ねこみみと始まりの町
「……これが…ゲームの中……」
転送されて先は1つの町の中。
結城の周りでは同じように転送されたものがこのゲームの世界に感動していた。
しかし結城は違う。
真っ先に噴水を見つけた結城はそこに向かって走り水面に向かって覗きこむ。
するとそこにはさっき見ていた自分の姿が、"ねこみみ"姿の自分が写っていた。
「………いい…。……とても……いい………」
ねこみみをピコピコと動かしたりして自分のねこみみを堪能する。こんなに可愛いものが手に入るなんてと感動していると
「おっ。なんだなんだ!!
こんなところに"ネコ娘"がいるぞ」
結城を見た1人の男がそういい放つと周りの者達も結城に視線を向けた。
そんな声さえも届かない結城。未だに自分のねこみみを堪能している。
「可愛いな。なぁ俺達とパーティー組まねえか?」
ナンパである。
ゲームの世界にきていきなりナンパとは、と思うがここでは初めが肝心なのだ。
パーティーとソロでは圧倒的にパーティーが有利。
そしてそのパーティーはこの瞬間からいかに人とコミュニケーションをとってパーティーに引き入れるか。
その手段としてナンパもちゃんとした勧誘とも取れる。
しかし、
「……………ねこ……。……ねこ……」
ガン無視である。
結城の中では自分がネコになったことが何よりも嬉しかった。
現実ではそんなことすれば親に怒られる。
それでもランと遊ぶだけでもとても楽しかった。
しかしこのゲームだと自分がなりたかったネコになれた。
それだけでこのゲームをやって良かったと心の底から思った。
「て、テメェ……ッ!」
しかし話しかけた男は激怒していた。
まさかこんなにも無視をされるとは思わなかったのだ。
そして"ネコ娘"というワードで誰もが結城達を見ており、男が無視されていた様子をみてクスクスと笑いが起きていたのだ。
それにより男は恥をかいたせいか、怒りによるものなのか、顔を真っ赤にして
「無視してるんじゃねええぇッ!!」
結城に掴みかかろうとするが、その瞬間"ねこみみ"がピクッと動いた。
すると死角からだというのにまるで見えているかのようにフッと立ち上がって横へと避けたのだ。
あまりの行動に男は掴みかかろうとした勢いを殺せずにそのまま噴水へ突っ込んだ。
「……え。………なに……??」
で、結城本人は何が起きたのか理解しておらず突然噴水へ突っ込んだ男を見て驚いていた。
それを見ていたギャラリーはクスクスと笑い、噴水に突っ込んだ男はそれを見て更に怒り
「て、テメェッ!!!!」
逆上し結城に攻撃をしようと拳を奮った。
しかしまたもやねこみみがピクッと動くとバックステップで攻撃をかわした。
しかし男も一度の攻撃で終わるわけもなく続けて二度三度と攻撃を仕掛ける。だが悉くその攻撃は先読みされているかのように避けられていく。
「ちょこまかとッ!!」
男も攻撃のスピードをあげるがそれでも結城を捕らえられない。
抜群の勘の良さもあるがスピードも早くギリギリで攻撃を避けるため最小限の動きだけで男の攻撃を往なしている。
するとそんな二人のやり合いを見ていたものが声をかけてきた。
「そこまでにしませんか?」
「あぁ?なんだテメェはッ!!」
「??」
その声に男の攻撃は止まり二人ともその声の主の方を見る。
そこには着物を着たいかにも"大和撫子"のような黒髪ロングの女の子がいた。
腰には二本の刀を持っており剣士だと思われる。
「先ほどから拝見してましたが明らかに男性のほうに非があると思われます。ここは怒りを抑えてお止めになったほうが…」
「ふざけんなッ!!ここまでコケにされて黙ってられるかッ!!」
「…もう一度だけ言います。
ここは怒りを抑えてお止めになってください。ゲームは始まったばかりです。いかに貴方が他のゲームをやり好成績を残したか分かりませんがここでは誰もが初心者。高圧的な態度はお止めになったほうがよろしいですよ?」
「このクソアマが!!
言いたいこと言いやがってッ!!!!あぁ、そうだよ。俺は他のゲームじゃ名の知れたゲーマーだ!!!その俺に対してあの態度は許さねえ!!!直々に俺が分からせてやるよッ!!!!」
そういって女剣士の言葉に耳を傾けずに結城を殴りかかった。
しかし今度は結城のねこみみが動かない。そのためか結城自身も避けようとはしなかった。
そう。避ける必要がなかったのだ。
結城と男の拳の間に障壁のようなものが発生し攻撃を止めたのだ。
そしてその障壁には、男に対してこのように表示された。
『強制退場』
そしてその文字が一気に障壁全体に広がりそのまま男の体にもその文字が伝染したのだ。
「なっ!!なんだこれはッ!!!??」
「いったはずですよ。お止めになったほうがいいと」
「テメェがしたのかッ!!!??」
「どこまでいっても反省の色がないのですね。仕方ありません」
そういって袖の下から取り出した鈴を鳴らすとまるで忍者のようにその女の子の周りに同じ着物を着た女性が複数現れた。
「こちらです」
「どうも。
それではゲーム開始直後にこんなことが起きてとても残念ですが、ゲームの取り扱い説明書にも書いていた通り"楽しく"ゲームを出来ないものに対しては強制退場を執行し二度とこのゲームにログイン出来ないように致します」
現れた女性から受け取った紙を男に見せつける。
そこにはその男の"個人情報"がびっしりと書かれてある。
「なっ!!?ま、マナー違反だぞテメェ!!!!」
「それを貴方がいいますか。
それに"ゲーム運営側に立つ私に"そんなものはございません。
運営は皆さんと共にいます。何かを起こしたときにはすぐに駆けつけますと書いてました」
「ま、まさか……」
「今頃ですか?
私、運営管理人"アマツカ"といいます。それではゲーム名"英雄"さん。
ここでは英雄になれなかったことを悔やんでここから去ってください」
「や、止めてくれッ!!!!
もうしないから!!!コイツにも!お前らにも!態度を改めるからッ!!!!」
「それでは、お疲れ様でした」
最後まで文句と罵倒を繰り返しながら反省せずにゲームから強制退場させられた英雄。見届けた女剣士は隣に仕える女性に
「他のゲームにも通達を。
同じようなことをすれば即、強制退場をしてもらうように」
「了解いたしました」
また忍者のように消えた女性達。
残された女剣士はゆっくりと結城に近づき
「お怪我は…ないようですね」
「……問題ない……」
「改めまして。運営管理人の"アマツカ"といいます」
「………ユウ……」
「ユウさんですね。
とても素晴らしい回避能力ですね。これからも頑張ってください」
「うん」
それでは。と頭を下げて去っていったアマツカ。
残されたギャラリー達は強制退場された英雄について話していた。
そしてその英雄から攻撃を避け続けていた結城に対しても。
それでもそんな話は一時のもの。
すぐに町外れに向かいモンスターと戦いにむかったり、パーティーを増やすために他の者に話しかけたりなど各々の行動を取り始めた。
結城はというと噴水から近くのお店の硝子に移動して未だに自分の姿を見ていた。
それは周りからみれば"ナルシスト"と呼ばれる行動なのだが、結城のその容姿は"小柄で、童顔で、黒髪で、短髪で、全身が黒くて、ねこみみで"と揃いに揃っている"ネコ要素"のため。
((((………あれは、見たくなる。そして可愛いッ!!!!))))
と、誰もが結城を姿を二度三度と見ながらそう心から思った。
あの可愛さは本人でも見たくなるほど"ネコ"だと!