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並行線上のセツナ  作者: 白旗太郎
第二章 第一の試練【侵略と防衛】
10/16

10.刹那と二人

 セツナがソフィリエルと出会ってから一週間がたった。そう、今日は約束のあの日だ。第一の試練が始まる、即ちこの世界の消滅をかけた戦いが始まるという事だ。

 そんな事を考えるとセツナは、思わず不安になり今直ぐにも逃げ出しそうに……は勿論ならない。むしろ逆だ。遠足の前日に子供が眠れないのと同じように、セツナもまた今日のこの朝日を眺め、戦闘へと身を投じるのが楽しみで、興奮が収まらなかった。


「なあ、お前らは昨日寝れたか?」


 そう言ってセツナは振り返った。その視線の先には、一人の少女と、宙に浮いている一機のドローンが居た。


 少女は、銀色に煌めくポニーテールの髪を後ろに垂らし、全身を漆黒のラバースーツに身を包んでいる。その為、少女の美しいボディラインが現にされている。それだけならば可愛いコスプレ女子なのかと思うが、彼女は勿論のことそんな訳では無い。

 彼女は、その背に大きなスナイパーライフルを担いでいる。さらに右足の太腿には拳銃が、左足の方には鋭いサバイバルナイフが太陽に光に反射されて黒く輝いている。

 

 そして、その左腕には青く輝く腕輪がはめられていた。

 

 その姿は正しく、一流の戦闘員を思わせる見た目をしている。そして尚且つ、彼女は美しいのだ。その美貌とその見た目がなんとも言えない感じにマッチしている。


 そんな美しい少女は、腕を抱えて遠くの空を眺めていた。


 もう一人の、いやもう一機の方は四つのプロペラで宙に浮いている真紅のドローンだ。だが、勿論このドローンも普通のものでは無い。

 ドローンのその中心には、小型の銃口がその先端を光らせている。何とも物騒なドローンなのだろうか。


「あの、俺の声聞こえてるよね?」


 先程の問いに反応しない二人へ、セツナはもう一度声をかけた。すると、吹き込む風になびく銀髪を押さえながら少女が声を出した。


「あ、ごめん。ここ風が強いから聞こえなかったの。で、なんて言ったの」


 彼女は、そう言って軽く微笑んで見せた。その表情は、とても可愛らしい。


「昨日寝れたかどうか。お前ら、気を張り過ぎてないか心配だからさ」


「そうね、いつも通りだったわ。ちょっと規模が大きいだけで仕事前とそんなに気持ちは変わらないもの」


『俺は撮り溜めしたアニメを消化する為にオールしたから、そんなの関係ないね。て事で、気負ってなんか無いぜ』


 少女に続いて、真紅のドローンも喋った。否、実際にはドローンが喋った訳でわない。ドローンの操縦者の声がセツナの頭部に搭載された通信機器と、少女の耳に装着されたイヤホンから流れでただけだ。


「おいおい、シャルはともかくイブル。お前オールって何だよ。寝ろ、そして真剣になれ」


『いいだろ別に。結局俺がやることなんて、ゲームのそれと対して変わらないんだからよ。て事で、セツナとシャルには俺の分まで頑張ってもらうから宜しく』


 セツナが今呼んだ通り、ドローンの操縦者はセツナの相棒のイブルである。彼は今現在、セツナたちの付近のネット環境が完備された場所でこの戦いにドローンを操作して参加しているのだ。 

 

 そして本体である彼の腕には、赤色の腕輪がはめられている。


 そう、セツナの選んだ守護者は、裏社会の頭脳、天才ハッカー【Eーブレイン】通称イブルと、その銀色の髪が特徴スナイパーライフルを装備した【シャル】と呼ばれる少女の二人だ。


「ちょっと。セツナはともかく、私はイブルと協力して頑張んないといけないんだから、しっかりしてよね」


「そうだぜ、イブル。昨日話しただろ。俺は相手の最強と戦う。そして、お前ら二人に守護者の相手をして貰いたいって。その為にも、お前にはこの地で戦況を常に俺ら二人に伝えて貰わなくちゃいけないってよ」


『冗談だよ、冗談。ほら、こうやって気持ちを軽くしないとやだろ。重苦しい雰囲気が』


 セツナとシャルの二人は、ドローンに向かってそう言い放った。対するイブルはドローンに搭載したカメラで二人と会話を行う。両者の間には、ドローンを介する事で生じるラグはあまりなく、電波は良好だ。


「別に、そんなの気にして無いから。むしろある程度の緊張感があった方が、最高のパフォーマンスができるのよ」


 イブルの言い訳も虚しく、シャルに反論されてしまう。だが、イブルは言い返す事はせずセツナもまたどちらをフォローする訳でもなく、シャルも会話を終わらせる。

 

 程よい緊張が彼らの間に漂う。シャル曰くそれくらいが、丁度良いらしい。


『なあ、それよりさ。どうして、こんな場所で集合してんだ、俺たち』


「そりゃあ、いつ奴らが来てもすぐに対応できる為だよ。どうだ、眺めがいいだろ」


 そう言ってセツナは、前に歩み始めた。そして、下を覗く。その先には地面が無く、その代わりに視線の先で豆粒よりも小さい人々が行き交いする様子が窺える。そう、彼らがいる場所は、いわゆる高層ビルの屋上だ。

 時刻は午前7時半を過ぎたくらい。出勤時間には、まだ早いくらいだ。そんな時間だからこそ、彼らはこの屋上で来るべき敵を待ち構えている。


「ええ。こんな高いところ、こっちでは久しぶりだから、ありがたいわ」


 シャルもまた、セツナの隣に歩み寄り下を眺める。その二人の背でイブルの操作するドローンが、静かにホバリングしている。


『なあ試練の敵ってよ、本当に来るのか? 今のところそんな気配全く無いんだけど』


「そうだな。ソフィリエルは、一週間後って言っただけで具体的な場所も時間も全くなかったから。でもまあ、そこら辺は大丈夫じゃ無いか」


 イブルの疑問に対して、セツナは特に確証も無くそう答えた。確証はないが、試練というものだ。流石にセツナ達からかなり離れた場所で現れたりはしないだろう。

 

 だが、それでもこうしてずっとビルの屋上なんかで待っているわけにはいかない。何か異変のひとつくらい起きて欲しいと彼らは思っている。

 しかし今のところは、異変どころか恐ろしいくらいの平常さでやはり何処か嫌になって来る。


「なあ、このままーー」


 セツナが口を紡いだその時だった。それは、突然来た。


 セツナの全身に響いた。セツナが隣を見ると、シャルもまた同じように何かを感じているようで、険しい目で遠くをじっと見つめている。


 それは第六感だとか虫の知らせの様なもので、それこそ何かを感じたとしか言いようが無いものだ。だが、この何かを感じたという事象に関しては、絶対の確信がある。


「セツナ! イブル! 今の」


「ああ、感じたよ。てことは来たんだな、奴らがよ」


『おい、二人とも左を見ろ!』


 そのイブルの声に連れられ、セツナとシャルが左へと視線を向ける。その時、巨大な破壊音が鳴り響き渡った。そして直ぐに多くの悲鳴がセツナたちの耳に入るくらいの音量で聞こえて来た。

 するとセツナ達の視線の先で、セツナ達がいるビルの少し先にあったビルが粉塵を巻き上げ、轟音を上げて倒壊し始めた。


「イブル、俺について来い! シャルはここで見張ってろ」


「分かったわ。敵の見た目と位置がわかったら教えて! それと二人とも気をつけて」


『ああ任せとけ、シャル。お前もきつくなったら、俺らを直ぐに呼べよ』


「じゃあ、頑張ろうな」


 そう言い残して、セツナはビルから飛び降りた。目測でおよそ五十メートル以上はあるであろう高所からの落下。それは即ち、死を意味する。

 だが、その常識はセツナには当てはまらない。セツナはただ落下したのでは無いのだ。落下の最中にセツナは自ら、ビルの壁面に足を触れる。勿論それは弾かれるが、少しばかり落下の威力が弱まる。そしてまた、二度三度と足を壁面にかける。すると次第に、セツナは地面と垂直のその壁の上に触れる時間が長くなる。

 そしてついに、セツナは壁面を走り出した。世界の法則を無視するその行為をいともたやすくセツナは行う。ありえない行為だが、セツナはそれを体現している。それが何よりの可能性を示している。


 しかしこのままではセツナはそのままの勢いで、地面との直撃を迎える。この状況から、どうやって無事に着地するのか想像ができないだろう。

 だが、セツナは別に複雑な工夫をするわけでは無く、ただそのままの勢いで地面まで駆けていく。

 

 そしてーーバリンッというガラスが破られる音が響く。その音と破られた煌めくガラスの破片の中心を颯爽と駆け抜ける一つの影があった。


 それは漆黒の鎧に身を包み、顔の中心を雷が走ったような黄色が光る忍者だ。背に装備した弧を描く刀がその物々しさを語っている。


『ーーセツナ、お前このビルからよく無傷で降りれたな』


「ただビルを思いっきり蹴って、そのまま地面を駆け始めただけだ。慣れれば簡単だよ」


 セツナは自分と並走する真紅のドローンを一瞥し、すぐに視線を前に抜けた。


 そのセツナとドローンの様子を、その場にいた何名かの一般人たちが目撃した。だが、彼らはそれよりももっと驚くべき者がいて、それから逃げる最中だった。

 それは、今もなおこの都市部に設置された大型テレビにより中継されている映像に映されている。


『ただ今、東京渋谷で謎の巨人が暴れています。ビル二棟がその巨人によって倒壊。死傷者多数との報告があります。直ちに安全な場所に避難してください。繰り返します。ただ今、東京渋谷で謎の巨人が暴れています。ビル二棟……ただ今、速報が出されました。巨人と同じく東京渋谷において同じような見た目の小型の生物が人を殺傷している模様です。直ちに安全な場所に避難を』


 そのテレビによって中継している内容が指すものは、明かにセツナ達の試練の相手だ。だが、どうやら彼らはセツナ達の近くで暴れているらしい。


『セツナ、やべえぞ。ニュースを確認したら、相手の姿が出たからすぐ送る。しかし、こいつは手強いんじゃねえか』


 イブルの連絡とともにセツナの視界の隅に数枚の画像が映し出された。そこには、セツナの体格の数倍はあるであろう大型の人物が映されていた。髪も肌も含めて全身が白色で、その肉体は筋骨隆々で何とも力強い見た目をしている。そして何よりその表情は、セツナが今までにあった人物の誰よりも凶暴そうなものだ。

 

 そしてセツナには、その見た目に見覚えがあった。そう、彼もいたのだ。セツナが一週間前に展開という場所に呼ばれた際に、一番の身体の大きい人物だとセツナが一目置いていた者。


 そう、彼もまた何処か別の世界線での最強なのだ。


「そうだな。だけど、楽に勝てないのは他の奴らもそうだが、顔を合わせた時から知ってるよ。まあ、一番最初にコイツに当たれたのは良いことだな」


『それはどうしてだ?』


「それは、俺を含めた十六人の最強の中で見た目だけでいえばアイツが一番単純な力が強そうだから、だ。そんな奴を倒せれば、良い自信がつくだろ? そういうことで、イブル。お前は上に上がって位置関係を調べてくれ」


『なるほどね。それは確かに自信につながるな。んじゃあ、その一番の力とやらに初っ端でやられないようにな』


 そう言い残して、イブルのドローンは上昇してセツナの側を離れた。


 セツナの方は、未だに速度を落とさず逃げようと引き返す人々の合間を縫うように駆けていた。やはり人々はセツナの姿に驚くがその速度が早すぎるため、振り返ったときにはすでに人混みの奥に居て見ることは不可能だった。


 セツナはただ、先程倒壊したビルの方を目的として走っている。その先に奴がいると信じて。


「まずは、最初の一撃目が重要だな」


 セツナは、相手より先に先手を取れることは確信していた。

 それもそのはずで、相手は恐らくこちらがどういう面子なのかを知らないだろう。その為、無闇に暴れてセツナ達をお引き出そうとしているのだ。

 それはつまり相手を知っているセツナと、こちらを知らない相手とはこの時点で大きな差ができている。そしてさらに言えば、こちらにはイブルがいる。イブルから相手の位置の情報を得ればそれだけでまた、大きな差が生まれる。

 そしてこの大きなアドバンテージを駆使すれば、先手を喰らわせることは簡単だ。ただ、相手の死角から攻撃を繰り出せば良いのだから。

 

 だが、このアドバンテージは所詮その一撃だけだ。それを喰らわせた後は、もうそれで同じ土俵に立った敵同士になってしまう。その為にもこの一撃を活かす為に何をするのか、それをセツナは考えていた。


『セツナ、相手の場所がわかった。そのまま真っ直ぐで、正面にあるビルを抜けた先の交差点で暴れてる。近くには、特に気になるもんはない』


「わかった。ありがとな。因みに他の二匹の位置は?」


『ああ、そっちも掴んで先にシャルに伝えといた。コイツらはお前が向かう場所とは正反対の方で暴れてるから、別にこれに関してはお前があのデカブツを倒してからで良いだろ』


「ああ、そうしてくれ。それと、後はシャルの方へ行ってくれ。てことで、そっちは頼んだぞ」


 セツナには聞こえ始めた。相手が暴れる轟音が。それが身に染みてくる。そして視線の直ぐ先には、イブルのいうビルが既にあった。この先に、敵がいる。


『了解。じゃあ頑張れよ』


「ああ」


 イブルと会話が終わると同時に、セツナはビルを迂回した。


 そして、視線が開けた先に奴がいた。

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