第一話
とある鬱蒼とした森の中にその女はあった
女の名前は無い 名付けるべき者も存在しなかった
名無しの女 しかし彼女の事を知る者は、言う
「森の魔女に気をつけろ」
女は森の中で自身が持つ不可思議な力を使い、人目を偲んで生きてきた
女の肌は常人の者とは違う、女の目も同じ
そして彼女の爪は長く、口元からは大きな牙が剥き出しになっている
女の容姿はその異様ささえ除けば美麗であった
しかしそれ以外の要素が彼女の精神を汚し、傷付けていた
生まれた瞬間に森に投げ捨てられた それが「森の魔女」こと彼女だった
彼女は今まで他人から奇異の目で見られ、迫害され
行き場所を失っていく日々を過ごしていた
しかし、それはもう過去の話
女は村の人間が「魔女の森」と恐れている森に一人で隠れ住む
誰にも邪魔されない、たった一人の空間 そこには迫害してくる者など居ない
その代わり、彼女はいつでも孤独だった…
「ん……?」
ふと女の六感が森の中で自分以外の「人間」が居る事を察知する
(また誰かが迷い込んできたか…)
女はその力で自分の「領域」に近づいた存在を察知すると
「それ」を排除するべく、静かに目を閉じた
「やあ」
目を閉じた瞬間、耳元で何かがささやいた