ねこみみとミラ
「……ふぅ。……満足……」
それから一時間以上はいただろう。
その場から一歳離れずに自分の"ネコ"を凝視して堪能していた結城。
周りはその姿に声をかけようかと待っていた人もいたがいつまで経っても終わらないために一人一人と離れていき気づいたらその場所には結城しかいなかった。
いや、少し離れたところで腰かけて待っていた者がいた。
「ずいぶんとお楽しみだったみたいね」
「………だれ?」
赤を基調とした服で、膝下まであるスカートにトップスは燃える炎をイメージさせるデザイン。髪の色も同じように赤であり、それでも表情はずいぶんと好意が持てるような明るいもの。
現にニコニコしながらずっと結城を見ていたこの女の子は
「私はミラ。よろしく」
「……ユウ……」
「よろしくねユウ」
「……………」
会話を得意としない結城にとってこれ以上何を話したらいいか分からなかった。昨日のように昔から知り合いのおじさんには話したり出来るが初対面の人にどう接すればいいか分からない。
するとそれを汲み取ったのかミラから
「もしかして、話すの苦手??」
「………」(コクリ)
「かなりの人見知りだったり??」
「………」(コクリ)
「それでもこのゲームをするんだからよっぽどゲームが好きなのね」
「………?」
「あれ?違うの?」
向こうから話しかけてくれるからどうにか会話??らしきものにはなってるが、どうしてゲーム好きになったのか分からなかった。
でもここにいる経緯をどう伝えればいいのか……と悩んだ結城はスエットのポケットから果物ナイフのようなものを取り出して地面に何かを書き始めた。
「あっ。絵で教えてくれるのね。
……というか、もしかしてそれが武器なの……」
コクリと頷くと「うわぁー……」と声が聞こえてきたが気にしないことにした。別にモンスターを倒したりとか人と戦いたいとか考えてなかった。これはあくまでも護身用。もしもの時はネコのように引っ掻けばいい。
そして絵もあっという間に書き終わり「…ふぅ…」と息を吐いた。
「スゴッ!?短い時間でこんなに上手く…それも分かりやすい……」
まるで漫画家が描いたようなその説明は昨日の起きたことを表したものだった。そして結城はそのミラの反応を予知していたかのようにそこについても絵に描いていた。
「………なるほど。昔から会話が苦手だから絵にしたのね。言葉だけだと表現が難しいから絵に……にしても、これはもうプロよ……」
そうなの?と首を横にする結城に対してミラが頬を紅くして胸を抑え始めた。
「くっ!…これが天然のものか……」
なんのことかさっぱりだが伝えたかったことは伝わったようで
「それなら私とパーティー組まない?
私もどちらかというとのんびりとダンジョン探索とか街を散策するのが好きなの。それに好きなときに離脱してもいいし無理して付き合う必要もない。ただ一人より二人のほうがいいときがあるからその時の為にって感じかな?どう??」
「……………」
確かに。このゲームは始めたばかりでこのネコ姿に満足してしまったけど、他にもこんな風に可愛いネコがいるかもしれない。
それにこの姿以外のネコもあるなら……と考えた結城は
「………よろしく……」
「本当に!?もう取り消し効かないよ!」
「………ネコ、と、のんびりは……好き………」
「やったぁー!!よろしくねユウッ!!!!」
抱きつこうとしたミラだがピクッと反応したねこみみ。
結城は本能的というか野性的というか、本当に野良猫のようにサッと避けた。
突然避けられたことに驚くミラだがまだニコニコ笑顔。
対して結城はどうして"突撃"してきたのかと疑問していた。
ミラはまだ諦めていなかったようでジリジリと結城に詰め寄る。
「ユウッ!!よろしくッ!!!!」
もう一度飛び付こうとしたミラだが今度は身軽さを生かしてミラの上空を飛び越えて避けて見せた。
どうして何度も"突撃"してくるのかと警戒心が生まれてきた結城に対して、ミラは肩を震えさせて
「……か、可愛いだから、抱きつかせてよッ!!!!」
「ッ!!?」
謎の逆ギレに驚く結城。
なぜ、抱きつかせなければならないのか……
………でも、確かにいまの姿は、このネコは…いい。
ということは、ミラも同じネコ好き?
「………ネコ、好き?」
「も、もちろんよ!
よくネコ喫茶に行くんだから!」
「………ネコ、喫茶ぁ!!」
「お、おぉっ。本当にネコ好きなのね……
そうそう、だからネコである貴女を抱きしめたくなるの。分かる?」
それはよく分かる。
家に帰るとまずランを抱きしめる。だって可愛いから。
そしてふわふわの毛を堪能して遊んで一緒に寝て………最高ッ!!
ということはミラもそれを私に感じたということなら……
結城はゆっくりと両手を上げて
「………どうぞ……」
「やった!」
ガバッと抱きついてきたミラはとても幸せそう表情をしたとか。
そして結城が「ネコってこんな感じなんだ……」と思い、ミラの抱きしめに悪くないと感じていた。
…………………………
「………じゃ、帰る……」
「えっ?街見ていかないの?」
結城を堪能したミラは結城の発言にビックリした。
だって今日はゲーム初日。やっと出来るゲームにこんなに淡白で終わるなんて……
「………ネコ、満足……」
「本当にネコ以外頭にないんだ……」
改めて結城の変わりぶりに驚くミラ。
せっかく"友達"になれたんだから少しぐらい町を歩きたいと思ったけど、人見知りで会話が苦手なら無理やりするのは良くないかも。と思い
「分かった。じゃ"フレンド登録"だけでもいい?」
「…………なに、それ……??」
「知らないかぁ~仲良くなった者通しが直でメールのやり取りが出来るの。ほら、ゲームを起動する時はスマートフォンとリンクさせたでしょう。ここでフレンド登録すると直接メールアドレスや電話番号が分かるの。もちろん本人の同意がないと現実世界のほうは分からないし、"友達"とか"信用"出来る人以外には渡さないほうがいいわ。悪用される恐れもあるからね。つまりはフレンド登録すればゲーム内だけでも連絡が取れるの」
フレンド登録。
それを聞いた結城はさっそくゲーム内の連絡先と現実世界での連絡先をミラに渡した。
「えっ。いいの?現実世界のほうも……
まだ会ってお互い知らないのに……」
「………いい……」
「………悪用されるって、思わないの??
もちろんそんなことはしないけど……」
「………いい……」
「でも……」
戸惑うミラに結城はまた絵を描いて教えようと考えたが、ミラが言っていたことを思い出して頑張ってみることにした。
「……"友達"……」
「えっ?」
「……友達なら……いい……信頼……出来る……
…………それに……初めて…だから………ミラが……いい……」
頑張って伝えようとしたがこれ以上は無理だった。
しかしそれだけでもミラには伝わったようで
「………それって、私が友達、第1号?」
「……」(コクリ)
「私、ユウの友達でいいの?」
「……」(コクリ、コクリ)
「ッ!!!!………ユウッ!!!!」
なんだこの生物はッ!!!??
と、もうたまらず抱き締めたくなったミラは結城に向かって飛び込んだ。
さっきのように避けなかった結城はミラの突撃に押し倒されて寝転んだ状態でミラに抱きつかれてしまった。
「もう!!可愛いッ!!!!なにこの可愛い生き物はッ!!!!」
「……ねこみみ、ユウ………」
「きゃああああぁぁぁッ!!!!もう大好きッ!!!!」
こうして、ゲーム初日。
初めて友達が出来た結城。その子は自分と同じネコ好き。
そして可愛いものに目がない、変わった友達だった。