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第七話 いつかお前らを引き摺り落としてやる


「どうか……お恵みください。愛娘を治療するための費用がいるんです……」


 電車が来るタイミングで足元に口座番号に繋がるメールアドレスが書かれた紙を置き、ひざまずくと面白いようにパーソナルカードに送金されるのがわかった。これがもしブサイクだったらまったく相手にされないのはわかりきっている。


「頑張ってくださいね」


「お辛いでしょう」


「はい……うぐっ……」


 溢れそうだ。金も笑いも嬉し涙も。ブサイクは悪でありイケメンは正義ということだ。例外もあるだろうがそんなの知ったことか。基本的に人はなんでもかんでも見た目で判断する。結局は理性でなく感情で動く。悲劇のヒロインがブサイクだったら同情以前に誰も見ないだろう。


 ……さて、これくらいでいいか。俺は立ち上がり、何度もわざとらしくよろけながらその場を後にした。


「――ウププッ……」


 油断すると笑いがこみあげてしまう。トイレの個室でパーソナルカードを確認すると、あの短時間で3万ほど貯まっているのがわかった。美味すぎる……。


 って、あれ。いつの間にかカードの色が白から灰色になっている……? そ、そうか、S級アイテムを所持したことで探求者としてのランクが跳ね上がったんだ。


 まさか俺がグレーカードの所有者になれるなんてな……。まだ最下位のFランクとはいえ、これは一般的なホワイトカードのSランクより強いことを意味しているんだ。


 グレーカードになると、よほど暴れない限り治安維持部隊さえ動かないと聞くから今の俺がどれほどヤバイかがよくわかる。こんなのを周りのやつらに見せたらみんな真っ青になるだろうな。これから町に出向くんだ。気持ちよく買い物したいからカードは隠しておこう。


「――うーむ……」


 手に入れた金で探求者専用のレザージャケットを買ったんだが、やはり風呂にもまったく入ってないので臭いが気になる。よし、近くのホテルに泊まるとするか。




 ◇◇◇




「ふー……」


 久々の風呂を味わって実にさっぱりした。体を洗うこと自体はたまにしてたんだが、濡れ雑巾で体を吹く程度だったからな。鏡の前で髭を剃ってみると本当にイケメンなのが改めてよくわかる。以前は鏡を見るなんて行為は苦痛でしかなかったが、こうも整ってると何度見ても飽きないな。


 さて、気分爽快になったところでテレビでも見るか。これも何年振りかな。


『新階層についてはさすがの英雄たちも苦労してるみたいですねえ』


 バラエティ番組をやっている。駅前ダンジョンについての考察らしい。英雄ですら新階層の攻略にもたついているようだ。遺跡評論家とかいう偉そうな初老の男がコホンと咳払いしたのち、1000階層以降に出てくるというモンスターの特徴を語り始めたが、俺にはちんぷんかんぷんだった。もうダンジョンを離れて久しいからな。


『えー、みなさんありがとうございました。いやー、凄いですねえ。それこそ不老不死の薬でもないと、こんなところじゃ命が幾つあっても足りませんなあ。それでは一旦CMでーす』


 不老不死……。そこで思わずあの手袋に目をやる。このアイテムも同等、いやそれ以上のものなんだよな。見るだけで震えてしまいそうだ……。


『――えー、次は英雄たちの素顔に迫るお話ですが、その前に1000階層到達時のパレードの様子からご覧ください!』


「……」


 鬱陶しいだけのCMが終わると、テレビに畜生どもが映し出された。水谷皇樹、白崎丈瑠、河波琉璃だ。やつら、5年前から何も変わってない。


 紙吹雪と歓声に揉まれながらおもむろに前進するオープンカーにカメラがズームアップされる。水谷が薄気味の悪い笑みを周囲に投げかけていて吐き気がした。丈瑠と琉璃に至っては仲睦まじく手をつなぎ、幸せの絶頂にいる様子だ。クソッ、アイドルにでもなった気分かよ。ん? ここで町の人の声だと?


『白崎丈瑠さんと河波琉璃さんって、理想のカップルだと思います!』


『憧れちゃいますね!』


『水谷さんに握手してもらったんですよ! もう手を洗えないですね!』


「クソが……」


 やつと握手するくらいならクソを掴んだほうがマシだ……っと、いかんいかん、冷静になれ、俺。これじゃ劣等感の塊みたいであまりにも惨めじゃないか。


 ……大丈夫。俺にはこの手袋がある。今に見てろよ……お前らは今が頂点だろうが、これからは一方的に落ちていくだけだ。この手袋でいつかお前らを引き摺り落としてやる。大事なものを干からびるまで奪いつくしてやる。

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