第5話(納得してもらえた)
平見玖瑠美は俺の幼馴染である。
稀に見る家が隣同士の幼馴染という、俺に対して聞いた人物は、大抵、物語のようだという。
だが現実はと糸普通の友人と変わらなかったように思う。
否。
そもそも玖瑠美を“女の子”としてみていなかった気がする。
男勝りでツンデレな彼女は、俺の親友のようなものだった。
なんでも女子には一時期ではあるが男子よりも力が強くなる……そんな力関係が逆転する時期があるらしい。
そう言った時期を経験すると、自分の近くにいた玖瑠美は“女の子”というよりは“兄弟”のようなものだった。
だから、俺自身はそんなに気にしていたわけではなかったのだ。
帰り道が一緒だからと言って一緒に帰りつつ、小学校中学高校と一緒にきていた。
当たり前に近くにいる、空気のような普段意識はしないけれど必要なもののようなそんな感じではあった。
だが、ある日珍しく玖瑠美が、新しいヘアピンを購入したのだと話して俺に見せてきたのだ。
花のモチーフがついた白いヘアピンだったが、“可愛い”物に見えたので普通に褒めたら玖瑠美が早速つけてみるといって、髪につけた。
「に、似合うかな」
「可愛いんじゃないのか?」
「そ、そっか~……」
といった、ただそれだけの会話だった。
だが、その時その……玖瑠美がすごくうれしそうに笑ったのだ。
それがやけに可愛く見えて、頭から離れなくて、しばらく玖瑠美との会話も上手く出来なかった気がする。
だってそれ以降、いつもよりも玖瑠美が可愛く見えて仕方がなくなってしまったから。
いったい俺はどうしてしまったんだ、というわけでネットで検索などをした結果、俺は玖瑠美に“恋”をしているのだという事が判明した。
まさか俺がそんな事になっているなんて……などといろいろと悶々と悩んだ俺は、とりあえず問題は先送りにすることに下のである。
だがそれでも気にしていたらしく今回のような失敗をして、そして……現在俺は、初恋の彼女に“変態”のレッテルを張られようとしているのである。
どうして俺を犯人だと思ったのか?
逃げたからという単純な理由からなのか?
それとも、元々俺にはそういった“変態性”があると玖瑠美は思っていたのだろうか?
俺の中に不安が湧き出る水が噴出するように降り注ぐ。
そこで玖瑠美がもじもじしながら、
「そ、そんなに辰也がその……女子の制服が気になるんだったら、えっと……わ、私の制服でも、いい、よ?」
と、生暖かいような答えが返ってきた。
それに俺は絶望する。
やはり。
俺は。
彼女に。
女子の制服を求めて何かをしようとする“変態”だと思われていたようだ。
俺の初恋という名の甘酸っぱい思い出が、崩れ去っていくのを感じる。
だがそこで玖瑠美が、
「それとも、他に欲しい“女”の制服もいあるの?」
「え、いや、俺、そもそも女子の制服が欲しいって書いていないし」
「え? そうなの?」
「そうそう。だから口に出しても今のところペナルティは課されていないだろう?」
「あ、確かに自分の願いを言うと、体力がゼロになるんだっけ。そっか……」
俺の言葉に玖瑠美はようやく納得してくれたようだったのだった。