ねこみみとダンジョン
「………コロコロ……コロコロ……」
全く同じ個体なのだろうか。
結城はスライムを見つけてネコのように遊び始めたのだがさっきと同じようにスライムは流されるままに転がっていた。
そしてどことなくそのスライムは楽しそうに転がっているように見える。
ミラがダンジョンに向かって一時間。
未だに連絡はない。帰っていいとは言われたが出来るなら一緒がいい。
初めて出来た友達。
いつもならこんな風に待ったこともなかったけどこうして待つのもなんか楽しいと感じながらスライムを転がし続ける。
そんな中ちょっと勢い良く転がしてしまい、さらに坂道だった為にスライムが坂道を転がり始めたのだった。
思わずスライムを追いかけ始めた結城。
そのスピードは簡単にスライムに追い付いたのだがスライムを捕まえようとした瞬間に穴に落ちていったのだった。
「………あっ……」
丁度スライムが入る大きさ。
せっかく楽しくなってきたのにここで止めるなんて……
しかしその穴は結城の体では通るのは難しそうである。
入っても頭ぐらいだろう。
普通ならここで諦める。
頭が入っても肩から下が入らないからだ。
足からでも難しい。胴体をが通っても同じ所で詰まる。
「………ごぅ……!」
しかし結城は諦めない。
ネコが一度遊んでいたものを飽きるまで遊び続けるように。
まだ結城はスライムと遊ぶのを飽きていない。
しかし頭を突っ込んでみるがやはり入るわけがなく突っかかる。
同じように足から入っても胴で突っかかる。
「………むぅ………」
頬を膨らめてちょっと不機嫌な結城。
これをミラが見たら発狂ものだっただろう。
しかし結城は諦めない。
何度も何度も、頭から足から、時には掘ってみたりして、どうにかして通ろうとする。
すると音と共に結城の目の前に画面が現れた。スキルだ。
サイドスキル『通り抜け』
ネコが隙間に頭を通せば通り抜けるようにその隙間を使用者が通れるように補正が働く。なお、頭・足首・手首が通らなければ効果がない。
それはまさにいま結城が欲しかったスキル。
さっそく頭から穴に入ってみると肩の部分から穴が広がっていく。
しかし結城の体ギリギリしか広がらない為に窮屈ではあるが根っからのネコ好きな結城。むしろ狭いところは好きな為に全く問題はなかった。
「………ごぅ……!」
もう一度気合いを入れ直して穴の中を進んでいく。
…………………………
「ふぅ。大分時間が経ったわね」
モンスターを倒し一息つくミラ。
いまはダンジョンの五階層。一層毎に強くなるモンスターにミラはそろそろボスモンスターが現れるだろうとここでレベルアップしていた。
ここにはアリのようなモンスターが多く、それも一匹ではなく複数で襲いかかってくる。スピードはそれほど速くはないが団体による囲みやその強靭な顎に捕まれば簡単にHPは0になるだろう。
うまく攻撃を交わして時には捨て身で挑んだりなどしながらもレベルを上げていき15まで上がったのだが
「これで倒せるかどうか……やってみないと分からないかな~」
目の前にはいかにもボス部屋と言わんばかりのゴツい扉。
扉の片面を押すと自動的に扉は開いた。
ゆっくり進むとそこには……
「うわぁ……これは…ヤバイかも……」
目の前には大きな塊が。
ドームのような形をしており、というか完全にドームと同じぐらいの大きさである。
そこまで広いダンジョンのボス部屋。
そしてそこにいるドームのようなモンスターとは、キングキングスライム。
ただのキングスライムならこの半分であるが、それを上回る大きさのスライムがこのキングキングスライムである。
と、いってもこのスライムも温厚で仕掛けなければなにもしないモンスター。
しかしボス部屋である以上、入ってきた扉は閉まり脱出するにはモンスターを倒すしか方法がない。
かといってキングキングスライムに戦いを挑んでも勝てるわけがない。
ミラのレベルが30人いてもギリギリ。それにキングスライムから一定の攻撃力以上ではないかぎり跳ね返すという体質を持っている。
その攻撃力さえもミラは届いてはいない。つまりは詰みである。
出来ることといえばキングキングスライムに攻撃をして、向こうからのやり返しによる攻撃で死亡。つまり街への強制送還しけ脱出出来ないのだ。
長居しても仕方ない。と諦めたミラは短剣を抜いて攻撃をしようと決めた時
……コロコロ……コロコロ……
「うん?」
ボス部屋に響く音。
何が転がり近づいてくる音。
それは転がる音だけではなく何が"駆けている"音も聞こえるのだ。
そしてその音はこの部屋の上部からすると気づいたミラは辺りを見渡してみると丁度キングキングスライムの上に横穴らしきものが見えた。
おそらくこの部屋の通気孔のようなものだろう。
するとそこから飛び出してきたのは
「ス、スライム??」
どういうわけかスライムが横穴から飛び出してきてキングキングスライムの上部へと落ちていった。お互い柔らかな体質なのでダメージもなくスライムはミラの近くに落ちてきた。
そしてそのタイミングでもう一つの音。駆けるような音がドンドン近づき何故かその横穴は少し広がって何かが飛び出してきた。
「ユ、ユ、ユウッッ!!!??」
今度は本当に驚いた。
ダンジョンの外で待っていたはずの結城がスライムと一緒に横穴から飛び出してきたのだ。それもこのダンジョンのボス部屋に。
さっきのスライムと一緒のようにキングキングスライムの上部へ落ちて跳ね返った結城はクルクルと回りながらミラの方へ飛んでくる。
すぐさまキャッチしようと手を伸ばしたが、まるでネコのようにクルクル回りながらも地面につくその前に姿勢を正して見事に着地したのだった。
「………10点………」
「ユウウウウウウウゥゥゥゥッッ!!!!」
何処かの選手のように見事に着地姿勢を決めた結城にミラが飛び付く。
これには流石に避けられなかった結城はミラに押し倒されてしまった。
そしてそのまま結城の胸元でその顔を押し当てながら
「私に会いに来てくれたのねッ!!大好きッ!!!!」
「………なんで、いるの……??」
「ここがダンジョンで、私がミラだから!!!」
「………なるほど………??」
本人でも分からないことをなんとなく納得した結城。
というよりまぁ、いっか。という感じである。
「でもどうしてユウがここに?」
そこはキチンと聞いてきたミラ。自己完結はしないのである。
すると結城は始めに落ちてきたスライムを指差して
「………コロコロ……してた……
……でも、穴に……落ちたから……追いかけたら………ミラが、いた………」
「はあぁ~~。それ見たかったわ~」
本気で悔しがるミラにどうしたの?と首を傾げる結城に大丈夫よ!!とすぐに元気になる。
するとさっき一緒に落ちてきたスライムがキングキングスライムの元へと向かっていっていた。そして足元?に近づくとまるで甘えているかのように体を擦り付ける。
「………親子……??」
「そうかもね。……だとしたらいつかこんなに大きくなるのかしら……」
「………かっこ、いい……!」
「キラキラしてるユウは可愛いわッ!!」