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王の鈴(旧)  作者: うず
断章 思惑
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エルンストの廃嫡を告げ、学術院の卒業パーティーを中断させた後、王宮へと戻ったアーデルベルトは、5年前と同じ、円卓会議に議題を託した。

1つは、エルンストの廃嫡を。

1つは、代わってジークヴァルトを王太弟を。

そして、もう1つ。

これ程の失態を犯した自身の子の身分の保証を。

円卓を構成するメンバーの半分ほどが卒業パーティーの来賓だったこともあり、当日の召集であるにもかかわらず、全員が顔を揃えた。

メンバーもまた、5年前と変わらない。

が、少しばかり異なることがある。議決の権利は持たないものの、王太后であるカテリーナが参加しているのだ。

円卓は、宰相であるマティアス侯爵フェルディナンドの議事のもと進められた。

前の2つの議題は全員の賛同の下、つつがなく決定が下された。

さもありなん、貴族の子女が勢揃いの場所で、こともあろうに婚約者を貶め、婚約破棄を叫んだのだ。

代わって婚約者だと出してきたのがよりにもよってカラフェの娘で、王妃がティトゥーリアの青を下賜していたなど話にならない。

エルンストが王太子の座から降りることが宣言されるのを聞きながら、アーデルベルトは円卓の背後にいるカテリーナへと視線を向ける。

後宮を代表し、失態を詫びるためにこの場を訪れた彼女は、いつもよりもずっと地味なドレスを纏い、装飾品も長い髪をまとめる髪飾りのみという出で立ちである。

前2代の王が短命だったこと、およびリッカ本家の出身ということから、3代前の王妃でありながら今なお後宮の女主人である彼女は、発言の許可を求め立ち上がる。

継妃という立場からアーデルベルトの同年代でありながら王太后をいただく彼女は、変わらず美しい。歳を重ね、立場がさらに磨いたのだろう、国の重鎮の中に在ってなお威厳を失うことなく、皆の視線を集めずにはいられない。

「陛下、そして皆様方、この度は王妃マルグリッドの失態をお詫び申し上げます」

硬い口調で告げ、深く深く頭を下げる。マルグリッドの失態というのは、1つはこともあろうにカラフェの娘にティトゥーリアの青を下賜し、その名を貶めたことにある。もちろんそこにはマルグリッドがエルンストの母であることも含まれている。

「王太后様、顔を上げください」

なかなか顔を上げないカテリーナに起こる騒めきを引き取り、フェルディナントもまた、頭を下げる。

「エルンスト殿下の件は、当家の不始末でもあります。我が娘が殿下の婚約者としての務めを十分に果たせず、申し訳ございません」

「いいえ、ヴィリー殿とシェイラ嬢には、若くして過分の役目を負わせてしまい、申し訳なく思っているのです」

2人は大丈夫ですか、と気遣わしげに問うカテリーナに、もったいないお言葉でございますとフェルディナントが再び頭を下げる。王太后と宰相、の芝居がかったようにも見えるやり取りにアーデルベルトの視線はつい、厳しいものとなる。無意識にカテリーナの父でもあるリッカ公爵ギュンターを見れば、閉じた双眸にぶつかる。

アーデルベルトは戦争に勝利した強い王にして、民衆にとっては善政を敷くよい王だった。が、母の出自故か、貴族間のこうしたやり取りに弱い。

続いてすました表情のユーリエ公爵を見、この短い時間をして彼らが何らかの合意を成していることに気づく。

何の、合意だ。

誰もが感情を読み取らせない様子にため息を吐き、誰が言葉を発するのだろうかと見守るしかない。

「陛下、私より1つ、確認したいことがございます」

口火を切ったのはギュンターだった。

開けた双眸は厳しいもので、アーデルベルトは息を呑む。

「たった今、廃嫡されましたエルンスト殿下ですが、陛下はどのようにされるおつもりですか」

「ギュンター」

「王太后様の実家として我々にも非があることは重々承知しておりますが、殿下の暴挙はあまりにも王家の名を穢しました」

マルグリッドの実家、ビッドナー子爵家はユーリエ公爵派の家である。責められるような言葉にユーリエ公爵は眉を寄せるが反論はしない。

「私としては、殿下より王子の地位を剥奪することも相応と思います」

やはりそれか、と覚悟をする。

最初の2つの議題は既に結論は決まっていた。

皆、考えることは同じかとどこか冷めた感情を抱えつつ、アーデルベルトは改めて円卓の参加者を見る。

食わせ者達は皆、感情を読ませない。



『お父様、1つお願いがございます』

『そなたがお願い事とはめずらしい』

『えぇ、とても大切なお願いなのです。王家にとっても、お父様にとってもよい話だと思いますわ』

『聞こう』



『エルンスト殿下のことです』



「そうではあるのですが、ここで王子の地位を剥奪すれば次代を担う方が、ジークヴァルト殿下のみとなります。それではあまりに心許ない。ここは王子の地位を保持したまま、王太后様の保護下に置き教育をし直されてはいかがかと

思うのですが、陛下のお考えをお聞かせいただけますか」



はっとアーデルベルトは顔を上げる。

誰の差配だと順に表情を追うが、完璧な無表情は何も読み取らせない。

エルンストの地位の保証は、アーデルベルトこそが望んだものだった。

公務の忙しさからあまりかまうことのなかった我が子だった。マルグリッドとも政略結婚で、愛情深い関係を築いてこれたわけでもない。

が、親としての憐みは多少なりとも持っている。

王子として無能との烙印を押されたエルンストが臣下に下り、生きていくことは難しい。一度臣下に降りていたこともあるアーデルベルトは、自身の子が、貴族の一員として与えられるだろうわずかばかりの領地を切り盛りできるとは思えない。それではエルンスト自身だけではなく、領民もまた不幸になる。

それに、ギュンターの言葉通りでもある。

次代がジークヴァルトだけでは心許ない。彼とその妃となる者に早く王子が生まれることが望まれるが、さりとて、今日明日というわけにもいくまい。

常にエルンストと敵対する者として警戒されていた彼は、未だ婚約者すら決まっていない。

フェルディナンドはシェイラを継妃とすることは否定した。

が、それは第2王子を直接後継者とする場合だ。

ジークヴァルトの次、という意味では、未だアーデルベルトにも種馬としての価値はある。寧ろ、望まれる。

その王子が、マルグリッドの腹から生まれるわけにはいかない。ならば、継妃を娶らなければならない。

となれば、試しに告げた言葉は真実となる。

王妃としての教育をほとんど済ませ、エルンストと破談したばかりのシェイラはその、筆頭となるだろう。年の差など関係はない、そうして、アーデルベルトの父もまた、自身の子らよりも年若いカテリーナを継妃としたのだ。

思わず、カテリーナを見る。

すると、彼女もまた、アーデルベルトを見ていた。

彼女の口元に笑みが刻まれる。

カテリーナ、そなたの差配か。

唐突に気づき、アーデルベルトは思わず喉を鳴らした。



ジークヴァルトの次など興味はない。

新たな妃など欲しくない。



「王太后様、お願いできますか」

「承知いたしました、陛下」



結局、会議は2時間ほど後、深夜に終わりを告げた。

エルンストとジークヴァルトの交代、そしてエルンストの王子の地位を保証したこの会議では、同時にマルグリッドの扱いについても決定した。

マルグリッドもまた王妃の地位を許されたが、病気療養のため、王宮を離れることが決定をした。

「王太后様」

皆がさすがに疲れた表情をして円卓を離れようとする中、王族として先に議場を離れたアーデルベルトはマルグリッドを呼び止めた。

最後は、王太弟ジークヴァルトの婚約者をどう定めるかという話となり、準備しますを請負った彼女は明日以降、速やかに次期王妃の選定に移らなければならない。

どうしたものかと思案する彼女もまた、疲れた表情を浮かべていたものの、呼び止められればすぐに凛とした笑みを刻む。背後を歩くマノントン夫人に少し離れるよう命じ、アーデルベルトに向かい合う。

「エルンストの件は、あなたの差配ですか」

「円卓の総意ですわ、陛下」

「そなたなのか、カテリーナ」

「陛下?」

つい、勢いで名を呼べば、少し困ったように首を傾げる。

しばらく考えた後、彼女は告げた。

「父にお願いをしました。ジークの地位を脅かすような王子の存在など不要なリッカ、自派の王子を地位を保持したかったユーリエ様、シェイラをあなたの継妃として差し出したくなかったフェルディナンド、皆にとってよい選択だと思いました」

笑みは消えない。

カテリーナが父王の継妃となって後、決してこの距離は変わらない。

それでもカテリーナは、ほんの少し足掻いたのだ。



「私は、あなたが新たな妃を迎えるのを見たくなかった。それが、ジークの婚約者にと望んだシェイラだなんて、認めたくなかった」

「カテリーナ」

「お許しくださいませ、アーデルベルト様」



そう言って、きれいな笑顔を浮かべたカテリーナは、アーデルベルトから背を向けた。

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