ねこみみと特典スキル
私は昔からま"押し"に弱い。
最近発売された"VRMMO"で"paradise"というゲームを買ってしまった。
高校の帰り道"いつも通り一人で帰っていた"私に昔からある小さなゲームショップの店主が話しかけてきたのだ。
「あれ?結城ちゃん今日は1人かい?」
「……いじわる……」
「ごめん!ごめん!!
昔から人見知りで話しかけられない質だったもんね」
そうハッキリ言われるとちょっと悲しい。
私だって頑張っている!…つもりだ……
でも人見知りで話しかけられない質なのに、どうしてか皆が私を避けているような気がする。
ちょっと離れた所から私のことをひそひそと話しているのも聞いたことがある。
イジメ…ではないとは思う。
イジメの定義がハッキリ分からないけど私自身ツラいことはない。
一人でいるのは慣れている。だから問題ない。
「お詫びってわけじゃないけどコイツ買わないかい?」
「………ヘルメット?」
「結城ちゃん、VRMMOを知らないのかい?
もうずっと前から売られているゲームだよ!?」
そう言われてもそういうのには興味がなかった。
家では本を読んだり勉強したりして、息抜きにネコの"ラン"と遊んだりする。
テレビは情報番組しか見てないし、ましてやゲームなんて……
「箱入り娘だと思っていたけど…想像以上だね~」
「………違うもん……」
「ごめん!ごめん!!そうむくれないで!
実はこの店、新しく漫画喫茶にしようと思ってね」
「……ゲーム、売らないの?」
「いまじゃ通信販売が支流だからね。
こんな田舎じゃ尚更ゲームを売るのは厳しいんだよ。
その点漫画喫茶は利用客が多いらしいくてね。
そこでいまお店にあるゲーム機とかを格安で売ってるんだよ」
つまりその在庫処分に一肌脱げということらしい。
完全な押し売りである。いま、押し売りってダメなんじゃなかった?
「……おじさんには悪いけど、ゲーム、しないし……」
「じゃ、貰ってくれないか?お代はいいよ!」
「えっ。……でも、それだと赤字じゃ……」
「いいの。いいの。
漫画喫茶で黒字にするから!それに結城ちゃんの高校デビューのお祝い、まだだったしね。これはおじちゃんからのプレゼントだ!」
そういっておじさんはVRMMOの機器と"paradise"と書かれた薄いプラスチックの容器を渡した。
「………なにこれ?」
「本当になにも知らないんだね。その中身をVRMMOの機器につけたらゲームが出来るんだよ!詳しいことは説明書に書いてあるから読んでごらん。」
「……じゃ。貰います。…ありがとうございます……」
「いいよ!いいよ!漫画喫茶が出来たら来てね~!」
こうして私、桝田 結城はVRMMOとparadiseというゲームを手に入れた。
そしてこれが私の人生を大きく変えるなんて、夢にも思わなかった。
と、言ってもたかがゲーム。私の"ゲーム人生"を大きく変えただけ。
それでも現実でも少しずつ、少しずつ、変わっていったと思う。
そんな私の人生のお話。ありきたりな小説のようなお話。
…………………………
真っ白な空間に一人立っている。
そうだ。私はいまVRMMOでparadiseというゲームをしているんだ。
家に帰って宿題をして、ご飯食べて、お風呂に入って、そしてゲームの説明書を読んだ。
"VRMMO"。仮想空間。
そんな仮想空間の中で、現実そっくりなリアル体験が出来る機械。
そしてその仮想空間では"あり得ない"ことが"あり得る"世界。
説明書を読んだけど具体的というか、どんなものかハッキリと分からない。
こういうのは経験しないと分からないだろうと思ってログインしたことを思い出した。
周りを見渡しても何もなくあれ?と思っていると目の前に画面が現れた。
『ようこそ"paradise"へ!
まずは初期設定をしてもらうよ』
それから時間をかけて初期設定をしていった。
名前は"ユウ"。名前をそのままじゃダメだという。あくまでも"ニックネーム"をつけないといけないらしい。
このゲームでは"アバター"という私そっくりな人形??模型??みたいなものが私の意思で動くみたい。いうならば"分身"みたいなもの。
そしてこれが一番時間を使った。ステータスのポイント割り振り。
攻撃力、防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、スピード、知力、運、耐性。
これを上手く割り振らないと自分が思った通りのアバターが出来ない。
どういう世界なのか分からないし、ゲームだけど"痛み"はあるみたい。
もちろん味覚もあるみたいだし、普段の行動が反映されるみたいなことも書いてあった。
何をどうしたらいいのか?
悩んだ挙げ句、"スピード"と"知力"と"運"に大きく割り当てた。
特に"運"には多めに。"運"が良ければ大抵のことはどうにかなりそう。
"スピード"は昔、運動が好きだったから動き回りたいという欲求が出てきた。
最近じゃ運動することもなくなり体育の授業では平均値より下だった。
ゲームくらい素早くなってもいいかなーという感じである。
"知力"は………なんとなく。
具体的に"知力"って何に使うかわからなかった。
だからか、興味があったので多く割り振ってみた。
『それでは初回特典と初日特典に入ります』
初回特典??初日特典??
えっ。このゲームって今日から始まるの?
おじさん、そんなこと一言もいってなかったよね。
てっきり古いタイプの物を貰ったと思ったら最新のゲームって…
……明日、おじさんにお金を持っていこう。お年玉、まだあったはず。
『初回特典は好きなコスチュームを選べます。
ただし、他者と被らないようにするために一点物となりますのでお早めに』
コスチュームか。
好きなコスチュームと言われても何がいいとか分からない。
そうしていく間に続々とコスチュームが"売り切れ"となっていく。
別に何だってよかった。適当に画面をスクロールさせていくと。
「……これでいいや……」
そこには"スエット"が表示されていた。
まずゲームの世界で現実的な服を、それも"スエット"を選ぶ人はまずいない。
スエットの色は…"黒"にした。
普段から着ているスエットも黒。デザインはこっちの方がカッコいい感じはするけどスエットはスエットである。
『次は初日特典!
このガチャガチャには沢山のスキルがあります。一回無料。
引いたスキルは破壊不可、取外不可、強奪不可となってます。
中にはレアスキルや、唯一のスキル"オリジナルスキル"もあります』
ガチャガチャ。
昔よくやっていたなーと思い出しながらレバーを回した。
ガチャガチャと音を立てて出口から出てきたカプセルを手に取り蓋を開けると
オリジナルスキル『動物』
と、画面が出てきた。
オリジナルスキル?……あぁ、レアスキルよりもいいスキルかぁ。
もしかしてもう"運"が働いたのかな?
そのオリジナルスキルの内容を確認してみると
・オリジナルスキル『動物』
『様々な生き物の特性を使うことが出来る。
なお、使用者には必ず"ねこみみ"がつくようになっている』
??………ねこみみ?
どういうことなのか分からずステータス画面の"装備品"を見てみた。
そこは武器や防具を取り付けたり、その物をどんな風に装備しているか鏡のように確認出来る。
それを見てみるとコスチュームは真っ黒なスエット。
そして頭には………ねこみみが、付いていた。
「………………」
それを見た結城は言葉を無くした。
その姿はまるで"ネコ"そのもの。
完全にコスプレしているみたいにしか見えない。
「……………いい………」
しかし、結城は気に入った。
ネコ好きである結城にとってこれはいわばご褒美みたいなもの。
ここまでハッキリと"ネコ"に見えるなんて……と自分の姿を見ていると
『それではゲームを開始します。皆さん頑張って下さい』
足元に魔方陣が現れて結城の体は電子に分解されていく。
いよいよ始まるゲーム。しかしそれよりも結城は
「………ネコ……いい……」
未だに自分のネコ姿に喜んでいたのだった。