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第八話 思わず見惚れてしまう


「う……?」


 部屋を出てまもなく、背後に気配を感じて振り返ろうとしたら何者かに羽交い絞めにされてしまった。


「動くな、殺すぞ……」


 相当に強い力だ。動けない。強盗か……?


「なんの真似だ……。金か?」


「こっちを向け。この男に見覚えがあるだろう」


「……な、何?」


 俺の目の前に出てきたもう一人の男は、確かに見覚えがあった。マスクをつけているが、その醜悪な面は憎悪に満ちた目元からも察することができた。


「俺の顔、返せ……」


「おいおい、なんで俺がやったってわかるんだよ」


「しらばっくれるな! お前に触れられてから俺はブサイクになったんだ! 何か変な術を使ったんだろうが!」


 物凄い剣幕だ。今にも血管が破裂しそうなほど顔を真っ赤にしている。なるほど、殺し屋かなんかを雇って美貌を取り戻しにきたってわけか。


「よく探し当てたな?」


 自然と笑みが浮かんでしまう。もう逃げも隠れもする必要はないしな。この手袋さえあれば俺はなんだってやれるんだ……。


「それだけ目立つ顔してんだからすぐわかるんだよ! 俺がそうだったんだからよ!」


「なるほどなあ。でも、今のお前だってある意味目立ってるだろ? 今までイケメンで得ばかりしてきたんだろうからそれくらいは我慢しろよ」


 ある意味、注目される運命だったんだなこの男は。


「クソッタレ、顔泥棒が! 早く俺の顔を元に戻せ! さもないと……」


「さもないと?」


「殺す! 早くしろ!」


「そりゃ困る。でも、戻し方わからないんだよ。残念だったな」


「……はあ? 嘘だ、嘘だ……」


 今度は顔を青くしてガクガク震えてる。信号機かこいつは。この男にとって美貌がどれだけ大事だったかわかる。ちょっと可哀想になってきたな。


「……す……」


「ん?」


「殺す……殺してやる……」


 前言撤回だ。やつの目は本気だった。本当に殺すつもりかよ。こんなやつに同情することはない。


「なら、ひとおもいにやりますか?」


「頼む、こいつを殺せば元に戻る可能性に賭ける……!」


「了解」


「うぐ……」


 首を絞められている。凄い力だ。だが、相手が悪かったな。お前の最も大切なお宝を奪ってやるぞ……。もしそれが命なら……俺が触っただけで即死だな。


「……あれ? なんで……」


「お、おい、どうした? 早く顔泥棒を殺せ!」


「力が、力が入らない……」


「はあ……?」


 やつの腕に手袋で触れると、絞める力が嘘のように弱くなった。逆に自分の体に力が籠もるのを感じる。そうか……この殺し屋にとって最高の宝は鍛え上げた体だったわけだ。


「オラッ!」


「うぎっ……!?」


 やつの手を容易に振り解き、ブヨブヨになった元筋肉マンの腹に鉄拳をめり込ませる。たった一発なのに白目剥いてピンクの泡まで吹いちゃってるな。内臓損傷してそうだ……。


「ひ、ひ……」


 元イケメンのブサイクが後ずさりしている。さて、俺を殺そうとしたんだからお仕置きが必要だよな。


「お前、美貌の次は何がお宝なんだ? 顔の次は何を盗まれたいんだ?」


 最も大切な宝物を盗られたとして、自分の中で財宝が全部なくなるわけじゃない。二番目に大切なものが一番目に繰り上がるわけだ。んで俺はそれをいとも簡単に奪えるということ。


「た、助けてくれ……」


「マスクをとれ」


「嫌だ、嫌だ……あっ!」


 無理やりマスクを奪い取ってやった。涙に濡れたブサイクな面を見て失笑してしまう。


「お前、ブッサイクだなあ」


「ぐぐっ……ゆ、許してくれ……」


 俺を殴りたくてしょうがないんだろうが、よく言えたな。最高に屈辱のようだがそれ以上に大事なお宝を奪われる恐怖が強いのだろう。


「残念だが許すわけにはいかない。お前は俺に喧嘩を売って、俺はそれを買っただけ」


「え。しょんな……」


「喧嘩にルールなんてないんだよ。なんでもありなんだ。だから、俺なりに始末をつける」


「――い、嫌だ、嫌だあああ!」


 逃げようとするやつの前に瞬時に回り込む。《加速》も使ってないのにこのスピード。殺し屋め、素晴らしい筋力だな、気に入ったぞ。


「ひ、ひいぃ……」


「力こそ正義だ。覚えておけ」


 怯えて座り込んだやつの顔を手袋で掴むと、その姿が徐々に縮み出した。なんだこりゃ……よぼよぼの老人になってしまった。若さという宝を奪ったってわけか、なるほど。


「ふ、ふが……?」


「喜べ。お前の醜い心身に相応しい老人になったぞ」


「べ……?」


 やつを引き摺るようにして洗面所まで案内し、鏡を見せてやったらすぐに失神してしまった。ついでに失禁までしてやがる。くっさ……。よっぽどショックだったんだな。目が覚めたら、おむつでも履いてひっそりと生きていくことだ。


 それとは対照的に俺は若くてイケメンでマッチョで……思わず見惚れてしまう。いかんいかん、ナルシストだなこりゃ。


「それじゃ、ありがとさん」


 哀れなブサイク老人の肩を左手でポンと叩き、俺は口笛を吹きながら部屋を後にした。

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