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宇宙のドゼー公爵

宇宙時代の公爵のお仕事

作者: 山家

 少し裏を交えた話になります

 結果的に準備や後始末も含めて、フランス第三帝国建国1000年式典の職務には1月余り掛かった。

 基本的に部下の官僚が全てをやってくれるとはいえ、私も名目上とはいえ責任者の1人である以上、黙ってサインだけすればいいわけではない。

 一応は内容を理解した上でサインをしないと。

 こういった点は、西暦が30世紀になった現在でも変わらない。


 事実上の娘のサラは、このために鬱屈を内心でかなり溜めた。

 元となった最初の妻と同様、宇宙を飛び回るのが好きなのだ。

 そんなサラにしてみれば、1月も地球にいるのは、半分、拷問と言って良かった。

 とはいえ、恒星間宇宙に飛び出すとなるとサラの年齢では単独では行けない。

 私と共に行く必要があるのだ。


 だから、仕事が終わり次第、共に宇宙に行こうと約束していたのだが。


 ある人物から待ったが掛かってしまった。

「いい加減、家にいるときくらいは、少し負担して、働いてから出かけて」

 言うまでもない2番目にして現在の妻、エマからである。


 ちなみにサラとエマは、遺伝子上は姉妹になるが、表向きは叔母と姪である。

 表向きは、今のサラはクローンではなく、私と最初の妻のサラの間の子で、人工子宮から産まれたことになっているからだ。

 そして、結果的に娘二人と結婚することになった私は、未だに二人の両親、ダヴー伯爵家のユーグとアンナに頭が上がらない。

(なお、今のサラがクローンだという秘密は、ユーグとアンナは知っているが、エマは知らない筈だ)


 なお、ダヴー伯爵家は地球には住んでいない。

 フランス帝国の貴族ではあるのだが、アンドロメダ銀河にあるヌフ・オルレアンという星に二人は住んでおり、ほぼ名目上だが、その星の統治者でもある。


 恒星間宇宙に人類が進出していき、更に恒星系探査を行っていく内に、人類が入植可能な惑星が発見されるにつれて、そういった惑星に人類は入植するようになった。

 何しろ基本的に5日も旅をすれば、新たな惑星にたどり着けるのだ。

 遥か昔、航空機すらなかった時代の旅を想えば、短い旅で入植可能という事である。

 また、これは未だに果たされてはいないが、恒星間宇宙を航行する異星人と接触して、それが人類に攻撃を仕掛けてきた場合に、人類が生き残れるようにと言う側面もあった。

 そして、有力な国々、米英仏日等は、それを支援、実行したのだが、問題が起こった。


 それは、どうやって本国との間の絆を維持するか、ということである。

 そして、君主国は、ある解決策を考え出した。

 入植団の団長に名誉として、爵位を与えるのだ。

 また、更なる陞爵をすることで、民間からの入植を煽るようなこともした。

 特に仏日は、それを積極的にやった。


 ダヴー伯爵家は、元々の帝国貴族だったが、22世紀末に時の当主が不祥事を起こし、爵位を失った。

 その息子が、ヌフ・オルレアンの開拓、入植に大成功したことから、かつての爵位を回復したのだ。

 そして、入植地のヌフ・オルレアンの人口が増大するにつれて、住民の自治を認め、今では基本的に、ほぼお飾りの統治者だが、名目上はヌフ・オルレアンはダヴー伯爵家の私領になっている。


 そして、何でこんな制度が未だに続いているかだが。


 星の間でトラブルが起こった際には、高貴なる者の義務として、その星の統治者が、相手の星の統治者と、まずは積極的に当事者間で話し合って和解に務めるべきだ、という慣例が未だに根強くあるからだ。

(勿論、和解ができず、フランス帝国上層部が介入することもある。

 更に、他国の入植地である星とのトラブルとなると、それぞれの国の外務省同士の話し合いにまでこじれることもたまにはある)


 また、本国と植民星との間でトラブルが起こることもある。

 そうした際に、表立たない内に内々でトラブルを収めるのも、その星の統治者の力量とされる。

 

 そして、様々な外交慣例等もあり、未だに民主共和国を標榜する米国からの植民星でさえ、こういった星間トラブルがあることから、名門とされる家系がほぼ統治を続けている星が多いくらいになっている。

 

 そうしたことから、少し話がずれるが、私の家も半ば形式上だが、現在、10の星を持っている。

 私の場合は昔からの公爵ということから、先祖が予め入植者の団長から保護を求められて、その星を私領としていったのだ。

 従って、上記のようなトラブルが起これば、処理を当然に行わねばならない。


 正直に言えば、私としては、星を全て手放して、帝国の直轄領にしたい。

 だが、先祖代々の関係があり、そういう訳には行かない。

 最近は、妻のエマにその仕事を半ば押し付けて、私はサラと宇宙に出かけることが多発している。

 私としては、妻のエマは宇宙に出ることが好きではなく、こういった仕事ができない訳では無いので、好都合だと思って、妻に半ば押し付けることを続けていたのだが。

 妻のエマは、それに鬱屈を完全に溜めていたという訳だ。


 妻を宥めるためもあり、サラから早く出かけよう、とせがまれたが、半ば渋々、更に1月程、私は地球に縛り付けられた。

 植民星同士のトラブル、また、植民星と本国とのトラブルについて、正面からのみならず、裏からも妥当な落としどころを話し合いでつけていかねばならない。

 本当にストレスが溜まる調整になった。


 こういうことをしていると、つらつらと思う事がある。

 サラが長命していたら、どうなっていただろうか。

 私とサラは宇宙を飛び回り、こういったことを疎かにしていただろう。


 サラを暗殺した犯人は、一応は各種の捜査により特定されている。

 だが、具体的な犯行動機は犯人が捕まっていないこともあり、謎のままだ。

 単なる無差別通り魔殺人等でないことは確かだ。

 幾ら恒星間宇宙船があるとはいえ、それを実際に手に入れて運行できる人間は限られる。

 そして、犯人は勤務先の会社から恒星間宇宙船を、サラが暗殺した後に盗み出して逃亡を果たした。

 だから、その時に犯人が錯乱等していなかったのは間違いない。

 では、何故にサラが狙われたのか。


 様々な捜査が行われたが、犯人とサラの間に接点は何も無かった。

 犯人は何者かに唆されて、サラを暗殺したのではないか、と考えられているが。

 その何者が誰なのかは皆目不明だ。

 様々な通信記録等が調べられたが、犯人と直接、間接の通信記録でサラ暗殺を唆すものは、結局は見つからなかった。


 案外、私の周囲の誰かが、将来のことを慮り、私とサラの結婚生活が続いたら、ろくなことにならないと考えて行動したのかもしれない。

 そんな半妄想が私の頭の中に浮かぶことがある。


 私の背中には10の星の住民の生活が懸かっているのだ。

 その総人口は、現在では軽く10億は超えている。

 それだけの住民の生活を軽んじられて、宇宙にばかり出かけられてはかなわない、という論理だ。


 人の命を何だと考えている、と言われそうだが。

 だからと言って、10億以上の人の生活が掛かっているとなると、その誰かが思いつめて暴走するのも分からないでもない、という想いが私の中に浮かんでくる。


 そんなことを想いながら、各種トラブルの処理を私は1月以上かけて行い、トラブルをある程度は落ち着けることが出来た。


「それでは、サラと出かけてくる」

「行ってらっしゃい」

 多少は機嫌を直した妻のエマとその間に生まれた子達に声を掛けて、また、私とサラは宇宙探査に出かける。

 今度、訪れる星はどんな星だろうか。

 私とサラは期待に胸を膨らませ、旅立つことにした。   

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