第9話(初戦闘)
ゲーム内での“コダカの森”に俺達はやってきた。
木々が程よく生い茂る森で、下には藪が広がっている。
視覚的にもみずみずしい緑の世界が広がり風もそよいでいて、涼しくて心地のううような気がした。
ちなみに森の中だが、こういった藪を突っ切ろうと入り込むと、体力が徐々に減っていき長時間こういった森の道なき道を歩いていくのはお勧めできないようだった。
また、体力は時間を得るごとに徐々に回復していき、僧侶キャラであるクルミが一番回復能力が高かった。
といったものを確認しながら森の方……といっても、森の中の道を歩いていくと、ゲームらしく“魔物”が現れる。
ただ俺としては、これを魔物と言っていいのだろうか? と俺は思う。
何しろ現れたのは、四体の熊だったのだから。
俺の身長よりも大きい熊だが、俺たちの前に現れた途端、体が炎に包まれる。
なんでも“火熊”という魔物であるらしい。
現れると同時に体力などと一緒に名前が表示されている。
ただどんな敵であるのかの説明は、まだ倒していないので表示されないらしい。
とはいえ、まずは初戦闘として戦ってみるのもいいだろう……そう思っているとそこで、ヨシノリが飛び出した。
あんな風に一見弱そうな見た目(現実)ではあるが、中身は真の武士であったか……などと俺がおもっていると、ヨシノリが悲鳴をあげながら次々と猫パンチ? というか、巨大な猫の縫いぐるみの手を持って熊の一匹を攻撃している。
どうやら怖くなってつい、半狂乱状態になり攻撃をしてしまったようだ。
そうか、と俺は思うも、その相手を見てというよりもとりあえず連続攻撃をしてみようといったものであるらしく……今回の魔物、“火熊”は時に左右によけ、しゃがみ込み、飛び跳ねるといった、その肉体のわりには機敏に動いている。
果たしてこれは本当に熊なのだろうか、と思うも、ヨシノリの攻撃が当たらない。
そこで疲れてしまったのかヨシノリが俺たちの方に下がり、魔物たちから距離をとる。
「う、動きが速すぎて上手く攻撃が出来ません」
「……となると、まずはの人物たちの動きを止めないといけないのか。……止まっている“的”なら、高威力攻撃も当てやすいか。……諸金浦状態だとちょっとした敵でもやけに強く感じるのはゲームでよくある展開だから、こういったことはあり得るが、さて、どうしよう」
そう俺が言うと、クルミが、
「では私は僧侶として魔法を使って足止めしてみます。炎なので氷系がいいでしょうか?」
そう言って、光の窓を呼び出して魔法を探し始める。
そこでハルカも、
「私の能力だと軽い攻撃を連続といった形になるから……私もあそこにいる人物たちを一か所にまとめるのに精を出しましょうか。……強力な攻撃は何発くらい打てそう?」
「今だと三発が限度だ。ただ45%の確率で麻痺の症状が現れて動けなくなるらしい」
「動けないなら後は殴るだから問題ないわね。……その一発で倒してくれた方がいいんだけれど」
「今の自分の能力と攻撃力がまだよく分からないんだ」
そう返すとじゃあ頑張ってねと俺ははるかに言われてしまう。
それと同時に、クルミの魔法がその四体の“火熊”の足元に引き起こされる。
青白い幾つかの光の魔法陣が輝き、そこから冷気が噴き出す。
氷の結晶を模した光の像が周囲に輝きながら散らばって、“火熊”の足元を凍り付かせていく。
それはどんどん上の方に向かおうとするも、“火熊”が抵抗しているらしく所々で氷に穴が開いてとけていく。
凝った映像表現だと俺が思っているとそこで、ハルカが走り出す。
“火熊”の目の前に現れたかと思うと、次の瞬間、刀を取り出して切りつける。
だがそれは“火熊”の熊パンチ? によって防がれる。
「切るのは無理だったみたいね。属性の付与とかそういった魔法で刀の力をあげて、後は、攻撃していくしかないか。でも打撃だけでいくらか体力は減っているみたいねっと!」
そこで横から別の“火熊”がハルカに向かって腕を振り下ろす。
避けられない至近距離……と思ったが、きづけば服を来た丸太に変わっていた。
どうやらNINJA特有の?変わり身の術であるらしい。
そのおかげで体力の極端な低下は避けられたようだ。
そしてそのおかげで俺も技がようやくつかえるようになる。
つまり、
「クルミ、ハルカ、下がっていてくれ! ……“烈風迅雷”」
そう言って俺が、持っていたものの中で一番重量が重く、その分攻撃力の強い剣に魔法を付与して攻撃を行う。
こうすると強力な雷攻撃になるらしい。
細かい設定が以前見た時には書いてあり、剣自体に魔法を増幅させるとかなんとか。
そういった内容を思い出しているとそこで、目をつむりたくなるような光の斬撃が目の前に降り注がれる。
ぐおおおおお
そんな“火熊”の声が聞こえた。
うめくような声がして、そこで二匹ほど“火熊”が倒される。
すると袋のようなものが二つと小さなものと大きなものの赤い宝箱が地面に落ちる。
どうやら倒した後のアイテムらしい。
また、残りの二匹も体力はそこまで残っていないように見える。
しかも両方とも痺れて動けない。
俺の方で先ほどの技をもう一度頑張ってみてもいいのだが、技発動に時間がかかるのもあるが、こういった魔法を発動させるための魔力……そういったものもかなり減ってしまう。
それならば、また“火熊”に襲われた時に備えて俺は力を温存し、他の三人にお任せして良いかもしれない。
むしろその方がいいだろう。
そう瞬時に考えた俺は、
「クルミ、ハルカ……そしてヨシノリはいけそうか?」
「だ、大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「では、残りはよろしく!」
「「「了解」」」
俺の言葉にそう答えて、数秒後、最後の“火熊”を倒したのだった。
どうにか倒した俺達は、現在経験値が大量に入ってきていた。
選んだキャラクターによってその経験値が同じであっても、レベルの上がり方が変わる。
そのためにレベルが上がって覚えられる技や装備が変わってくるが……ここまで職業などが違うと、もうその職業の違いが出ているだけなのだろう。
とはいえ10以上のレベルに一気になるというのは、倒した敵がちょっと強そうだったと控えめに見ても多すぎる気がする。
となるとと俺は考えながら、
「お試し版なので成長しやすいよう設定されているのかもしれない」
そう俺が推論を述べると、クルミたちもありそうだねといった話になる。
これならばどんどん敵を倒して強くなったラそれはそれで楽しそうだよね、といったクルミの言葉を聞きながら俺は頷いて……そこでハタと気づいた。
そう、俺は途中でフェードアウトしなければならないのである。
そう思いながら俺はそろそろどれくらいフェードアウトしたかを見に行くも、
「やはりそれほど脱落者はいないようだな」
「あれからまだそんなに時間もたっていないからそうなんじゃない?」
クルミの答えを聞きながら俺は呻き、
「そうだな。やっぱり最後は人間同士の戦いか」
そう呟きながら、うまく他の人にあったら攻撃を受けるようにしようと心の中で決める。
そこで、先ほどから敵の落としたものを物色して……正確には勝手にどこかに収納されたものを確認していたらしいハルカが、
「すごいよ、8万円近く手に入って、幾つか装備も……でも私の場合、この装備では強くなれないな」
「私もです」
ハルカとクルミがそう言う。
そして俺が見ると、そこそこ能力が上昇しそうだったので、
「二人は初期装備がよかったのか?」
と俺は聞いてしまった。
それにクルミがさっと俺から顔を背けて、そしてハルカが、
「いや? 女の子の場合、ちょっと露出度が高い格好をすると、防御が減る分、精霊さん? が魅了されて集まってくるので攻撃が当たりにくいの。そいかも当たってもそこまでダメージがないの。という設定の服を私達は選んでいるから」
「そうなのか。女の子キャラにそんなものが……待てよ? そうなるとクルミも……」
そう思って俺がクルミを見るとクルミが、
「……ミニスカートニーソになったの。で、でもこれくらいなら普通にラノベとかでもあるから、わ、私が“痴女”ってわけじゃないから」
「そ、そうだな。うん、とするとヨシノリみたいに普通ならスカートが長くなるのか」
「そ、そうよ」
俺はクルミが焦って必死に言うのを聞きながら俺は、僧侶キャラは露出がやや少ない気がするな、と思って少し残念な気持ちになったのだった。