻撃の重みは、想像と実際に受けてみるのとでは桁違いである。

 そして、今回もガイアは右手を引き込み直ぐに力を溜め、肩から指先までを伸ばして攻撃を繰り出す。ーーその間僅か一秒弱。

 ガイアの巨体から繰り出されるこの一撃、そしてこの速さ。避け切ることなど、不可能だ。そして、今回もまた振り切った右手から大量の鮮血が吹き出している。


「ーーッ⁉︎」

 

 否、それはセツナの血では無かった。ガイアの右手から吹き出ている血は、ガイア自身の手から出ていたモノだ。更にその血が出ている箇所は、指だ。

 払い切った右手、その親指以外の四本が根元から見事にバッサリと斬り捨てられていたのだ。そして、そのかつて指の生えていた箇所から、血が出ていると言う訳だ。


「なぜ、オレの指が」


「そりゃああれだけ隙が多いんだ。俺からして見れば、斬ってくれって言ってる様なモノだぜ」


 ガイアが振り返ると、そこには器用に刀を回すセツナがいた。しかし驚くべきことに、その身体は一切汚れてはいないのだ。それは、即ち血飛沫を浴びていないと言うことだ。

 

 一体どれ程の速度でガイアの攻撃を避け、指を斬り落とし、背後へ回ったのだろうか。想像を絶するその刹那の攻だが、唯一分かる事はガイアの指を斬り落としてから血が吹き出る間に既に、その場から離れていたという事だ。


「おい、オレの払いに隙があったのか?」


 ガイアは、血が溢れ出る右手を見つめてセツナに問を投げかけた。


「ああ。俺に当たるって言う位置に到達するまで、かなり遅いよ。だけどもう少し工夫すれば、避け切るのは結構厳しいかな」


 ガイアは信じられなかった。自分で言うのも何だが、ガイアにとって今の一撃は自分が今までに繰り出してきた中で、かなり心地よく、そして速いモノだった。それを「十分遅い」と言われたのだ。

 今の一撃をガイアは、自分が攻撃すると意識する以前に既に形を作っていた。そして、繰り出すと考えた時には既に、視界を横切っていたのだ。

 それはつまり自分の意識を超えた一撃、即ち自分の反応を先行くモノだったと言う事だ。ガイアの限界に達した反応速度で繰り出した一撃を、セツナは「十分遅い」と言い切ったのだ。


 つまりセツナの反応速度は、ガイアの限界を優に超えていると言う事だ。

 しかし、何もこの事実は今理解したことではない。ガイアが、自分の指が斬られてたことに認知が遅れた様に、ガイアが一つの最速の動作を終えるまでに、セツナは幾つもの超速の動作を終えていたのだ。


「成る程なぁ……畜生がッ! 本当に嫌になるぜ」


 だが、何もガイアが負けた訳ではない。速さと反応速度で差が有るのなら、ガイアは【力】で追い越せば良いのだ。


「だが、それだけだぜ。セツナァ!」


 ガイアがそう叫んだと同時に、ガイアの右手に異変が起こり始めた。何と、斬られた指の根本が不気味に膨らみ始めたのだ。そしてそれは、段々と細長い形になっていく。

 異常な光景だが、依然セツナは落ち着いている。だからこそ、セツナはもう既に走り出していた。


 走る最中、セツナはガイアの右手の切断面から何かが突き出て来たのを確認した。ガイアの肌の色と同じで、体液が絡むそれはゆっくりと伸びてあらわになっていく。完全に伸びきったそれは、切断面と形が合わさり結合した。そう、それはセツナの想像通り「指」だった。

 

 ガイアにはどうやら異常な程の再生能力が備わっているらしい。だが、セツナからして見ればそれ位の力が無ければ本当の意味での最強とは言えない。

 だからこそセツナには、嬉しかった。まだ勝ちを確信する段階では無いと分かったのだから。


 そしてガイアに近づくセツナは跳躍した。

 

 相手が再生するとわかった以上、下手に腕や足などの部位を切断した所で、決着には結び付かないだろう。だったら、相手の身体で最も重要な箇所を傷つけていくほうが先だ。


 そしてその判断でセツナは、指の再生に呼吸を乱すガイアの両眼を刀先で薄らと切り裂いた。ヒュンッ、と言う音に続いてまたもやガイアの身体から鮮血が吹き出る。だが、今度はガイアの五感の一つを奪ったのだ。この一撃は大きい。


「グワァァァ!」


 ガイアが思わず声を上げる。その様子を見て、セツナは落下の最中に次の攻撃先を決める。

 次は、足のアキレス腱だ。それを斬れれば、ガイアは動き出せるまでに時間が大きく必要となる。そうなれば、あとはゆっくり心臓でも首でも、殺す方法は沢山あ……。


ーーバダァン!


 突如響き渡る轟音。その発生源は、ガイアの左拳が空を貫いた事によるものだ。そしてその拳の先に居たのは、セツナだった。


 セツナは完全にガイアが反撃してくると言う可能性を捨てていた為、本来なら反応する事の容易い拳も思わず直撃を喰らってしまった。

 そしてそのまま、背後の商業ビルの何処かの階層にガラスを割るほどの威力で強引に押し込まれ、そのまま壁や棚などに全身を打ち付けられてようやくその一撃を喰らい終わった。


「クッソ……まさかあの状態からピンポイントで殴って来んのかよ……結構やるじゃん」


 セツナは、暗がりの商業店の中で近くにあった棚に手をかけて立ち上がる。どうやらこの店は洋服店だった様で、セツナが入ってきた軌跡の周りに沢山の洋服が散っていた。だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

 セツナは軽く跳ねて、全身の様子を確かめる。足も腕も特に破損はない。また装備も特に異変はない様だ。

 だが、あれほどの一撃を喰らってしまった為、全身に多少の痛みは残る。それでも戦闘には支障は無い。例えあったとしてもそれで引き下がれる様な戦いをセツナはしてる訳では無いのだ。


「しっかし、どうやって倒してやろうかな。このまま刀で斬りまくっても、決め手に欠ける。だったらーー殴るか」


 そう言ってセツナは右手で拳を作り、じっと見つめた。その大きさはガイアと比べたらかなり小さいモノだ。だが、そんな事は重々承知だ。今の一撃で分かる通り、ガイアの一撃はどれもこれも下手すれば、即死級の一撃だ。

 それは圧倒的な体格差からもわかるし、ガイア自身の根本の力量から理解できる。単純な力比べでは、勝てる訳がないのだ。

  

 だからこそセツナは、持ち前の素早さと動体視力と手数で勝たなくては行けないのだ。


 そう、この「試練」とはそう言うモノなのだ。世界線の違う相手には、セツナの常識など通用しない。

 ガイアみたいに再生能力を持っていたら斬撃も効かないだろうし、あの天界にいた男の様に謎の力を持っていればまともに戦ったりも出来ないかもしれない。

 

 だが、セツナにだって他の最強達に勝る力は持っているのだ。それが何なのかセツナにはまだ分からない。それでも、セツナは自分の強さを、仲間を信じて戦うのだ。


 セツナは一週間前にもソフィリエルに言われた。自分を強く保てと、貴方は最強なのだと。だから。


「だからさ、負けられないよ、俺は!」


 セツナが、窓から飛び降りる。その先には、巨人ガイアがいる。その指も目も既に元通りだ。だけど、セツナは負けない。負けられないのだ。

 だからこそ、セツナは進むのだ。

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