第80話 刺客Ⅴ
俺とシズが屋根の上を全力疾走していたその頃、楓は男からかけられた催眠能力が解けて目を覚ましていた。
「ここは・・・・・・?」
楓は見知らぬ部屋の景色に、7割恐怖、3割好奇心で言葉を発した。
男が催眠能力を行使したのは、楓が男たちの存在に気付く前だったので、楓自身は未だ何が起こっているのか理解が追いついていない。
楓は座っている椅子から本能的に立ち上がろうとする。しかし、手首に何かが引っ掛かり椅子から立ち上がれない。
「何なのよ、これ!?」
乱暴ではあるが、力で引っ張りその何かを離そうとするが、全く微動だにしない。
――手錠までかけられて私、誘拐されたの!?
ここでやっと楓の理解が追いつく。
すると、楓のいる部屋の隣から男たちの声が聞こえてくる。
「会長の娘を誘拐して、何するんですか?」
「そんなこと決まっているだろう。会長の座を退いてもらうのさ」
先に喋ったのが楓に睡眠能力を行使した男だ。その声は低音で、聞いているだけでも無意識に威圧感を感じる。
そして、後に喋ったのは何者かは分からないが、声の高い男だ。口調と態度から見て、上司的立場なのは推測できる。
「どうやってそんなことを・・・・?」
「会長にとってあの娘は、たった一人の愛娘だ。つまり、あの娘のためなら何でもするということさ」
「さすがはバザール先輩です」
「そう褒めるな、正隆。本当なら金を要求したいところだが、今ここで金をもらっても仕方がない。なぜなら、僕が会長になればその後いくらでも金が入ってくるからさ」
楓は会話の内容を聞いている内に、だんだん恐怖を募らせていた。
カシャリ。
――!?
楓は不安と恐怖から体が震えて思わず手を動かしてしまい、手錠の音を鳴らしてしまった。
「起きたようですね」
「せっかくだ。会長を脅す前に、ちょっと可愛がってやるか」
「いいですね」
下卑た声が聞こえる。
男たちが立ち上がり、楓のいる部屋に足を進め始める。
ドクドクドクドク―――。
足音が大きくなるにつれて、楓の心拍数があからさまに上昇し、今すぐここから出たい! という強い願望が心の底から湧いてくる。
しかし、男たちがこの部屋に来るのは時間の問題だった。
バザールが顔を見せる。
「おはよう」
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