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第四十九話 自分に言い聞かせる意味合いもあったんだろう


「理沙……!?」


 一番恐れていることが起きてしまった。俺たちが鑑定屋に飛び込んだときにはもうそこはもぬけの殻で、酷く荒らされた形跡があるだけでなく、手紙が目立つ場所に置かれているのがわかった。


「――り、理沙ちゃん……あたいが悪いんだ。もっと……もっとあたいが気を付けていればぁ……」


「お、鬼婆、大丈夫でやんすよ。理沙ちゃんみたいな良い子、どんな悪魔だって危害を加えようなんて思うわけがねえ……」


 駄菓子屋の二階は、これまでにないほど重々しい空気に包まれていた。鬼婆が部屋の片隅で可哀想なくらい小さくなってるのが印象的で、普段喧嘩ばかりのコージが慰めてるという、それまでは想像もできない光景が広がっていた。六さんはなんていうか、いつもより控えめだがやっぱり写真を撮ってて闇を感じる。


「鬼婆、元気出すっす。おいどんには真壁どんがいるし、理沙っちを絶対無事に帰してくれるって信じちょる」


「……」


 確かに、六さんの言うように理沙を生きて帰すことは簡単というか、不老不死だし確定的だと思うが、問題はそこじゃないんだ。彼女が強いストレスを感じることによって、インヴィジブルデビルに戻るかどうかだけが心配なんだ。駆けつけてきた流華もそれがわかるのか、不安げな顔でずっと押し黙っている。これは想像以上に深刻な事態になってるってことだ。


「――今から手紙を読む」


 しばらくして、少し空気が落ち着いてきた頃を見計らって俺はそう宣言した。みんな食い入るように注目してくる。理沙がどれだけ愛されていたかがよくわかるな。


「鑑定屋の子は、我々英雄の信者が人質として確かに預かった。無事に返してほしくば、明日の夕方六時、最寄りの工場へ我々の要求するものを持参して来ること。それは、例の新聞記者が以前載せた英雄に関する記事について撤回することを示した謝罪文、サインまでを記した原稿である。もし要求に応じない場合、またはメディア等にこれを公にした場合、清廉潔白な英雄を侮辱した罪により、人質の命は補償しないものとする……」


「「「「……」」」」


 俺が犯行声明を読み上げたあとに訪れたコージ、六さん、鬼婆、流華の沈黙こそが、犯人に対しての怒りがどれほど凄まじいかを物語っていた。まさに頭に血が上って目の前が真っ白になる感覚。こんなくだらない英雄のクソみたいなプライドを守るために理沙が拉致されたのかと思うと、やりきれない気持ちで胸が一杯になった。一生懸命種から育てた花を目の前で踏み潰されたような理不尽な心境だ。


「……何が英雄だよ、まったく。あたい、久々に頭に来たよ……」


「鬼婆の言う通りでやんす! 無差別殺人の上に、暴露した新聞社に対する圧力、人質作戦……こんなの、英雄どころか人間ですらない、悪魔みてえなもんでしょうに……!」


「「……」」


 俺と流華の目が合ってしまって、互いに逸らす形になった。もしこのまま本当の悪魔が復活することになれば、さらなる悲劇が待ち受けていることだろう。それだけは絶対に避けなくてはならない……。


「真壁君、あたいは命に代えてでも理沙ちゃんを救いたいけど、こればっかりは人質にされてるもんだからどうにもなりゃしない。けど、あんたなら……あんたならなんとかしてくれる気がするんだ。無責任な言い方かもしれないけどね、そう強く思うのさ……。だから、頼む! 理沙ちゃんを救い出しておくれ……!」


「……ああ、わかった。鬼婆、俺が絶対になんとかする……」


 涙目で土下座してきた鬼婆の台詞で、俺は()()()()をひらめいたものの、それはできない。だから、今の時点で何か良い作戦があるというわけでもない。


 だが、みんなの思いを代弁したかのような鬼婆の熱い言動に対して、俺は自然にそう返していた。これは、俺自身も理沙を早く助けてやりたいと心の底から願っていて、自分に言い聞かせる意味合いもあったんだろう……。

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