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第8話(嫁?)

 ここで俺は、ゲーム内とはいえ好きな女子に、“お嫁さんにして”と言われてしまった。

 嫁。

 そう、嫁である。


 今までに次元的な意味で可愛い子には“俺の嫁”といったようなものは多々あったが、ここは二次元世界である……いや、3Dだから三次元になるのか? いや、でもゲームの世界だから二次元だとも考えられるが、中には人間が操作しているようなものなので2.5次元である。

 その相手が現実に存在する初恋の相手ともなれば、俺の困惑と混乱ぶりは十分お分かりいただけるだろう。


 しかも告白する勇気がなくて、でもつい願いの部分に書いてしまう程度に俺は悩んでいた。

 だが、よくよく考えてみればあの願いの部分がもし実行されたならどうなるのだろう?

 現実的な範囲で願いをかなえるといっていたが、金銭的な意味でそれは不可能なものだ。


 待て、待てよ?

 そうなると、最高の? 告白するシチュエーションをを整えられてしまうとか、そんな感じなのか?

 なんかこう俺たちの青春、というような校舎裏や屋上での告白といったようなものではなくて、青年向け漫画に出てくるようななんか高そうなお店で夜景を見ながらお酒……いや、俺達はまだ未成年なのでお酒は飲めないがあんな感じで告白をするのか?


 あれだ、昔何処か漫画か何かで見た、“君の瞳に完敗”とかそんな感じか?

 いや、むしろ謎のステージのようなものが作られて、周りに花が飾られて公、告白シーンが実況レポートがされる感じで……。

 そこまで考えた俺は、衝撃的な展開に耐えられず、絶対に途中で俺はさり気なくフェードアウトしようと決めた。


 強力な武器を一つ手に入れたが、これを使う機会がないのは非常に残念だが仕方があるまい。

 俺の人生の全てが……とは言わないが、学園生活と……あと、そんなシーンがもしあった場合に、クルミに告白してふられでもしたら一生立ち直れない。

 そこまで幾つものパターンをイメージした俺は、これ以上考えないようにしようと心の中で決めた。


 まずは今、クルミに言われたことを真剣に考え……考え……。

 俺はもう一度問いかける。


「嫁、か」

「うん、タツヤのお嫁さんにして欲しんだけれど駄目かな?」


 俺はまず、もしかしたら俺の都合のいい方向に聞き間違えをしているのではないかという疑惑をもって再度問い合わせてみた。

 だが再び聞いたクルミの答えは同じで、“嫁”であるらしい。

 なんで、どうして?


 その前にいくつもの工程があるだろうと俺は混乱しながら、


「嫁はちょっと……」

「え? ほ、他にしたい人がいるの? ……他に“嫁”にしたい“女”がいるの?」


 クルミの声の感じが怖いことになっているが、ここで気おされてしまってはいけない気がしたけれど、かといって他に好きな人間がいるとクルミに思われるのはもっと困る。

 だから俺は、


「ほかに“嫁”にしたい人間がいるわけじゃないから」

「そ、そっか。じゃ、じゃあなんで駄目なの?」


 そう言って、俺に近づいてきて下から見上げるようにクルミが問い詰めてくる。

 身長が俺よりもクルミが低いせいもあるが、なんというか、この角度はあざとい。

 なんという行動をとるのだ、と俺は心の中で悲鳴を上げているとそこでクルミが、


「そ、そうか、属性……属性ね、属性が問題なのね!」

「え? 属性?」

「そうそう。見た限りではタツヤは人間の“闇”属性みたいだもの」


 そう言われて俺は一瞬びくりとしてしまった。

 いや……なんとなく中二っぽいというか“闇の魔法戦士”という響きに心がくすぐられるものが……。

 いえない、そんなので選んだなんて言えない。

 などと俺が思っているとクルミが、


「タツヤそう言った“暗黒の~”みたいなもの、昔から好きだったものね」

「……イエイエソンナコトハアリマセヌ」

「恥ずかしがらなくてもいいよ。幼馴染だからずっと……その、見ていたし」


 そう言ってクルミが恥ずかしそうに頬を染めて髪をいじりながらそういう。

 俺は、心に大きなダメージを負った。

 そう、男ならば途中で一度程度なら経過してしまう黒歴史を俺は……俺は、幼馴染で初恋の相手に全て知られてしまっているのである。


 なぜあの時の俺は、その闇の歴史をクルミの前で公開してしまったのか?

 幼馴染として油断してしまっていたのだろう。

 こんな事になるなら絶対にそんなもの見せなかったのに!


 俺の羞恥心が更に傷んで……少し気持ちがよくなってきたような錯覚を覚える。

 そう思って黙っているとクルミが、


「そ、それでその、それとも実は“光属性”だったりするのかな? タツヤはさ。……だ、だったら、何の属性だと、お嫁さんにしてくれますか?」

「……えっと、俺の属性は“闇”です」


 そろそろクルミが何を言いたいのか分からなくなったと俺は思いながらとりあえずそういうとクルミが、


「そ、そう、それでね、タツヤは属性が“闇”じゃない? それで私は治癒とかそういった魔法だから“光”の属性を選んでおいたのだけれど、確か、同じ属性の方が“花嫁契約エンゲージシステム”では、効果が出やすかったんだよね?」


 そこでクルミの言った言葉に脳内が一瞬凍り付きかけた俺だがすぐに気付く。


「……ああ、“花嫁契約エンゲージシステムか。そういえばそんなものがあったな」


 そう俺は今更ながらこのゲーム内にあった別機能を思い出す。

 “花嫁契約エンゲージシステム

 その名の通り、一対一で、結ばれることにより力を発揮する能力である。


 これは性別は特に関係はなく、男女だけでなく、女女、男男でも結ぶ事が出来るらしい。

 そして、その機能を結ぶと、途中で解除すると一番初めからになってしまうが、(友達以上恋人未満→恋人→婚約→結婚)といった形で進化していくらしい。

 ちなみに友達以上恋人未満が初期状態であるらしい。


 他にもいくつか隠しボーナスがあるとの事だが、それがどういったものかは公開されていない。

 ともあれ、そのシステムでは属性も同じものであれば進化するたびに、1.3、1.5、2倍といった形で能力が高くなる。

 だが属性が違うと、1.2、1.4、1.5倍といったように最高値がやや低下してしまう傾向になるとのこと。


 ちなみに今後はどうなるかは不明だそうだ。

 そう言ったゲーム内の設定についてようやく思い出した俺は深く息を吐いてからクルミに、


「いきなり“お嫁さん”ていうから、何事かと思った」

「な、なによ。ま、まさか本当にお嫁さんだと思ったの! け、結婚とかそういうのはまだ私達には早いじゃない、ば、ばか、何を考えているのよ!」

「そ、そうだよな。うん、ああ、驚いた」


 そう俺はお互い言い合って頷く。

 俺も、好きな相手だから変に反応しているなと思う。

 悟られるのもい恥ずかしいので気を付けないとと心の中で俺は真剣に繰り返す。


 そんな俺達をハルカと ヨシノリはなぜか含みをあるようにじっと……ハルカだけだがにやにや笑いながら見ている。

 なんだ、何がそんなにおかしいんだ。


 俺はそう思っているとそこでクルミが、


「それでどうする? もし“闇”属性がいいなら属性を変えるけれど、どうだろう?」

「え、そんなに属性が変えられるのか?」

「うん、“人間”で“僧侶”を私は選んだから、特殊能力(闇落ち)が使えて、闇属性になれるんだよ」

「闇落ち……それでもう光に戻れないのか?」

「うんん、光落ち、っていうのがあるから大丈夫だと思う」

「……でも光落ちしたりといった属性を変換すると、この“花嫁契約エンゲージシステムがリセットされたりしないのか?」

「それは説明にはないわね」

「となると後でかえるのは難しいか。それで光属性の方が治癒系の魔法は多いのか?」

「調べてみる」


 そう言ってクルミが能力を調べ始めた。

 光のウィンドウが彼女の前に現れる。

 なんでも暗く表示されているのは現在の属性やレベルでは使えない技で、その横にある二つのマークの部分が、光属性と闇属性を示すらしい――太陽と月のマークがついている。


 俺も近くで見る限りは、闇の属性になると使える魔法が大幅に減少しているようだった。

 もっとも、幾つか強力な技が使えるようになるようだったが、見た範囲だと俺は考えて、


「これならそのままの方がいいな。じゃあこの状態で俺達は“花嫁契約エンゲージシステム”を使おうか。でも俺じゃなくて、ハルカとかそういうのでもいいんじゃないのか?」


 誤解されても困るだろうしと思って俺が聞くとクルミが、


「べ、別に、お、幼馴染だし、タツヤが心配だからやってあげようと思っていただけだし、それ以上の意図はないわ」

「なんでここで微妙にツンデレなんだ? 普通に心配だったから、でいいじゃないか」

「う、うるさいわね。い、異性だから誤解がないように、といった配慮なだけで……べ、べつに本当にタツヤが“好き”というか、そ、それは幼馴染としての好きなだけで会って、ほ、本当に“結婚したい”そういったわけじゃないから、か、勘違いしないでよね」

「いや、それは分かっているが、なんでそんな焦っているんだ? というか、ツンデレっぽいことを言っている気がするぞ?」

「だ、だいたいタツヤはツンデレ属性が好きだったんだからいいじゃない」

「え?」

「な、なんでもない」


 そう言い切ったクルミ。

 どうやら結婚だのなんだのといった言葉に反応しているようだ。

 やっぱり女の子だからそう言ったものに興味があるのだろう、クルミも可愛いな~、などと俺は思いながら先ほどの“花嫁契約エンゲージシステム”を起動させる。

 

 後は、クルミと手を合わせて言葉を発すればいいだけだ。

 そこで俺が手を差し伸べると、クルミが恥ずかしがるような躊躇するように頬を赤らめて、俺に手を重ねてくる。

 その可愛い様子に俺が悶絶しそうになりながら、手を重ねて、


「「花嫁契約エンゲージシステム」」


 そう呟くと重ねた手から白い光があふれだして、俺とクルミの手の甲に印が現れる。

 これでそう言ったものは完了したらしい。

 クルミは俺と自分の手の印を見てから、


「左右反転した形になっているんだね」

「そうみたいだ。しかもこの印、それぞれ違うらしいな」

「う、うん。こ、これからよろしく」


 そう小さな声でクルミが言って、それに俺が頷くと……、そこでそれまでの状況をにやにやと笑いながら見守っていたハルカが、


「それで、ようやく“花嫁契約エンゲージシステム”が出来たみたいだけれど、能力はどうなった?」


 俺達に聞いてきたので自身の能力値について確認すると、俺の能力は、


「確かに全部上がっているな。これはいいかも」

「どれどれ~、あ、私の値にだいぶ近づいている。これは私もやろうかな? ……ヨシノリ、私とやらない?」


 そう、ハルカが何でもない事のようにそう言った。

 一方、ヨシノリはというと、


「え、え? いや、えっと……」

「どうせゲーム内の出来事だから、そんなに深く考えなくてもいいんじゃないかな? とりあえず私も勝利したいし。ヨシノリだってそうでしょう?」

「え、えっと……はい」


 ヨシノリは微妙そうにそう答えた。

 その様子から俺は、ひょっとすると俺のように何か変な願い事を書いてしまったのではないかと推察する。

 仲間だ、仲間がいた。


 そう思っているとそこでハルカが、


「じゃあ、“花嫁契約エンゲージシステム”してもいいよね。というわけでこれからよろしく」

「は、はい」


 と言って二人が“花嫁契約エンゲージシステム”をして、能力が膨れ上がる。

 これで一通り俺たちの内部での情報交換と、出来うる初期設定は終わった。

 後はただ戦闘をして、途中で俺はフェードアウトするだけだ。


 そういえば今どれくらい残っているのだろうか?

 そう俺は思って現在の状況を見てみると、


「まだほとんど倒されてないみたいだな。“男は殺せ!”みたいな雰囲気になっていたが……以外に逃げ足がみんな速いのか?」


 意外に倒されていないのを見て俺がそう呟くとクルミも頷いて、


「そうみたい。今倒されたのまだ三人くらいだし……ゲーム機が欲しいとかそんなものばかりだね。今の所女子の制服を所望した人物はいないみたい。消えていないもの」


 そう言うと、ヨシノリが何となくそわそわしているように見えたが……おそらくは気のせいだろう。

 何しろ彼は現実世界では、“可愛い”と言われてしまう男子だから、そのコンプレックスを考えてしまうとそれはないだろうと容易に推測できる、と俺は考えてから、


「でもどうしてこんなにみんな逃げるのがうまいんだろうな?」


 といった疑問を口にするとハルカがそこで当然よと言わんばかりに笑って、


「人間の方が厳しんじゃない? ほら、ゲーム内のAI相手だと結構手を抜いてくれるから倒すのは楽な方だけれど、人間同士の対戦だとお互い本気を出だしすぎて大変なことになるでしょう?」

「……みんな基本的に負けず嫌いだからな。でもそれが楽しんだよな。対戦だと相手が予想外の動きをするから。そしてそれを俺も学習する」

「そうそう。さて、じゃあそろそろ、次はどこに行こうか決めようか」


 ハルカの提案に、俺達はこの世界のマップを開く。

 テストプレイの関係で、行ける範囲は幾つかに限定されているが……それらを見ながら、俺たちの現在地と比較して俺は、


「“コダカの森”が一番近いな。ここで魔物などとクラスメイトを倒すか何かして、しばらくすれば……人が減ったところで街にもお買い物に行ってみるか? 人数が少なければ鉢合わせる確率も減るだろうし。クルミはどうだ?」

「それもそうだね。もっているお金もそこまで多くないし……私なんて、500えんだよ」


 クルミの答えに、ヨシノリは200えん、ハルカは8000えんと判明したのはいいとして。

 そう言って自分たちの持っている資金を確認してから、これでは武器は揃えられないんじゃないかと、いった話になる。

 だって他の三人よりも俺が持っていた資金は少なくて……100えんだったし。


 武器といった物が全員、買えない予感しかしない。

 そう言った話をしながら俺達は早速、資金調達も兼ねて“コダカの森”へと向かっていったのだった。


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