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結局あの日、シェイラがジークヴァルトといられた時間は2時間ほどだった。
先日狙われたばかりの王太弟殿下が取れる行動はほとんどなく、いや、マティアス侯爵邸に1人でやってきただけでも十分に驚きだったのだが、大丈夫なのですかと問えば、うんざりとした表情にぶつかった。
さすがに、好きな子に結婚して欲しいと言いに行くのに護衛を連れてなんてありえないじゃないか。
しかもその護衛が貴方の兄だなんて冗談じゃない。
本当にヴィリーがこっちに戻っていてよかったよ。あいつ、本当にどんな嗅覚なのか、私のお忍びを目敏く見つけるんだ。
肩を竦めため息をつくのについ、シェイラは吹き出してしまう。
少し大げさな反応かもしれないが、そうでもしないと泣いてしまいそうだと思った。
ジークヴァルトは今夜、シレジアへと向かう。
今までだってそうなのだったのだが、それでも遠く離れてしまうことはやはり辛い。
諦めなくてもいいのだと思えば、さらに欲が出てくる。
もっと剣の練習をしておけばよかった。ライドゥルとの関係が悪化すれば、シェイラの仕事が増えることになる。が、軍属出来るくらいに能力があれば自分もシレジアい行けたのにとか、ヴィリー兄様がうらやましいとか、本気でそんなことを考え出してしまうほどに、離れがたい。
せめて、一緒にいられるこの時間だけは1秒たりとも離れたくないと腕にしがみつくと、髪を撫でてくれていた手が止まり、覗き込まれる。
話したいことがたくさんあるようで、それらはどうでもいいことのように思えて、何を話せばいいか分からない。
でも何か言わなければ泣きそうだと途方に暮れていると、シェイラと名を呼ばれた。
情けないほどに肩が震えた。
もう時間があまりないのだと知った。
「シェイラ、私の石を出してくれないか」
告げられ、シェイラの胸がどくりとなった。
昨日、勝手に使ってしまったことをまだ謝っていないと慌てると、そうではないよと苦笑したジークヴァルトは、いや、嫌と言えば嫌だったというか、と言葉を濁す。
「殿下?」
「売られたケンカは買っておかないと」
他でも貴方のことだからと苦笑され、首を傾げる。
いいからいいからと促され、なんだかんだでこれまでと同じように小袋にしまいこんでいたジークヴァルトの守り石を渡す。今までとの違いはチェーンだろうか。今までは皮紐をつけていたのだが、昨日お茶会で身に着けるのにアーデルベルトから使えと白金のチェーンを渡された。
「貴方にはもっと細い方が合うと思うんだ」
シェイラがおずおずと守り石を出すと、ジークヴァルトはアーデルベルトが用意したチェーンを抜き取り、自分が用意してきたものと付け替える。
これは独占欲だ。
アーデルベルトに知られれば笑われると思ったが、それがなんだと開き直る。
お前が手放すのならこの石は据え変えよう。
そうしたところで誰も気づきはしないだろう。
昨日までは、望むことを躊躇っていたというのに、一度望むと決めてしまえば、際限はなかった。
自分は、彼女のことに関しては随分と心が狭い。
チェーンを付け替え、うなじをかき揚げ留め金を止めてやると、シェイラはチェーンに手をやった後、石の上に指先を添わせほっとしたように微笑んだ。
「引き続きお預かりしていてもよろしいでしょうか」
「あぁ、もちろん。貴方が預かってくれていた方が安心できる」
「ありがとうございます」
「私も、預かったままでいいかな」
「あ、」
ジークヴァルトの守り石がシェイラの元にあるように、シェイラの守り石、彼女の守り石は耳飾りだからその片方はジークヴァルトの左耳にある。気づかれることのないようにとシェイラが小袋にいれ胸の内にしまいこんだように、ジークヴァルトは長い髪を左側で結えることにより隠した。
見えるようにかき上げると、はいとシェイラはうなずく。
「ご武運を」
「うん」
「どうか、勝って、我が国をお守りくださいませ」
「シェイラ」
次期王ならば、勝たねばならない。
次期王妃ならば、それを願わねばならない。
それを告げて後、シェイラはくしゃりと表情を崩す。
腕を伸ばしたシェイラはジークヴァルトの左の、耳飾りへと触れ。
そこに、くちづけを落とす。
「どうかご無事に帰っていらしてください」
そこに、真摯な祈りを乗せた。
最初はソフィアさんとヴィリー兄上の話を書きたかったんですが、兄上はそのあたり疎いようでまったく話がまとまりませんでした(涙)
もう1話断章の予定です。
エルンスト殿下の話で、それで、5章ラストにつながるはず。




