第95話 陽光Ⅳ
タイムイーターが風を切る速さで手を振り下ろす。下には歩夢が居る。その姿は満身創痍で、もはや『オーバーレブ』を使う余裕もないだろう。
「あぶないッ!」
由紀の同僚が気が張った声を上げ、同時に目を閉じる。ハンターの仕事に就いてから血を見る機会は増えたものの、由紀の弟が殺されるのをこの目で見るのは苦しい。
‥‥‥しばらくして、この辺り一帯の雰囲気が明るくなるのを肌で感じ取った。さっきまで聞こえていた悲鳴も、タイムイーター特有の禍々しい唸り声さえも聞こえなくなっていた。まるで、タイムイーターがこの世界から消えたように感じた。
しかし何故だろう、この感覚は初めてではない。
これは、あれだ。由紀さんの『陽光』だ。タイムイーターが一瞬にして灰と化し、この世界から消え去る最強の能力。
由紀の方を見る。
(由紀がやったんだよね?)
(何言ってるの、私は何もしないってさっき言ったじゃない。)
(え‥‥‥? ていうことは‥‥‥)
(そうだね、さっき放たれた『陽光』は確実に歩夢がやったものだよ。)
タイムイーターがいなくなったショッピングモールは閑散としていた。
「シンベル学園の教員です! 現状はどうなっているのですか!」
由紀が弟の力量を見て感嘆していたところに、シンベル学園から飛んできた教員が優里たちにかなり焦った様子で現状を尋ねた。ハンター協会が配布する戦闘服を着ていたから話かけてきたのだろう。
「遅かったですね」
「そうですね……」
深刻な顔をして二人は言った。
その表情と声を聴いて教員は察したのだろう。下を見ればそこは血の海になった惨状が広がっていると。
そう思って教員は下を覗くと‥‥‥そこは血の海、ではなく喜色満面の人々がシンベル学園と思われる生徒たちを称えていた。
その様子に、教員は
「え? どうなってるの?」
頭を?マークで埋め尽くされた。
歩夢は自分が『陽光』を放ったことを理解していなかった。危機的状況にいたが、歩夢は「絶対に負けてたまるものか。俺が絶対にこいつを討伐してやる!」と心の中で強く叫んでいた。その時に体が熱くなったところまでは記憶は鮮明だ。
しかし歩夢は、精魂尽き果てたのか膝をついた。
『歩夢!』
みんなが歩夢のところに走って駆け寄ってくる姿を、歩夢は薄目で笑みを浮かべながら見た後、安心して目を瞑った。
今回の話をもって『一夜で世界が終わるとしたら』は完結という形を取らせていただきます。
95話まで応援してくださったみなさん、本当にありがとうございました!!
今後とも烏猫秋をよろしくお願いします。




